第80話 間抜けな自分
*・*・*
少し前に、
後宮で仕えるようになって日の浅い恋花では、迷子になっても仕方がないくらいに広い場所なのだ。幾度か角を曲がってから、やっとと言わんばかりに梁が首根っこを掴んで止めた時には軽く小言を言われてしまった。
『急ぐ理由もわかる。だが、当てもなく駆け回ってはよくないが?』
「……ごめんなさい」
その怒り方が、祖母に化けていた時とそっくりだった。ああ、この
ひとつの式が、恋花の前に飛んできたのだ。
『
さあ、行こうと彼に手を差し伸べられたので、しっかりと手を掴み。案内をしてくれる式に導かれ、紅狼の元へと向かったのだが……彼を見つけた後に、それぞれ九十九から背を押され、恋花は紅狼に抱き止められる形となった。
「梁!?」
「……雷綺、どう言うことだ?」
『今からの語り合いに、我らは不要』
『女子ひとり守るのも、紅狼なら造作もない。少し離れている』
と、よくわからない理由を突きつけられ、二人とも術を行使して消えてしまった。いきなりの展開に恋花は意味がわからず、口をあんぐりと開けていたが……その惚け顔を見て紅狼は喉の奥で笑っていた。
「……二人にはお見通しだったと言うわけか」
「…………はい?」
「俺のもだが、君の気持ちも周りには認知されていたらしい」
「……え?」
抱き止めてくれていた腕が、片方は背に回り。空いている手は恋花の細い顎に添えられた。少し上に向かされ、間近に見える整った美しい顔に、恋花の心臓は高鳴り以上の速さで鼓動を立ててしまう。
いきなりのことで、緊張も最高まで達しそうだったが先程の言葉は耳にきちんと届いていた。嘘ではないと、さらに目で伝えてくれている。
「……恋花、逃げないでくれ」
点心局で伝えてくれたよりも、低く甘い囁きに心まで蕩けてしまいそうになった。彼と出会うまで自信のなかった自分自身では釣り合わないと思い込んでいたのに……今は違う。九十九がいるだけでなく、紅狼のおかげで役に立てるところもあると自信を持てたからだ。
報いたい以上に、彼の本心に応えたい。だから、恋花も言葉で伝えることに決めた。
「……紅狼様」
手を伸ばし、彼の頬に触れても紅狼は振り払おうとはせず、むしろ嬉しそうに目を細めてくれた。その表情に自信が少しずつ持てて、唇から言葉を紡ぐことが出来た。
「……その。お……お慕い、申し上げております」
「…………俺も、君が愛おしい。恋花。最初に出会った時から」
互いの気持ちがひとつだと改めてわかれば、微笑みを浮かべ合い。
ひとしきり笑った後に、顔を寄せて唇を重ね合うのだった。
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