第7話待ち合わせとファッションショー
電車で待ち合わせの場所まで移動している間に今日のスケジュールを思い返していた。
土曜日に夕陽さんとどこに行くかを考える前に実は夏輝と連絡を取り合っていた、内容としてはいったいどうやって回ればいいかについて。悲しくもそういった経験が今までなかった俺は時間をどう使い昼飯はどうすればいいのかそういうのがわからなかった。
こんな俺が一人で考えても答えなど見つけられないと思いそういうのに慣れている夏輝を頼ることにした、それにより大まかなスケジュールを組めた。
待ち合わせ場所で合流した後、先ずは夕陽さんの回りたいところに行く、どれくらいの時間がかかるかは夕陽さんの行きたい場所次第だが恐らく午前中は使うだろうと予想。
昼飯は二人で話し合い食べたいものを食べること、まだお互いの食の好みがわからない状況で勝手に決めたら気を使わせてしまうから。
午後からは先に店長の買い物を行う、何件も回ることである程度時間を使うことができる。
その後だいたい十五時半を目途に俺のおすすめのカフェで休む、趣味のカフェ巡りの中で見つけた店に行くことでゆっくり話すことができる。何よりお互いの行きたいところへ行ったほうが疲れずに過ごせるとのこと。
ある程度休憩し話し合ったら星空の家に行き荷物を置いて帰る。
夏輝から出た案はこんなところだった。
『結局一番はどう二人が楽しく過ごせるかだからね』
そう言った夏輝はたまに見ることができる頼りがいのある友達だった。
夏輝のおかげで当日やることを想像することができた。
お礼として今度何か奢ってやろうとほんの少し思い、話し合った内容をもとに夕陽さんと連絡を取り合った。
そうしてできたスケジュールを確認していたら電車が目的の場所まで着いた、待ち合わせの場所まで行き辺りを確認する、どうやらまだ夕陽さんは来ていない様子だった。
『待ち合わせの場所に着きました』
『わかりました、私もそろそろ着きます』
連絡を貰い待つこと数分、夕陽さんから駅に着いたからこれから向かう連絡がきた。
『わかりました』
夕陽さんが到着するまでの間をそわそわしながら待つ、初めての経験なこともあってどんどんと鼓動が早くなっていくのがわかる。さながら待てを食らっている犬のような気持だった。
そんな気持ちで待っていると待ち合わせの近くに着いたと連絡が来た。
気持ちを落ち着けながら辺りを見渡すとこちらを探している夕陽さんの姿が見えた。
探している姿がかわいらしく見つめていたらどうやらこちらに気づいたらしく手を振りながらこちらへと近づいてきた。
笑顔で近づいてくる夕陽さんの姿がだんだんと鮮明になっていく、その姿を見た冬弥は衝撃で驚いてしまう。
毎朝見ていた明るい茶髪のボブヘアは太陽の光に照らせれ暖かくて優しい雰囲気が出ている、そしていつも見ているコンビニの制服ではなく大人の女性を思わせるような落ち着いた服装で髪型とマッチしかわいらしくも清楚感あふれるものになっている。
普段とは違う装いにドキドキしながら近づいてくる夕陽さんを見ていた。
「お待たせしました、冬弥さん」
「い、いえ、待ってないですよ」
緊張しすぎて返答がたじたじになってしまう。そうなってしまうほど今の俺には余裕がない。
小走りで来たためか目の前に着いたとき若干息切れを起こしている、そんな様子を目の当たりにしながらもなんとか顔を上げる前に気持ちを整えようと深呼吸をする。
「あれ、どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもないですよ」
急に顔を上げられたがギリギリで気持ちを整えることができた。
「それでは行きますか」
夕陽さんの息切れが治り移動できるようになったので最初の目的場所へと向かうことにする。
夕陽さんの隣で一緒に歩いて行けるなんて出会った当初は考えつかなかっただろうな、なんだか夢みたいだよ。
「そういえば冬弥さん」
「はいっ!」
そんなことを考えながら夕陽さんをたまに見たりしながら歩いていると、いきなり声をかけられてびっくりしてしまう。
「今日の予定はどのようにして決めたのですか?」
「と、いいますと?」
「私男の人とこういったお出かけに慣れていないので、どこに行こうかと悩んでいたんです」
「そういうことですか」
夕陽さん男と出かけるの慣れていないのか、なんだか少し安心してしまった自分がいる。
「実は俺も女性と出かけるの初めてなんですよ」
「そうなんですか、少し意外なような……」
これは喜んでいいのかわからないけど、前向きに受け取っておくか。
「それで俺の友達になれている奴がいるんで、そいつから助言をもらったんです」
「なら、そのお友達にも感謝しなきゃですね」
「あいつにも伝えておきますよ」
本当に伝えるかは別として……。
