第6話日曜の朝日家
慌ただしかった金曜日が終わり、その疲れを土曜日をつかいカフェ巡りで癒していた、このカフェ巡りは趣味の一つでありおかげで今のバイト先も見つけることができた。
カフェにいるとき何名かと連絡をとっていた、その中でも主に連絡を取り合っていたのが夕陽さんだ。
日曜日の買い物に関するやり取りをし、その日に行くところや行きたいところを話し合い決めていた。流石に店長のお使いだけでは味気ないからな。
そんなわけで予定を決めた土曜日が過ぎて本日、気持ちの答えが出ないまま夕陽さんと出かける日曜日になった。
朝の八時、目覚ましの音に起こされて行動を始める、いつもの日曜でもこの時間に起き朝はゆっくりするのだが今日はそうはいってはいられない。夕陽さんと会う約束をしたのが十時なのでそれに向け準備を始めなければ。こういう時に起きてすぐに行動できる人で良かったと思う。
一階へ降りていき顔を洗う、昨日早く寝たためかすっきりとした顔をしているな。その後にリビングへと向かう。
リビングの扉を開きキッチンへ向けて声を出す。
「おはよう、父さん」
「おはよう、冬弥」
キッチンから顔を出しこちらへ挨拶を返した父さん。今は朝ご飯の準備をしてくれている。
朝日家では平日に母さんが料理を作り、土日は俺と父さんで分担して作ることになっている。俺は今日予定があるので父さんに料理を任せている。そのため昨日は俺が料理を作った。
キッチンへ行き父さんの隣でコーヒーを入れ始める、実はカフェでバイトするようになってからは店長からコーヒーの淹れ方を教わっている、なのでこうして家でも入れるようになり今では朝日家のコーヒー担当になっている。味はまだまだ店長や秋穂さんには負けてるけど。
入れ終わったコーヒーを手にテーブルへ座る、今では趣味となったコーヒーを朝に飲むのが休日のルーティーンとなっている。
「冬弥と吉野さんはよくコーヒー飲めるよな」
「父さんは飲むと腹壊すからね」
父さんはコーヒーを飲むとすぐ腹を壊す、だからいつもは牛乳を飲んでいるのだが。
「人の物って良く見えるだろう、飲めないのに飲みたくなるもん」
「またお腹壊すよ」
「わかってるよ」
一回本当に飲んでみたところやっぱり腹を壊してしまいトイレに籠ってしまったのだ、しかも後がちゃんといる状況で。
「もう二時間正座はしたくないからな」
「今度は三時間かもよ」
「勘弁してくれ」
そんな感じの会話をしているとリビングのドアが開いた。そこから出てきた人はあくびをし眠そうな顔をしていた。
「おはよう、母さん」
「おはよう、吉野さん」
「うん、おはよう二人とも」
そういいながら大きなあくびをした母さんだった。
母さんが席に座るのと入れ替わるように俺はキッチンに行き母さんのコーヒーを入れる。父さんのほうもそろそろ朝ご飯ができそうだ。
「はい、砂糖たっぷりのミルクコーヒーだよ」
母さんも朝は目を覚ますのにコーヒーを飲むのだが、苦いのが極度に苦手なので砂糖をたっぷりと入れたミルクコーヒーしか飲めないのだ。
「ありがとうね」
そういうと激甘なコーヒーを啜った、因みにこのコーヒーは母さんしか飲めなく、俺も父さんも挑戦したが駄目だった。
「やっぱ朝はこれを飲まないとね」
「入れてる段階から胸焼けしそうだったよ」
「毎朝助かるわ」
見てるだけで甘くなる舌を治すべくブラックのコーヒーを飲む、そのタイミングでご飯ができたみたいで、父さんがテーブルの上に並べていく。
俺と母さんの分を先に並べ、最後に飲み物と共に自分の分を持ってきて椅子に座った。
「相変わらずおいしそうね」
「ふふ、ありがとう」
「それじゃ、いただきます」
俺の後に続き二人もいただきますと言い食べ始める。
今日の朝はトースト、オムレツ、ウィンナー、サラダとなっている。父さんが当番の日になると食卓がオシャレになる。
そしてなんといってもおいしいのだ、今まで料理は趣味でやっていたがこれはお世辞抜きにもお店で出せるレベルだ。比較すると秋穂さんの料理と同じぐらいかそれ以上である。
卵の半熟具合や中に入れてあるチーズのコク、甘めに味付けられたオムレツは三人の好みで気を抜くとすぐになくなってしまうほど。
