第11話後 私の決めた事
頭をすっきりさせようと入ったお風呂、けどいくらシャワーを浴びてもこのもやもやは流れ落ちなくて、心の底から無限にわいてくる。
後悔したくなかった、一度しかない人生に。
自分の選んだ道、取った選択、話したこと。
そのすべてを後悔しないように生きてきたけど……。
たまにこうしてどうしようもない程の後悔に見舞われることがある。
『そんなの私のほうが冬弥君の事、わからないよ』
抑えきれず口にしてしまった言葉、それがどれだけ彼を傷つけたかも知らずに。
「何が正しかったんだろう」
彼に救われた、そんな彼があの時の私とおんなじ目をしてる。それがたまらないくらいに嫌だった。
あれは地獄だ。
どこまでも暗い闇に落ちて行って、右も左も、上も下も、五感すらも。自分を形成しているすべてがわからなくなってしまう。
そんな状態にまで落ちてしまったものは……。
お湯を浴びているはずなのに、あの日の寒さと孤独感に体が侵されていく。
忘れることのできない、私の一生のキズ。
そんな身体を温めるため湯船につかった。
気持ちのいい温度であったまっていく体、でも心は寒いままだった。
「助けたかった」
どうにかしてあげたかった、今日会った時からしていたあの目を。
生きるため身に着けた嫌なことを使ってでも、冬弥君を助けたかった。
けど、だめだった。
私には助けることができなかった。
こんな薄っぺらな私では……。
だからさらけ出した。
少しでも私の本性を知ってもらおうと、本当の私は君が思ってるような人間ではないよと。
それでも届かなった。
あの固く閉ざされた扉を開けることはできなかった。
そして結局……。
「私が追い込んでしまった」
助けたかった相手を手にかけてしまった。
私がしたことは苦しみの開放ではなく、地獄へ引きずり込んだだけだった。
なんて馬鹿なことをしたのだろうか、少しでも自分なら救えると思ったのが間違えだった。
冬弥君に救われただけで、私自身何かできたわけでもないのに。
なのに付け上がって、私にもできるだなんて勘違いをして。
湯船は足を延ばせるはずなのに、いつの間にかたたまなければ入れなくなっている。
顔も前を向けず、また暗闇に向かって……。
「……」
静かに落ちていく私を遮って電話が鳴る。
防水のケースに入れているスマホの画面を覗くと書いてあるのは親友の名前。
「変わったよね」
前までだったらこういう時に電話をかけてこなかった、けど今は少しだけ助かるよ。
「もしもし」
『もしもし春香、今日はどうだった?』
案の定聞いてきた内容だった。
だめだった、ひどいことを言ってしまった、もうどうしたらいいかわからない、泣きそう。
この感情を全て秋穂にぶつけたい。
……けど。
「大丈夫だったよ」
私は変わっていない、あの頃のように心配をかけまいと平気で嘘をつく。
「……春香、本当の事を言いなさい」
やっぱり秋穂は気づくよね。けど……。
「ごめん、本当に大丈夫だから、それじゃ」
「ちょっと、待ちな」
画面にはもう私の顔しか映っていない。
「ああ、最後泣きそうなの聞こえちゃったかも」
画面に映る顔は大粒の涙を零している。ひどい顔だ。
後悔しないようにとった行動で後悔するなんて、滑稽もいいところだよ。
「次はピエロにでもなろうかな」
きっと周りを悲しませるだけかもしれないけどさ。
しずくが湯船に落ちる音を聞きながら、私のしてしまった行いを何回も何回も、お風呂から出るまで思い返し続けた。
お風呂から上がり何を飲もうかと考える。
「なにか暖かくて甘いものを」
疲弊した心をいやすには甘いものでなくては、そうでもしないとこの心は一生治らない。
戸棚をあさり何かないかと思っていると一つの袋を見つける。
「ココア、か」
しかもこのココアあの時と同じココアだ。
戸棚から出しコップに適量入れお湯を注ぐ、スプーンでかき混ぜて出来上がり。
そんなココアをアロマキャンドルだけを炊いた部屋で飲む。
一口一口入れるたびにあの日の冬弥君を思い出す。
「頑張らなくていい、あの日君はそういってくれたよね」
頑張りすぎていた私に行ってくれた言葉。
「変わりはいくらでもいるとも言ってくれた」
私一人欠けても社会は回る、他にも私にあう場所がきっとあるとも。
「後悔しないように」
人生に後悔したくない。これは君がくれた言葉なんだよ。
「何気ないく言った思う君の言葉に、私がどれだけ救われたか、君は知らないよね」
ココアを飲み切り一つの決断をする。
私はきっと今の冬弥君を助けることはできない。
私が近くにいてもただ彼を傷つけるだけだ。
でも彼には、そんな彼を助けたいと思い、支えたいと思う人間がきっといる。
無責任だけどその人に任せるしかない、これ以上彼が傷つかないように。
彼を傷つけないように。
だから私は。
「冬弥君から離れよう」
秋穂には相談しない、甘えてしまってはいけない気がするから。
その結果どれだけ傷ついてしまっても仕方がない、恐らくそれが私の罰なのだから。
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