憂鬱な悪魔―足永裕太

 辺りに漂う人間の血と下等な神らの血の匂いで鼻が捥げそうになる。

 何度も何度も鼻を掻いても掻いても悪臭が鼻にこびり付いて離れない。

 

 ああ…気分が下がる…めんどくさい…憂鬱だなあぁ……ハアアァァァ……。


 深くため息をついても悪臭が漂っているこの状況は変わらない、すぐにでもここから離れたいくらいだ。

 

 でもなあ…ハア……仕事だしなあ…やらないといけないしなあ……ああ憂鬱だあ……。


 さっさと家帰ってビール飲みたいところだが、上からの指令で東京都内の神を始末しろとの御達しが来ちゃあやらなきゃいけない、やらないと俺の命が危ないからなあ。


 憂鬱に感じながらも近づき襲って来る神を二刀の刀で次々に斬っては弱点である心臓を突き刺し殺す。


 あーあ…神罰が始まる前の時もおサラリーマンやりながら暗殺対象を殺ったりとかブラックすぎるだろお、おまけに俺が一般人と偽るために勤めてる会社もブラックだしよお…。


 「人間だあぁ!いっただっきまぁーす!!」


 魚みてえな不細工な神が俺を喰おうと飛び掛かる。


 「こんなにブラックなら”八咫烏”に入んなきゃよかった……」


 ザシュッ!!


 「ギョギョッ!?」


 なんだよお、魚みてえな見た目でちゃんと魚っぽいこと言ってるじゃねえか。


 スパンッ カパッ


 「心臓はこの辺りかなあ……」


 グシュッ!!


 心臓を刺し、刺されたキモ魚は灰と化して宙を散る。


 「早く都内の神全部始末してビール飲も」


 一通り視界に入る下等の神々を殺り終え、また神を探しに歩を進める。


 あと2時間で終わらせたいところだなあ……。


 「あなた、不健康な顔してますねえ~」


 後ろ!?


 後ろを振り返り両刀を振るう。

 しかしその神は軽々躱し、俺から10メートル程の地点で着地する。

 俺の太刀を躱した神は俺と同じリクルートスーツを着ているが、顔はピエロの化粧をしていて気味が悪い。


 「やなタイミングで変なのが憑いちまったあ…憂鬱だなあ…」


 「まあそんなこと言いなさるな、私の最高のショーをお見せしようじゃないか」


 「めんどくせえ…暇じゃねえんだ」


 俺は距離を詰め神の心臓部と頭部を目掛けて突く、しかしまたも躱され俺の後ろに回り込んできた。


 「そう焦らず最後まで聞いてくださいな」


 攻撃が当たらないことに苛立ちつつ、イライラで荒くなる呼吸を治めようと深呼吸を繰り返す。


 「スーハー(俺の攻撃が当たらないのは)、スーハー(何かの能力か)?」


 「そうそう、呼吸を安定しなさいな、ふむ」


 めんどくせえが相手をよく観察しろ、何か秘密があるはずだ。


 「では私の奇跡をこれから披露いたしましょう!」


 ピエロ顔の神がテンションを上げようと自ら拍手をする。

 

 パチパチパチッ!!!


 うるせえなあ…。


 「イッツ!ショータァーイム!!」


 パンッ!


 手と手を叩いて合わせた、離すと同時に両手の中から黒い杖が出現した。

 神は杖を掴み、俺の方に杖を向けた瞬間―。


 カチッ


 地面からカチッという俺にとっては聞き慣れたその音を聞いた俺は瞬時に跳んでその場を離れた。

 

 バアンッ!!!


 離れると同時に俺がいた地点で爆発が生じ、爆発の影響で砂埃が舞う。


 爆発した!?杖を向けられた瞬間俺のいた所の地面が爆発した、こいつの能力は爆発系の能力か?


 「どうですか!?この私の奇術!まさにビューティフルなマジック!!」


 「ああ憂鬱だなあ…さっさと仕事片付けたいのになあ…」


 ピエロ顔の神との距離を詰め斬りかかり、こいつの能力を暴くことが先だなあ。


 「フウッ」


 いつのまに移動したのか、神が俺の隣に立ち耳元に息を吹きかけた。

 あまりの気持ち悪さに悪寒が走った。


 「どう?緊張は解れたかい?」


 俺は瞬時に刀を振るうが、もちろん当たらずピンピンとしている。


 気持ちわりい奴だなあ、面倒臭い奴だしうざいし息吹きかけてくるし憂鬱だなあぁぁ…。


 「さあ、私のトリックを見破ったかな?」

 

 俺はピエロ顔野郎の問いを無視する。

 まだ全部の能力の正体は暴けなかったが、瞬間移動のような能力の正体はさっきの行動で暴くことができた。


 瞬間移動のはたぶん…”影”だな。


 俺はピエロ野郎に斬りかかっては距離を詰めていく。


 当たりはしなくてもこれでいい、奴がもう一度瞬間移動を使うそのときが好機だ。


 斬りかかる中ピエロ野郎が突如姿を消す。


 今だ!!


 俺は後ろを振り返って足元の自身の影目掛けて刀を突き刺す。


 グサッ


 かかった!


 影の中で刺した物を力任せに地上に上げ出す。

 すると影からピエロ野郎が這い出てきた。


 「ぐはあっ!!」


 「さっき殺った魚みてえに無様だなあ…お前」


 そして奴の首根っこを掴み、二刀を心臓部と頭部に照準を合わせ……。


 「死ね、カス」


 俺はピエロ野郎の心臓と脳天を目掛けて突き刺した、しかし……。


 ヒュッ


 サクッ


 心臓と脳天を刺したが手応えがない。

 よく見ると、俺が掴んでいたそれはピエロ野郎のそれではなく、蛇の脱皮のような白い色の皮だった。


 「こいつ…脱皮で躱しやがった!どこだあ!ピエロ野郎!!」


 するとどこからかピエロ野郎「ここですよ」という声が聞こえ、聞こえた方向に目をやる。


 「クソピエロ……」


 「ふう…今のは危なかったですね、この脱皮能力は元々持ち合わせてない能力だったのですがね、あなたと殺り合うちょっと前に少し別の神といざこざがありまして…倒したついでに継承し得た力なのですよ、いや~持っておいてよかった」


 俺はピエロ野郎に少し腹立たしさを覚える中、ピエロ野郎が俺に一つ質問してきた。


 「あなた…人とは何か違う気配を感じますね、あなたは一体何者ですか?」


 「俺がぺらぺら言うと思ってるのかあ、お前と話すだけでも憂鬱に感じる」


 「そうか、せっかくですし…私の名はジョン・リッパーと申します、以後お見知りおきを」


 「覚えるだけ無駄だなあ…」


 しかしピエロ野郎は俺に構わずぺらぺらと喋り続ける。


 「私は生前アメリカ出身で主に手品を生業としていましたが、なぜか降臨後はここ日本なんですよね、私は何か日本と縁があるのでしょうかね?」


 「そんなもん俺には関係ねえがなあ…」


 ピエロ野郎はふうっと吐息を吐いて後ろを向く。


 「今日はお開きにしよう!ではまた!Adieu!!」


 そう言ってピエロ野郎はどこかへと消え去った。


 「ああ…変なのに時間を潰してしまった…あああ…憂鬱だなあ…」


 ピエロ野郎のせいで労力と時間を消費してしまったことに憂鬱さがさらに増し、気分が失せてくる。

 しかしだからといって仕事をこなさなくちゃいけないので、憂鬱で気分が乗らない時でも俺は面倒ながら神殺しを続行した。

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