目的地に着く数分の間を夕陽さんと笑いながら話し合ったため、その数分が一瞬のように思えた。
「もう着きましたね」
「自分もたまに来ますけど、いつもより短く感じました」
「ふふっ、ではさっそく中を見ていきましょう!」
最初に来た目的地は駅前の百貨店、夕陽さんがよく買い物にくるらしく、服や雑貨などを見たりしているらしい。
俺もこの百貨店ではカフェで読む古本を買いによく来たりしている。もしかしたらどっかのタイミングですれ違っていたかもしれない。
そんな俺の考えなど伝わる訳もなく、夕陽さんは意気揚々と中へと入っていった。それを追いかけるように俺も早足で追いかける。
「最初の目的地はここです!」
追いかけて着いた最初の店はいつも横目でスルーしていたアパレルショップ、よくここで買い物をしている高校生やカップルなどを見たことがある。
まさかそんなところに来る日が来るなんて、前までの自分だったら想像の世界だけのものだったな。
「それでは冬弥さん、準備はいいですか」
「はい?」
いきなり心構えを聞かれたのと夕陽さんの気迫で後ずさりしてしまう。
しかしそんな俺を手を引き店内へと入っていく。手を握られたドキドキなど店の外に置き去りにされてしまった。
夕陽さん曰くこの店は大学生時代のころから来ており、その中でもこの店はお気に入りらしい。
「話したとも思うんですけど、私ショッピングが好きなんです、まあ見るだけで買わないこともありますけど」
コーディネートを考えながら夕陽さんは話し始める。
「それでコーディネートを考えるのが好きなんです」
「確かに毎シーズン変わる服の組み合わせを考えると楽しそうですね」
「そうなんですよ!」
俺の発言にものすごい食いつきをした。夕陽さんって結構感情豊かで表に出やすい人だな。
「秋穂にも言ったことがあるんですが、あんまり共感してもらえなかったんです」
「では一人で来てたんですか?」
「いえ、共感はしてもらえなかったですけどよく一緒に来て服を買ってます」
夕陽さんから聞く秋穂さんの印象は俺の持っている印象と同じでなんだか安心する。秋穂さん人柄の良さをここで再認識するとは。
「よし、それでは、はじめましょうか」
その合図とともに俺は驚くことになる。
夕陽さんは次々と選んだ服を試着室へと持っていったと思ったらどんどんと違う姿へと変身していった。
クール系、清楚系、かわいい系など、さながら変幻自在のように変化していくその姿は芸術的といっても差し支えなかった。
そして着替えるたびに夕陽さんは……。
「これどうかな」
「にあってる?」
「かわいいかな」
試着するたびに着飾った衣装を見せて感想を聞いてくる、そんな姿がかわいく思えて見ているこっちも楽しくなる。
その中でもクール系は目を見張るものがあった、いつも見ている夕陽さんの優しくかわいらしい印象からは想像していなかった、そのため着ていた中で意外性もあり見入ってしまった。
そうして一通り着た夕陽さんは悩んだ末に一セットだけ買うことにした。
「どれも似合っていたのに、買うのは一セットだけなんですね」
「はい、午後からも買うものがあるので今回はこれだけで」
その後荷物が多いと大変だからと付け加えた。
店長に頼まれた買い物の量を考えると確かに今買いすぎても辛くなるだけだな。
「あと、似合ってるって言ってくれてありがとうございます!」
そうやって笑う夕陽さんの顔は無邪気なものだった。
そしてその後の笑顔はいたずらを始めようとする子供のようなものだった。
「では、私が終わったので」
この後に続く言葉がわからないほど俺は鈍感ではない。だからこそこれから起こることを想像して息をのむ。
「今度は冬弥君の番ですね」
そうして違うアパレルショップへと連行されてしまう、途中お手柔らかにと頼んだのだがその時に。
「大丈夫です、たぶん一時間くらいだと思いますから」
……と言われてしまい覚悟を決めなければいけなかった。
一応言っておくと悪い気がするわけではない、むしろ嬉しいほどだ。
なのだが物には限度があって、何事もやりすぎというのはよくないもの。
そんなわけで夕陽さんの宣言通り一時間ほど着せ替え人形となり、その中で気に入った一着を購入した。
「いやぁ、男性の服を選ぶのも面白いですね」
「楽しかったようでよかったです」
疲れはしたものの夕陽さんからもらう様々な感想の言葉は嬉しく、また選んでもらうのも悪くはないな。
「そろそろいい時間ですし、軽く雑貨屋を見てから昼食に行きますか」
「はいそうしましょう、お腹がすいてきちゃいましたので」
そうしてお腹がすいた二人は百貨店から出る途中にある雑貨屋を軽く見ながら昼飯の場所へと向かった。
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