第9話ゆったりとした時間
第九話お話をしよう
満足のいく一杯をいただいた後、迷いながらもなんとか先ほどの百貨店に戻ってきた。
「まさか迷うとは思わなかったです」
「今度から適当に歩くのは辞めようと思いました」
来た道を戻るだけなのにそれを間違えるとは、それほど感想会に夢中になっていたのか。
でも言いたいことも言えて胸が少しすっきりしたとは思う。
「さて、これからは店長さんの買い物ですよね」
「そうなりますね。でもまさか本当にお使いがあったなんて」
「と、言いますと?」
「いえ、何でもないです」
まさか夕陽さん店長がよく使う嘘を知らないのか、常連客はほとんど知っていたから少し意外だ。
いや、夕陽さんが鈍感なだけかもしれないけど……。
「では行きましょうか」
今度は二人横並びで入店していく。
午前中の真っ先に向かっていたのとは違い、ゆっくりと歩きながら店内を巡る。
午前中に来た時よりも家族連れなどの客が増えておりさらに活気だっていた、店員も忙しそうに仕事をしている姿が目に入る。
「最初にどこから回りましょうか?」
「そうですね……」
回る順番だなんて何も決めていなかったためどうしようかと考える、今回のリストを見る限り重いものはなさそうだが、割れ物があるためそれは後回しにするとして。
「とりあえず適当で大丈夫じゃないですかね」
「でしたら時間を決めてそれまでに買い物を終わらせましょう」
「そうしますか、夕陽さんはどこか見たいところありますか?」
「私は雑貨店をもう少し見たいです」
「では先に雑貨店へ行きますか」
行き先を決めて午後の買い物が始まる。
夕陽さんは雑貨を集めるのも好きらしく、よく見に来ては買ったり部屋に置いているのを想像しているらしい。
「大学生の時は週一で買ったりしてて、そのたびに秋穂にまた買うのかって言われてましたね」
「夕陽さんは収集癖があるみたいですね」
「自分では自覚してないですけど、たぶんそうだと思います」
最初の雑貨店で夕陽さんはぬいぐるみを触りながら話してくれた。
たまにぬいぐるみを持ったり、こちらに感想をお求めたりと、言動がいちいちかわいかった。
きっと夕陽さんの部屋とかにはぬいぐるみとかが多いんだろうと想像する。
「冬弥さんはぬいぐるみをもっていますか?」
「俺は持っていないですね」
「かわいいですよ、寝るときとかも抱いてると暖かいですし」
「俺がそれだいて寝るのは不自然な気がします」
「そうですか」
そのあと小声で『かわいいのにな』と呟いていた、すみません流石にそれはできないです。
「でも……」
近くにいた小さめのぬいぐるみを手に取り夕陽さんのほうを向く。
「これくらいのサイズだったらいいかもです」
俺の行動が意外だったのか目を丸くしながらぬいぐるみと交互に見てくる。
「いいかもです!」
きらきらとした満面の笑みで肯定してくる。数々の夕陽さんの行動がだんだんと犬に思えてきたかも。
雑貨屋で買う予定はなかったのだが、夕陽さん乗せられてかぬいぐるみを買うことを決めてしまった。
ぬいぐるみを手に取ったままさらに雑貨屋の中を回る、初めてぬいぐるみを手に店内を回るから少し恥ずかしいな。
店内を眺めていると懐かしい皿が目に入り一抹の思い出がこみ上げる。
「冬弥さん次のお店行きましょうか」
「……ああ、はい今行きます」
呼ばれて意識を戻しぬいぐるみを買い店を出る。
『ここにあったんだ』
夕陽さんに次はこちらの雑貨屋に行きたいと言った、どうやらグラス等の品揃えが良い店らしい。
まだ買いはしないが予め買うものを決めておいた方がいいだろ。
それに最近はグラスやコーヒーカップにも興味が湧いてきているし。
夕陽さんがおすすめする店は確かにグラス系を中心に置いてある雑貨屋だった。
多種多様なグラスは俺の心を奪いそうになるが、それ以上に楽しんでいる夕陽さんを見て落ち着く。
「冬弥さんこのグラス可愛くないですか?」
「花の柄がオシャレにデザインされてますね」
「こういうの見つけると何を入れて飲もうとか想像しちゃいます」
「今なら何を入れたいですか?」
「今ですとカルピスが飲みたいかもです」
そう答えたのでこのグラスにカルピスが入っていることを想像する、ピンクの花柄がちょうどいいアクセントになりどちらも映えそうな印象がある。
「ありかもしれないですね」
「ほんとですか!」
その後もグラスを見ては何を入れようかと考えたりしていたらあっという間に時間が過ぎていき、気づけば店長の買い物を始めないといけない時間になってしまった。
「少しはしゃぎすぎましたね」
「盛り上がると時間を忘れちゃいますね」
次に向かうのは店長の頼まれごとをこなすための店。消耗品を買いそろえるのに地下にあるスーパーへとたどり着く。
「なんだか百貨店のスーパーってドキドキするの私だけですかね」
「わからなくもないかもです」
「やっぱ私だけですよね」
確かに子供の時はあまり来ないという理由で憧れとかはあったけど、今となってはドキドキもしなくなったな。
少ししょんぼりしている夕陽さんがなんだか子供みたいでほほえましくなる。
そんな様子を見られ頬を膨らませる夕陽さんに問い詰められてしまった。
そういうやり取りしながらも買い物を進めていく、途中にお使いとは関係ないものを見てそれに関する話題をする。
こういうやり取りを小さいころ見ていたような気がする、それに憧れていたことも。
どうにも夕陽さんと緩く買い物をしていると懐かしい気持ちがこみ上げてくるな。
「これくらいですかね」
「そうですね、ここでの買い忘れはないと思いますよ」
忘れ物がないか確認する、今日は抜けてる場面が多かったので念入りに行う。
最後の買い物は先ほど見た雑貨屋で決めてあるのでスムーズに行うことができた。
「これでお使いは終わりですね」
何とか予定の時間内に終えることができた、流石に探しながら回ったせいか少し疲れたな
「それでは冬弥さんおすすめのカフェに向かいましょう。実は結構楽しみだったんです」
どうやら夕陽さんが楽しみにしていてくれたみたいで少し安心する。
荷物を二人分に分けてお互いに持ち、百貨店を出る。
向かうはここから一駅離れた場所にあるカフェ、そのために今度こそ迷わないようにしながら駅へと向かった。
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