締まらない飛び降り留守番電話

零下冷

留守番電話

一件


「もしもーし、聞こえてるかな?

 本当は最後に君と話したかったけど、こういう形もいいかな。

 留守番電話なんてしばらく使ってないからなあ。ちゃんと君に届いてるかな。

 私、機械苦手だからミスってないか心配だなあ。


 まあいいや。

 

 ……ねえ、私は今どこにいると思う?

 正解は、ビルの屋上。


 私、今から飛び降りるの。


 生きるのが辛いからさ。


 それは君のせいじゃない。それと勘違いしないでほしいのは、この電話に出ていたら私を止められたかも、とか責任は感じないでほしいな。君が出ても出なくても私は飛び降りるつもりだったからさ。

 むしろ、私は君と話しているときは幸せだったんだ。だからこうやって最後にメッセージを残しているわけだし。


 私は君に、大好きな君に、私の最期を聞いてほしくて、それでこうやって電話したの。

 私の最期の声を。最期の生き様を。最期の死に様を。


 生きるのって辛いよなあ。やりたくないことやらされて、出来ない奴は除外される。他人の為にへらへら笑って、媚を売ってゴマを擦っていかなくちゃいけない。いつも誰かの顔色を窺っていて、気づけば自分のために行動ができなくなって。


 私はもう、何のために生きてるかわからなくなったの。

 このまま生きて、一生つまらないなら、私はいま楽になりたい。生きていればいつか良いことがあるなんて、何の慰めにもならない。いつかの為に今頑張れって言って、今は擦り減っていって。


 私は、悟ったわけじゃない。悟ったふりをしているだけだって。そんなこと分かってる。子供の戯言だってことも、分かってる。


 でも、仕方ないの。私は耐えられないから。


 君は私の代わりに、たくさん生きてくれると嬉しいな。

 もちろん、私の遺言であなたの選択を縛りたくはないけれど。

 私が死んだ世界も、私が居なくても続くんだと、見ていてほしい。

 私の世界は終わるけれど、それでも続いていくんだと。



 あーあ、ちょっと怖いなあ。

 でも、このまま生きて腐っていく方がもっと怖いかな。


 ……それじゃ、そろそろ行こうかな。


 じゃあね。


 また百年後くらいにどこかで会えると嬉しいな。

 ここじゃない、どこかで。



 あーあ、




 人生って、






 呆気ねえーーーーーーーーーー





 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(衝突音)」









「…………間違い電話だ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

締まらない飛び降り留守番電話 零下冷 @reikarei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