暗殺執行人―鬼頭美夜

 「ああ、たった今目黒基地付近で一般人3名を保護した、救急を要請する」


 要請した私は、気絶している男性一人とそれぞれ違う制服の女学生二人に目をやる。

 発見時私は瓦礫に埋もれていた学生を助け出した後、学生二人に事情聴取を行い、身元や他に生存者を見かけたか等を聞いた。

 しかし残念ながら、学生二人いわく、この3人以外にも目黒基地内に正確な数はわからないが、まだ怪物らと対峙していた自衛隊員がいたらしい。

 すぐに目黒基地に入って生存者を捜索しようとは思ったが、3人を置いて向かうには危険と判断し、救助が来るまで生存者を怪物から守ることにした。

 待機している中、学生の一人が私に話しかけてきた。

 その人はどこかで見たような顔をしていたが、今はそれどころではない。


 「あの男とはどのような関係だ?」


 私は先程怪物と交戦し倒した後気絶した男性を指さして二人の女学生に尋ねる。

 怪物と交戦したその男性は、両手や足、肋骨などを骨折したりと重傷だったが、命別条はなく、今は平らな所で仰向けで寝ている。


 「いえ、初対面です」


 「うん、私も」


 二人は男性のことを知らない様子で首を振る。


 「そうか…」


 二人から聴取した内容をメモに残す。

 すると学生の一人…天内優里が私に話しかけてきた


 「助けていただいてありがとうございます、あの…お名前を伺ってもいいでしょうか?」


 私は彼女の問いに対し首を振る。


 「残念ながら、立場上それはできない」


 「そうですか…」


 「気持ちだけで充分だ」


 私は今回の怪物の出現時刻と範囲など得た情報を脳内で整理する。



 2018年10月13日9時00分00秒、東京都・函館・山形・栃木・名古屋・大津・大阪の上空にて正体不明の星形の文様が出現、同時に文様から複数体の未確認生物が出現、上陸した。

 上陸した未確認生物は、人々を無差別に殺害。

 未確認生物の中には多種言語を発する生物も確認。

 未確認生物の出現から15分満たずで東日本の大半が機能停止。

 同時刻にて、世界各地でも同様に未確認生物による殺戮が行われているという情報が入る。

 一般人が撮影したと思われる動画がSNS上にて公開され、中には未確認生物が人語で”神”と名乗る生物の動画を確認。

 

 怪物が出現した当初、私はちょうど”暗殺対象の死刑囚処刑中”であった。

 処刑中に建物の一部が欠損し、欠損部から怪物が侵入してきた。

 私は処刑を中断し、刑務官とそしてもう一人…不本意ではあったが、その場にいた死刑囚とも連携して怪物=神の討伐と生存者救出を実行した。

 この時怪物の出現の混乱に乗じてもう一人の暗殺対象の死刑囚が脱走。

 神の討伐を始めて30分後にたまたま日本に帰郷していた諏佐旺麒とも合流し、東京都を中心に怪物らを屠り、一般人を救助した。

 諏佐旺麒と怪物を処分する途中、怪物と交戦中だった女学生…天内優里を目撃。

 すぐに駆け付けようとした瞬間、諏佐旺麒が止める。

 

 「諏佐!離せ!」


 私を止める諏佐は静かにこう言う。


 「まあ見ておれ」


 この時の私は諏佐旺麒の言ってることが理解できなかった。

 そのとき、怪物が天内優里の頭を掴み殺そうとしていた。


 「諏佐!その手を離せ!離さないとお前の腕を斬り落とす!」


 「まあそう焦らず待て、おもしろいもんが見れるぜ」


 私が諏佐の腕を斬り落とそうとしたその瞬間だった。

 次に見た時の私の視界に映った光景に驚愕した。

 私が諏佐旺麒に気を取られたわずかな間に突如男が姿を現し、頭を掴まれていた天内優里を抱えていた。

 一方の怪物は片腕を失い、悲鳴をあげていた。


 「これはどういう…?」


 そう溢すと、諏佐旺麒がニカッとした笑みで私に言った。


 「なあ、俺の言った通り、おもしろいことが起きただろう」


 その一言に私は「ハア…」とため息を吐いた。



 3名を救助・保護してから30分後、北の方面から救急車が1台こちらに向かって来る。


 「来たか」


 その後私は3人を救急車に乗せ、救命士に怪我の状況を簡単に伝えてその場をあとにした。


 「…早く終わらせるか」


 見送った後私は後ろを振り返り、近づいて来る3体の怪物らを凝視する。

 3体のうち1体が人語を発し始めた。


 「なんだなんだあ?女が一人おるなあ、良い体つきだあ、太りすぎず細すぎず、そして胸も大きすぎず小さすぎずバランスのいい肉付きだあ」


 気色の悪いその怪物に嫌気がさす。

 対し怪物は饒舌に言葉を発する。


 「なあなあ、なんか喋ってくれないかあ、俺の採点項目には声質もあ――」


 ザシュッ


 変態野郎の首を刀で斬り落とし、止めの心臓部分を突き刺す。

 心臓を刺された怪物は跡形もなく体が灰のように散った。

 もう2体の怪物も驚く様子でこちらを睨み見つめる。

 

 「神に似ない醜い姿……」


 そしてもう2体も私に襲い掛かるが、難なく2体の怪物の心臓を一太刀で一気に斬る。

 心臓もろ共体を斬られた2体は最初の怪物同様灰の如く散り舞った。



 江戸幕府が成立してから徳川家が265年という長い期間絶対的な権力を握り続けたのには3つあった。厳格な法統治機能の整備、藩・朝廷・寺院への監視体制形成、そして…秘密裏に反逆因子を抹殺する幕府直属の暗殺一族”鬼頭家”の存在である。一族の発祥は謎に包まれているが、剣術を極め一斬りを生業としていた一族だったと言われている。のちに徳川家の目に留まり、江戸幕府成立後には国内外の反乱因子を取り除くことを目的とする暗殺部隊が組織され、幕府体制の維持に貢献した。江戸幕府滅亡後は明治政府がこれを継承し、その後一族は朝廷と国家を守護する秘密結社”八咫烏”の一派に加わり、国家にとって都合の悪い因子を始末していった。

 そして2015年1月1日、齢16にして400年ぶりに史上2人目の女当主が誕生した。それがこの女――名を…鬼頭美夜という。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る