第8話至高の一杯

 お昼の時間となりお腹がすいたため百貨店を出た俺たちは昼食の場所へと向かっていた。

 土曜日の日に話し合ったときお互いのよく食べに行ったりするものを話し合った、俺はよくラーメンを食べに行ったりすることを話したのだが、なんと夕陽さんもラーメンが好きらしくよく一人でも食べに行くほどだそうだ。

 それならばということで昼はラーメン屋にしたのだが、問題はどこへ食べに行くかだった。

 俺は普段こってりとしたり、ガッツリとしたラーメンを主に食べるのだが、夕陽さんは普段あっさり系などを多く食べているらしく、どちらの好みに合わせようかとよく話し合っていた。

 そこでネットなどで夕陽さんと探していると一つの動画が目に留まった。紹介されていたのはしょうゆ系のラーメなのだが、そのインパクトに目を奪われすぐに夕陽さんに提案した。

 動画を閲覧した夕陽さんからの返答としてはかなり前向きな反応だった。この店ぜひとも行ってみたいと言う夕陽さん返答でそこに決まった。

 場所も百貨店からそれほど離れていないため軽く話しながら行けばすぐに着く。

 というわけでその店を目指しているのだが、その最中の会話として挙がったのが、お腹がすいたこともありお互いの食に関する話だった。

「冬弥さんって唐揚げにレモンはかけますか?」

「俺はかけないですね、代わりにマヨネーズをかけてたべてます」

「確かにマヨネーズもおいしいですよね」

「夕陽さんはレモンかけるんですか?」

「私はよくかけますね、レモンが好きなのとお酒に合うので」

 当然のことながらお酒の味など知る訳もないので想像でしかないが……。

「今度かけて食べてみてください、もちろんお酒はだめですよ」

「流石に分かってますよ」

 未成年の俺が酒を飲むわけにはいかないが、レモンは今度かけて食べてみるかな。

 こういった食の話題は結構盛り上がるためその後も、目玉焼きに何をかけるかや、卵焼きは甘い派かしょっぱい派かなど、店に着くまで話題が尽きることはなかった。

 そんな話題の中で目的の店に着いた、ちょっと通りに入ったところにあるこの店は、ここ数年でできたらしく外観はきれいなものになっており、おしゃれな雰囲気を醸し出していた。

