第12話 皇帝への伝達





 *・*・*







「それで? どうしたと言うんだ、紅狼こうろう



 皇帝を呼びつけ、場所を彼の私室へと移動した。従姉妹で皇妃候補である緑玲りょくれいの前では、侍女らが噂を広める可能性がある。それを懸念して、紅狼は皇帝をあそこから離れさせた。



「……玉蘭ぎょくらん殿は見つかった」

「……ほぉ?」



 かつての宮廷料理人の話題を出せば、皇帝は面白そうな内容だと興味を持ち、目を光らせた。だが、続きを話せばどのような反応をするか予想は出来ない。それでも言うしかなかった。



「……だが、何者かに封印されていた」

「…………穏やかじゃないな」

「娘や息子は既に他界しているらしい。孫が一人いたが、『無し』の扱いを受けていた」

九十九つくもが? だが、その言い方だと違うようだな?」

「……ああ。玉蘭殿に長い間変幻へんげしていた」

「……ますます穏やかではないな?」



 やはり、『無し』と言うことだけで、この男は恋花れんかを下賤な扱いにしようとはしなかった。むしろ、憐れんだりしていた。



「……俺の呪いは後回しだ。一度、お前の九十九の力を借り受けたい。もしかしたら、玉蘭殿の封印が解けるやもしれん」

「……それはいいが。孫の方はどうした?」

「ひとまず、点心局に預けた」

「無難だな。俺でもそうする。……崔廉さいれんにドヤされていないか心配だが」

「そこは大丈夫だ。孫……恋花自身の異能のおかげで切り抜けていた」

「なんだなんだ? 術は使えないが、なにか使えるのか?」

「ああ」



 皇帝に椅子へ座るように言われ、恋花との出会いと彼女自身が持つ『先見』や麺麭パン作りのことについて話した。異能は占い師ほどではないが、未知の食べ物を作れる技術、それに伴う努力家であることを伝えた。


 紅狼は詳細まで伝えると、皇帝はまた顔を輝かせたのだった。



「凄いな? 先の世の食べ物を再現出来るとは」

「時期に、お前や緑玲にも献上されるだろう。崔廉殿が認めていたしな」

「それは楽しみだ。……しかし、あの玉蘭が何者かに封印か。今玉蘭はどこに居る?」

「恋花の九十九の中に。特殊な結界を展開出来るらしく、そこが安全だと俺も思った」

「そうか。それならまだいい。……下手にもとあった場所に放置していたら、こちらも手が出しにくい」

「……そうだな」



 皇帝の口にした言葉と、心情はたしかに本物だ。念のため、紅狼は呪眼で確認したが安心出来る結果だったので彼には言わずでおいた。


 かつての、創建の皇帝である神羅しんらから時代はだいぶ経つが、紅狼は現皇帝が彼であってよかったと思っている。



「しかし。単純に封印は解けなかったのだろう? 呪眼や幾つかの呪いを持つお前ですら」

「……ああ。ダメだった」



 九十九を使っても、なにも結果は得られなかった。その事実は本当なので紅狼は首を縦に振る。皇帝は息を軽く吐き、紅狼に近づくと軽く肩を叩いてくれた。



「望みが薄いわけではない。あとどれくらいかは分からずとも、俺は友としてお前を絶対死なせないぞ」

「……ああ」



 紅狼を蝕んでいる呪い。それらは身体だけでなく、魂をも侵食していた短命につながるものばかりだった。どれも最近かけられたものだが、玉蘭を頼りにしたくとも……本人でさえあの状態だ。


 いつ死ぬか分からない身とは言え、皇帝の剣である自分が酷く情け無い。恋花も利用する形で連れて来たとは言え、早く玉蘭を何とかしたいのは紅狼とて同じだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る