第81話 変化の変化





 *・*・*







 お互いに想いを伝え合い、触れ合いをしたところでひとつ思い出したことがあった。


 恋花れんか紅狼こうろうに少し断りを入れて辺りを見渡せば、離れた場所に包みがひとつ置かれていた。少し消えておくと言ったりょうが、きちんと置いてくれたのだろう。


 その包みを持ち上げ、敷物を広げれば……中には箱が。蓋を開けると、あんぱんがぎっしりと詰めてある。その中身を見た紅狼は嬉しそうに目尻をゆるめた。



「……俺のために?」

「……一番、お好きかと思いまして」

「ああ、そうだな。君の作る麺麭ぱんはどれも美味いが、最初に食べたそれが好きだ」



 最後の言葉に、先程愛を囁かれた時と同じ気持ちが込められていたので恋花は心が痺れそうになったが、しっかりしろと自分に言い聞かせて箱を前に差し出した。


 紅狼は躊躇うことなく、あんぱんをひとつ手に取って食べ始めた。


 すると、紅狼の身体が淡い青色の光に包まれた。



「紅狼様?」

「これは……いや、大丈夫だ。痛んでいた傷が癒えているようだ」



 怪我をしていたことには気づかず、もう一度大丈夫かと訊ねれば彼もまた大丈夫だと頷いてくれた。


 以前に作ったあんぱんもだが、恋花の作る麺麭に破邪の効果や治癒を促す作用があるのは何故だろうか。仕込みや作り方は特別変えてはいないが、釜などの道具が違う程度。


 あと違うとなれば、思い当たることがひとつだけあった。


 九十九つくもが『無し』であった恋花への大きな変化は、梁が自分の九十九であった事だ。その大きな変化と、もともと持っていた先読みの能力にも変化があった。夢路で先の世を覗き見るだけの能力が、身体と魂を切り離してあちこちに漂うことが可能となったのだ。ならば、九十九が戻ったことで恋花の中の潜在能力のようなものが目覚めたのかもしれない。



「……私が『無し』でなくなったからでしょうか?」

「そうかもしれない。……だが、『無し』である事自体が稀有な存在だ。君の祖母である玉蘭ぎょくらん殿も、何故封印されているかもまだわかっていない」

奶奶ナイナイ……の封印、まだ解くのは難しいですか?」

斗亜とあの執務の隙間に無理矢理組み込んでいるが、此度の事件への収拾はついているだろう。明日あたり、聞いてみるか」

「……そうですね」



 梁の中に今保管されている玉蘭の身体。


 後宮に来ても特別変化がないと思っていたが、恋花を助け出してくれたあの霊体はいったいどう言う理由で起きたのか。


 わからないことだらけだが、ひとつひとつ紐解いていこうと思う。恋花は梁だけでなく、紅狼と言う大切な存在を得られたのだから。


 話に一区切りをつけてからは、梁と雷綺らいきを呼び、まずは緑玲妃に自分たちの事を報告しようとゆっくり城側へ向かった。

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