第14話 皇帝が認める
畏れ多過ぎて、慌てて最敬礼をしようとしたのだが皇帝から待ったをかけられてしまったのだ。
「ああ、良いぞ。其方が、
顔を下げるなと言われたために、
国を納める雲の上とも言える存在。
さらに、彼の後ろにいる
「……はい」
「紅狼から聞いたぞ。恋花と言うのか」
「……は、はい。
『九十九の
ぶっきらぼうな物言いをする梁だが、人間に寄り添う存在であれど人間とは違う在り方だと言われている。人間でも敬う存在であれ、九十九からしたらただの人間でしかないのだ。
「そうか。余は
「……はっ」
名乗られると、改めて威厳のようなものを感じたのだが、ここまで若いとは知らなかった。噂で帝位を継いだのは聞いていたけれど、紅狼くらいの年代だとは思わなかった。おそらくだが、恋花と十も離れていないだろう。しかしながら、私語を勝手に口に出来ない立場は同じなので、恋花は斗亜の言葉を待った。
斗亜は厨房を見渡すと、どうしても作業せざるを得ない料理人以外最敬礼を取っていた彼らを見た。その瞳は好奇の輝きを持ち、何を作っていたかを探っているようだった。その流れで、
「崔廉? それはなんだ?
「そこの恋花が、ついさっき作った
「……ぱん?」
「ひとつ食べるかい?」
「ああ」
崔廉は随分と砕けた話し方をしているが、今口を挟む隙間がない。それよりも、まさか初回で作ったものをいきなり皇帝へ献上するなどと思わず、かと言え、止められるような立場ではない。
崔廉は皿に載せていたあんぱんを斗亜に差し出し、斗亜は何も疑わずにひとつ手に取り、躊躇わずに口に運んだ。齧って口に入れたのだ。
(……嗚呼)
まさか、今まで玉蘭のためだけに作っていた、己の異能から再現しただけの食べ物を……国の象徴でもある皇帝が口にすると思わないでいた。しかも、こんなにも早く。崔廉とて、皇妃候補に献上しようと言い出したところなのに、斗亜はどう反応をするのだろうか。咀嚼する様子を、固唾を飲んで見守っていると……飲み込んだ斗亜は、瞳以上の輝きを表情で表した。
「美味い!? なんだ、この
皇帝らしい話し方ではなく、ひとりの男性らしい話し方になったのに驚いたが。斗亜は手の中にあったあんぱんを、これまた美味しそうに食べていく。
そして、食べ終えてからぽかんとしていた恋花の肩を少し強めに叩いてきた。
「良いものだ。さすがは、宮廷料理長だった玉蘭の孫だな!」
「え……
「そうだが、知らなかったのか?」
「は……はい」
紅狼もだが、封印をされるまでの玉蘭が生きた道筋を恋花は知らないでいた。覚えている限り、両親を早く亡くしてからも、そのような話題は祖母から聞いていない。その頃から、梁が化けていたのだろうか。彼に視線を向けても、梁は首を横に振るだけだった。
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