ゲンフウケイ

10まんぼると

月光雨


 「綺麗…」


思わず口からこぼれた。その日は、スーパームーンという1年で最も大きい満月らしい。


「そうだね」


僕の隣に座っている派流はるが言う。派流とは家が近くよく遊ぶ仲だ。近所の人からも「月音つきとくんと派流ちゃんは夫婦みたいだね」と言われるほど一緒にいる。今までお互いの家に行って、ゲームをしたりご飯を食べたりしてきた。そして、幼稚園ももうすぐ卒園するという頃、初めて派流の家で泊まることになった。今まで自分の家以外で夜を過ごしたことがない僕にとってはとても楽しみに感じることだ。ゲームを何時間もやり続け、途中でお菓子を食べながら過ごしていると気が付けば夜の6時半になろうとしていた。まだ、子供の僕たちにとって、この時間は眠くなってしまう時間帯だが、今日は派流と一緒にいるということもあり、眠気などほとんど感じていない。むしろ、この遅い時間まで起きるということに少し憧れを抱いていたので、普段よりも背伸びをしたような気分だ。


「お風呂入ってきなさい」


お母さんの声が聞こえる。


「はーい」




 

 お風呂から上がり2階に上がると派流は窓を開けてベランダに出た。僕も派流についていった。


「どうしたの?」


僕が尋ねた。


「見て。月が大きい」


派流は月の方を指差す。そしてその指を開いたかと思うとまるで月を捕まえようとするかのように、手を閉じたり開いたりさせた。そんな派流が少し可愛く思えた。僕も大きな月を眺める。夜風が少し肌寒く感じた。それからしばらくして、派流のお母さんが来た。


「もう夜遅いんだから早く寝なさい」


「はーい」


僕たちは一つの布団の中に潜り込み、話をしながら眠りについた。




 朝、僕が目を覚ますとそこはいつもの僕の家だ。


「あれ?派流ちゃんと一緒に寝ていたはずなのに」


その日は曇天だった。


「ねえ、お母さん」


「なに、どうしたの?」


「派流ちゃんはどこ行ったの?」


僕がそう聞いた瞬間、お母さんはいつもの笑みをなくして、何事もなかったかのように家事に戻った。僕は子供ながらに今これ以上模索するのは良くないと感じ、仕方なくリビングでゲーム機を手に取った。




 次の日、僕は朝起きてすぐに幼稚園に行く準備を始める。


「帽子被った?」


「うん」


「体操着持った?」


「うん」


「クレヨン待った?」


「うん。」


いつもの最終確認をする。


「いってきます!」


「いってらっしゃい。気をつけてね」


少し歩くと、すぐに派流の家が見える。僕は背伸びをしてインターホンを押す。2人で幼稚園に行くことが日課になっていた。

『ピンポーン』


「……」


いつもなら、お母さんと一緒に出てきてくれるのに今日は何一つ反応がない。僕はもう一回インターホンを押す。

『ピンポーン』


「……」


やっぱりいい何も反応しない。仕方なく僕は1人で幼稚園に向かうことにした。結局今日、派流を見ることはなかった。


「派流ちゃんってどうしたんですか?」


帰りの挨拶をした後に僕は先生に聞く。


「…」


何も答えてはくれなかった。




 それから何度も派流のことについて尋ねたがら誰1人として答えてくれる人はいなかった。派流が幼稚園に来ることもなく、どこかで出会うこともなかった。そんなことが続いたから僕も尋ねることは次第に少なくなり、最終的には無くなっていった。

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