「結構人が並んでいますね」

「とりあえず並びましょうか」

 列の最後尾に並ぶと程なくして店員さんがメニュー表を持ってきて選んで待ってくださいと言われた。

「見てください冬弥さん、どれもおいしそうですよ」

 興奮気味にしゃあべる夕陽さんの横で同じメニュー表を見る、店員さんが持ってきたメニュー表は一つのため、メニューを覗くと必然と顔が近くなってしまう。

 それを横目で気にしながらメニューを確認する。

 動画でもあったしょうゆ味、それとしお味とみそ味がある。トッピングはしょうゆとしおが同じ、みそが少し違う感じになっている。

 いつもは迷わずにみそ味を頼むのだが、今回はメニュー表にでかでかと乗っている当店おすすめのラーメンを頼むつもりだ。

「決めては来てたんですけど、いざメニューを見ると目移りしちゃうんですよね」

「自分もたまにそれありますね、迷った末にいつもの頼んだりします」

「私もです、でも今回はこれって決めているので」

 夕陽さんも俺と同じのに決めて、こちらへ来た店員に注文しメニュー表を返した。店員曰く十分から十五分ほど待つと言われた。

 待っている間先ほどの食の話題へと戻る、今度も夕陽さんのほうから話題が振られた。

「冬弥さんの好きなラーメンって何ですか」

 狭いようで意外と広い話題を出されて何と答えようか迷う、結構様々なラーメンを食べるから好きなのが多いんだよな。

「では味から答えていきましょう」

 悩んでいる俺を察して話題を絞ってくれた。味に絞れるなら何とかひねり出せそうだ。

「うーん、こってり系やたまにあっさりもいくので、ほとんどが好きな味なんですよね」

「なるほど、ではいつも食べているラーメンは何ですか」

 夕陽さんのテンションが高いのかなんだかインタビューを受けている気持ちになる。

「そうですね、二郎系はよく行きますね」

 実は土曜日にも同じことを聞かれていたので、その時とは違う答えを出す。

「冬弥さん、二郎系食べられるんですか」

「はい、友達とよく」

 相変わらずぐいぐいくる夕陽さんにはまだ慣れないな。当の本人は気にする様子もなく目を輝かせているけど。

「私、興味はあるのですが量が多いのと入りにくいので行けてないんですよね」

「そうなんですね、でも最近は女性とかもみますよ」

「そうなんですか」

「はい、それに量も半分近くは野菜なので意外と入るんですよ」

 俺の言葉に対し行こうかどうかと悩み始める夕陽さん、なんだかあと一押しすればいけるような気がする。

「そういえば俺量が少ない二郎系の店知ってますよ」

「冬弥さん!」

「はい!」

 相変わらず圧がすごい……。

「今度その店に連れて行ってください」

「俺でいいんですか?」

「はい、やっぱり一人で行くのはまだ怖いので。だめですか?」

「俺で良ければいきましょうか」

「はい!ありがとうございます」

 なんだか成り行きで次の出かける予定ができてしまった。これは夕陽さんの行動力に感謝しなければ。

『次の二名様店内へどうぞ』

 話に夢中で時間が経っていたことに気づかず、体感早くに俺たちの番が回ってきた。

 店員に案内されてはいる店内、内装はラーメン屋というよりカフェに近いような感じだが、店内に充満している香はラーメン屋のそれだった。

「外装から思っていましたけど、オシャレできれいな所ですね」

「どちらかといえばカフェみたいですよね」

「それ思いました」

 などと感想を言い合っていると注文した料理が運ばれてきた、着席してから五分もたっていないと思うから来るのがかなり早い。

 まあ、こちらは結構お腹がすいているのでありがたいけど。

「これは……」

「すごいですね……」

 二人で驚きの声をあげた後ただ目の前のラーメンを注視する。

 透き通ったスープの中に佇む細麺、トッピングは煮卵とメンマとチャーシューの三種類。言葉だけを聞いたのなら普通のしょうゆラーメンなのだが、見た感想で言えば今までに見たことのないしょうゆラーメンだった。

 そういわざる負えない最たる要因はこのチャーシューである。

 ただ一言でいうのであればデカい。この一言に限る。

 普通の想像する二郎系のチャーシューよりデカいのだ。

 その見た目の圧倒的インパクトにより言葉を失っていた。

「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

 ラーメンは先にスープからいただく。レンゲでスープをすくい口に運ぶ。啜った瞬間、不意な重い一撃により目を丸くしてしまう、空腹状態で運ばれたスープはさながらボディーブローをもらったと錯覚してしまう。

 そして脳みそが味の処理を終わらせだした結論は。

 うまい。

 その一言だった。

 透き通ったスープからは想像がつかないほどの圧倒的うま味の暴力、先ほどの一撃の正体はこのうま味だった。

 あまりのおいしさに顔を上げる、すると同じくスープを飲んだ夕陽さんが俺と同じ行動をとっていた。

 言わなくてもお互いの言いたいことが伝わる、そう感じ取り二人して頷いてからまたラーメンと向き合った。

 スープの次に啜る麺は程よくスープと絡み、先ほどの一撃はないにしろ丁度いい塩梅となって胃袋へと入っていく。

 麺、スープ、メンマの三角食べを行い、ついにチャーシューへと箸を伸ばす。

 チャーシューに齧り付こうと持った瞬間に感じる、これは崩れやすいほど柔らかいと。いったいどれだけ煮込めばこの厚さのでこんなにも柔らかいチャーシューができるのか。

 レンゲを使い何とか齧り付く、口の中でとろけ豚のうまみが十二分に口の中で暴れ、肉汁でおぼれると錯覚してしまう。

 気を抜くと一瞬でなくなってしまうこの一杯を夢中になりながら味わう。

 そうしてスープの一滴まで飲み干しラーメンを完食した。

あまりにも美味しかった。他にも沢山思う事はあるが今はこの言葉しか出てこない、正しく至高の一杯だった。

 一息つき水で落ち着いていると店内の違和感に気が付いた。周りを見渡すと話している人のテーブルにはラーメンが置いていなく、ほぼ全員が話さずにラーメンを食べているため店内が静かだった。

 そんな奇妙にも思える光景だがこのラーメンを食べてしまえばそれも納得するものだった。

 夕陽さんも食べ終え同じようにラーメンを噛みしめていた。出る前に水を一杯飲み店を出ることにした。

「ごちそうさまでした」

 店の外に出てお互い無言の中離れていく。曲がり角を曲がったタイミングでお互いに目を見合わせて一斉に口を開く。

「「おいしかった!!」」

 店から離れお互いに声を出せる状態になったタイミングで感想を言い合う姿は水を得た魚。味の感想を言い合い興奮していく、こんな興奮は映画の感想を言い合うときのようだった。

 その後次の行き先を話し合うわけでもなく、ただひたすらに感想を言い合いながらあらかじめ決めていた行き先へと足を運ぶ。

 次の行く先は店長の頼まれたお使い。感想を言い合いながら場所も確認せずに行けばどうなるかわかる通り、当たり前のように間違った道へ行き、当初の予定から遅れてたどり着くことになった。

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