第13話 窯でないあんぱん
*・*・*
点心局は今まで慣れた自宅の厨房での仕組みとは違い、煮炊き場も竈門も段違いに荘厳できちんと整っているところだ。後宮であるが故に、当然ではあるが初回でいきなり
そのために、恋花は
「……お待たせしました」
焼きたてなので、気をつけるように崔廉に伝えてから試食をお願いした。他の料理人らにも指示を飛ばしていたが、ほとんど恋花につきっきりで見学してくれていた崔廉は……とにかく、好奇の目を恋花に向けてくれた。あの封印されてしまった祖母の状態と同じ世代の女性から、このような扱いを受けるのは初めてだ。
数日前にあんぱんの匂いに釣られてやってきた子どもらの親は、恋花を『無し』の存在として関わるようにするなと、キツく言い聞かせるのがほとんどだったから。
「面白い作り方だねぇ。せっかくだから」
崔廉は軽く手を振れば、そこから淡い赤の光が生じた。光の中から小柄の少女が出てきて、恋花の前に立つと手を軽く振ってくれた。
『我は
「よ、よろしくお願いします」
『良い良い。しかし、内で見ていたがなかなかに手際が良いな。ほれぼれしそうになったわい』
『恋花だからな』
梁が誇らしげに胸を張っていたが、恋花はとんでもないと首を横に振った。先見があれど、己など料理人と名乗れるほどでもない。ただただ、試行錯誤していただけでしかないのに。すると、崔廉からぽんぽんと肩を叩かれた。
「そんなことないさ。即戦力に使えるやつだとは思ってるさね。燕、一緒に食おうじゃないさ」
『是。良い香りじゃ』
姿は対照的だが、食べ方はそっくりだった。大口を開けて、かぶりつく勢いで口にしてくれた。少しだけ、ほっほと息を整えようとしていたがよく噛んで飲み込むと、二人とも顔を輝かせた。
「美味い!」
『美味だ。胡麻油の香ばしい感じが、生地と良く合う。餡をこう活用するとは』
「……ありがとうございます」
その表情を見て、崔廉も何かを決めたかのように頷いていたからだ。
「さて、最初はここにいる連中らのまかないにしようと思ったが、気が変わった」
「……と言いますと?」
「
「こ、皇妃!?」
将来的に、皇帝の正妃となり得る寵愛を受けた女性。
たしかに、紅狼や崔廉の口からその女性の名は先程聞いたが……いきなり、この
「うん?」
『どうした?』
「こ、これはきちんとした麺麭ではありません! せめて、先程お出ししたものでなければ!!」
「そうかい? 充分美味いと思うけど」
「……そうかもしれませんが」
最低窯さえあれば、種類も増え、多種多様な麺麭が作れるだろうが。ここはひとつ、簡易であれ窯をつくらせてもらえるか提案しようとしたのだが。
「おい、崔廉。なんだこの良い匂いは?」
紅狼が戻ってきたのだが、もう一人男性も伴っていた。同じ世代で男らしく美しい顔立ち。同じ武官かと思ったが、仕立ての良過ぎる整えられた服装でいた。
つまり。
「あら、主上。おいでなすったのかい?」
予想していた通り、彼は
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