雲化粧
「今日は年に一度のスーパームーンとなるでしょう。九州や北海道では見ることができる確率は高いですが、関東では分厚い雲に覆われ見ることは非常に難しいでしょう。明日にかけて…」
テレビから気象予報士の起伏のない声が聞こえる。スーパームーンになるという日に限って、必ずと言っていいほど雲がかかる。いつからなのかは詳しくは覚えていないが、少なくとも俺が小学4年生の時からはずっとそんな天気だろう。別に月に興味があるわけでもないが、ニュースでもその日になると必ず流れ、理科の授業でも習ったから、一度は見てみたいと思う。朝の情報番組を横目に、俺は朝ごはんを食べる。今日は珍しく朝練がないからゆっくりできる。牛乳を浸したコーンフレークをのんびりしながら口に入れる。朝ごはんを食べ終え、時計を見ると出かける時間になっていた。俺は毎朝7時半に家を出ている。
「やべっ」
急いでバックを手に取り高校へ向かう。俺が通っている高校は、中高一貫校だ。親の教育方針で元々そう決めていたらしい。小学生の頃は意味のわからないほど勉強させられたが、高校受験をしなくてもいいのは気が楽だ。駅に着き改札機にICカードをかざしてホームに行くとたくさんの人がいるのが見えた。普段も会社に行く人と俺と同じ学校に行く人でかなりの人の数になるのだが、今日はそれ以上にホームが人で溢れかえっていた。大勢の人の話し声の間から漏れるアナウンスを耳の穴を広げて聴く。どうやら交通事故で電車が止まっているらしい。この駅から歩くにはさすがに遠すぎる。俺が家に帰ろうとした時に、声をかけられた。
「ねえ、月音くんだよね」
その声の主は同級生の
「そうだけど…。どうしたんですか」
「この後って時間ある?」
「まあ一応」
「君に会わせたい人がいるの」
「会わせたい人?」
「まあついてきて」
ぐいぐいと来る彼女の勢いに押され、ついていくことになってしまった。道中、別に仲良くも無い人と二人からで歩くのは少し気まずかった。30分くらい歩いたあたりで彼女が口を開いた。
「少しここで待っててくれない?」
そう言うと裏路地へと姿を消した。少しして気になった僕はこっそり彼女のことを一目見ようと裏路地へと目を向ける。彼女は電話で誰かと話しているようだ。普段ホームでは気にしていなかったが、改めて見ると彼女は顔立ちもスタイルも良い。
「ねえ、待っててって言ったよね」
「すいません…」
「じゃあ行こうか」
「着いたよ」
「ここは?」
そこには古い屋敷のような建物があり、蔦が絡まっているほど昔のものだ。
「もうすぐ会えますから」
彼女はどこか遠くを見ながらそう呟いた。
「それってどういう…」
気づいた時にはもう彼女の姿はなくなっていた。
ゲンフウケイ 10まんぼると @10manvoruto
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