紅の少女と銀華の少年

健杜

プロローグ

 少女がいた。

 銀色の長い髪に、ルビーを埋め込んだような輝きの赤い瞳をした十四才の少女だ。

 身長は百四十センチほどなのだが、彼女は異常だった。

 見た目がおかしいかと聞かれれば否、人形のように美しく整った顔、白いワンピース、陶器のように白い肌、これだけ聞けばおかしな要素は一つもない。

 だが、ここに一つ足すだけで、異常さが伝わるだろう。

 彼女が裸足で立っているその場所は、周囲一体雪景色の山の中なのだ。


 少女の異常さが伝わったところで、もう一つ不思議な点がある。

 それは、彼女はどこかを見たまま微動だにしないのだ。

 まるで本当に人形だと錯覚しそうになるほど、ピクリとも体を動かさない。


 「はぁ」


 そんな中、彼女は白い息をはいた。

 血が流れているかはまだわからないが、少なくとも呼吸をしているのはわかった。

 ここで、彼女に変化が生じた。

 なにかを感じたのか全く動かなかった先ほどとは異なり、キョロキョロと周囲を見渡し始めた。


 「見つけた」


 ある一点を見つめて、少女は静かに呟いた。

 少女の視線の先には、一匹の獣がいた。大型犬を思い浮かべるとわかりやすいだろう。

 そこから二回りほど大きく、人の肉など容易く裂けそうな爪、頭によく目立つ禍々しい黒い角が主張している。

 その獣はただの犬ではない。

 進化できなかった失敗作、人を襲う魔に飲まれた犬、通称魔犬だ。


 「他に仲間は確認できず。あの個体一匹のみのようですね。では、命令通り狩らせていただきます」


 どうやら少女の目的はあの魔犬のようで、しかも狩ろうとしている。

 普通に考えればそれは不可能だ。

 十四の、小さな少女が人を殺す生物に素手で勝てるところが想像できるだろうか。

 だが、少女はそんな常識を意に介さず、魔犬へ向かって駆けた。

 百メートル程あった距離は数秒でなくなり、魔犬にぶつかるその直前に宙へ舞い、真下にいるまだ反応できない魔犬に向かって、手のひらを向けた。


 「さようなら」


 それは目を疑うような光景だった。

 少女の手のひらから炎が放出され、魔犬を一瞬にして灰と変えたのだ。

 少女は魔犬だったものにはもう興味は無いようで、さっさと移動をしようすると白いものが頭上から降ってきた。


 「灰ですか」


 少女は一旦足を止め、頭上を見上げる。

 振り始めた白いそれは雪などではなく、もっと悍ましい灰だ。

 灰と言っても、先程のように炎によって生み出される灰ではなく、人類の人口の六割を殺した死の灰。全ての元凶であり、全ての始まり。

 この灰によって、世界は一変した。


 「まだ魔犬はいそうですね」


 少女は灰のことを忘れ、目的の魔犬狩りに戻る。

 彼女はただの少女ではなく、灰によって進化した新人類とも呼ばれる異能者なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

紅の少女と銀華の少年 健杜 @sougin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