第7話 九十九を得て
*・*・*
己の
様々な役人や商人などが行き交う通りだったので、九十九も多く顕現していた。彼らと同じ存在になれたと言う実感がまだ湧かないが、梁はきちんとここにいる。それは紛れもない真実だ。
「待たせたな」
少し待っていると、紅狼が少し早足でこちらに来てくれた。今日も今日とて、とても美しい顔立ちだ。周りの注目を集めたが、彼自身は特に気にせずに恋花の頭を軽く撫でた。恋花は子どもではないが成人している年代になりたてだ。その扱いは仕方ないにしても、祖母に化けていた梁以外でそのような扱いをされることがなかった。
だからか、少しだけ気恥ずかしさを感じても嬉しかった。
「……いえ。大丈夫です」
「そうか。早速だが、後宮へ行こう」
「あの……後宮に男性は行けないのでは?」
「大丈夫だ。俺は皇妃候補の従兄弟なんだ。あとまあ……それ以外の理由で皇帝陛下より許可は得ているから、心配はいらない」
「……そうなのですね」
家に紅狼が来て、宮仕えの提案をしてくれたあの日。
もうひとつの理由として、彼は皇帝の話題を出したのだ。
『
その言葉に、恋花は宮仕えの提案を受け入れた。元通りの生活にならないにしても、唯一の肉親である祖母を目覚めさせることが出来るのならば……何とかして、解きたいと決意したのだ。
宮仕えと言っても、侍女や下女ではなく『料理人』に加わる形になるらしい。玉蘭はかつて、後宮では指折りだと言われてた料理人だったとか。部下だったという料理人らに恋花は会ったことはないが、紅狼の話によると気さくな人間達が多いそうだ。それに、今は九十九である梁がいるから大丈夫だとも。
恋花は信じて紅狼の後に続き、朱塗りが目立つ造りの建物を迷子にならないように歩いていく。梁も横で浮きながら移動してくれているので安心は出来た。
(……私、の九十九)
人間でない存在。寄り添う存在。
今日まで、地下で封印されている祖母に代わって、一緒にあの家で生活してくれた。
無理もないことだが、人生の大半を『無し』として迫害に近い扱いを受けていたのだ。今日家を出た時も、梁を見られたことでどれだけ周囲の人間らに驚かれたことか。
麺麭の匂いに釣られてきた子どもらもだが、ほとんどの人間らに詰め寄られそうになったのだ。そのほとんどを、梁が一喝したことで
後宮は紅狼の言うように違うと信じようにも、まだ気持ちが追いつかない。大丈夫、大丈夫と呟いていると……紅狼が歩みを止め、恋花はぶつかりそうになった。
「ここだ。点心局は」
紅狼がさあ、と先に進むように促された入り口からは……麺麭ではなく、
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