「やっぱこのオムレツ最高だわ」
「うん、いつ食べてもおいしいよ」
「二人ともありがとう」
味の感想を述べ食べ進めていく。
その間食卓には賑やかな話声が飛び交う、主に話しているのは母さんなのでそれに相槌を打つ感じなので、さながらライブのような状態になる。これが朝日家の休日の朝の光景だ。
「そういえば冬弥」
そんなワンマンライブを聞いていると突然話題がこちらに振られてしまった、こういう時はこちらにとっていいことがあったためしがない。
「今日ってさ誰とお出かけするの?」
やっぱりこの話題を振られたか。
「言ったでしょ、夏輝と行くって」
事前に夏輝と出かけると言っておいてある、なのだが……。
「はい、うそ」
あっさりと嘘だと言われてしまった。
「嘘じゃないよ」
「嘘でしょ、だってなんか女の香りがするもん」
こういう時の母さんの感はとても鋭い。なのでズバリと当てられてしまったのだが。
「言いたくはないけど俺に女性関係がある訳ないでしょ」
悲しいことに高校生になるまで女性関係が一切なかった人生だった、それは両親も知っているはずだが。
「あくまで白を切るわけね、あーあせっかく素直に話したらお小遣いでもあげようと思ってたのにな」
「今日はバイト先の女性先輩と買い物に行きます」
お小遣いの言葉で条件反射で応えてしまった、流石に本当の事は言えないから誤魔化したけど。 いくらバイトしてるからと言って小遣いが要らないわけではない、もらえるのであれば正直に答えるさ。
母さんはやっぱりねといった表情でこちらを見ていた、本当に何でわかるんだよ。
「取りあえず素直に話したんだから小遣い頂戴ね」
「わかってるわよ、お土産話期待してるわ」
最後に言った母さんの言葉を聞かなかったことにし早急に残りのご飯を食べ終える。
食器をシンクに置き水につけてリビングから出る、その間母さんから質問攻めをされるが全て答えなかった。
洗面所で歯を磨き部屋に戻って着替える、今日は暖かい日なのと夕陽さんと出かけることもありそれにあった服を選だ。
再び洗面所へ行き髪をセットする、ちょうど終わったタイミングで皿洗いが終わった父さんとばったり会った。
「冬弥ちょうどいいところに、ちょっといいか」
「大丈夫だけど」
「なら来てくれ」
父さんに誘われ後を追う、ついていった先は父さんの部屋だった、いったいどうしたんだろうか。
「ほらこれをあげるよ」
そういって渡してきたのは腕時計だった。
「これは……」
「これは父さんが母さんと出かけるときに着けていた時計だよ」
父さんの私物にこんな時計があったことを知らなかったが、なんで俺に?
「女性と出かけるのにいつもの時計とも行かないだろ、小遣いの代わりにこれをあげるよ」
大人の男性が付けるようなシックな時計、今の自分では重く感じる時計だ。
「今はまだ似合わないかもしれないけど、だからこそ今からつけておくんだ」
それ以降父さんは何も言わず俺はただお礼を残して部屋をでた。
時計を付けた姿を自室の鏡で確認する。なんだか少し大人になったような感じがしてむず痒くなるな。
「で、何覗いてるのさ」
「べっつにー、ただお小遣い上げようとしたらファッションショーしてたから見学をと」
覗かれていることに気づき話しかけたのだが、ファッションショーといわれると恥ずかしい気持ちになるからやめてほしい。
「それにしてもその時計懐かしいな」
昔の事を思い出し時計を見る母さん、その眼にはいったい何が映り何を考えているんだろうか。
「ほらこれお小遣い、楽しんできなさいよ」
雰囲気をぶった切るようにして渡してきたお小遣いを受け取ると母さんは部屋から出ていった。
何を思っていたかわからないが今は確認している時間もない、お金を財布に入れ出かける準備を終わらせる。
「それじゃ、行ってきます」
家を出て階段を下りてマンションの外に出る。夕陽さんに今家を出てこれから向かうと連絡をした。
今日をどうやって過ごすかの考えや心持もしてきた、あとは秘密をばれないようにして楽しく過ごそう。
改めてそう思いイヤホンを着けて歩き出した。
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