人の形をした怪物―諏佐旺麒

 ―東京都目黒区にて呀嗟広斗を保護してから5分後、品川区にて。


 「ヒァアッハーーー!!!」


 目覚めると俺は筋骨隆々な体と体あちこちに車輪、さらには頭上に煙突とまるで子供向け番組の機関車みてえな醜い姿だった。

 意識はあったが、体は思うように動かず勝手に動き回っては人を轢き殺し、喰っていた。


 ガガガガガガッ!!!


 それがしばらく続き、大分人を殺した後気づけば俺は体を自由にコントロールできるようになり、言葉も喋れるようになった、しかも全ての言語だ。

 その後も何十人か殺したり人喰ったり(なんでか人肉が思ってたよりも美味かった)してるうちに今度は俺が生前人間だった頃の”記憶”が戻った。

 

 どうやら俺は生前、車で多くの子供を轢き殺し、事故って車を動かせない時には降りてまだ生きていた子供を包丁で刺したんだっけ?それで俺は死刑判決が出てその4年後死刑執行されて死んだんだった、だから俺は”あっちの世界では地獄行き”だったんだな、だが、今はどうだ、俺がただ”走った”だけで逃げ惑う人々が吹き飛ばされ、吹き飛ばされた人間は四肢共に捥げバラバラに散る、最高の眺めじゃあないか。


 「ケッケッケ…やっぱり癖になるぜえ!!」


 俺らにこんな最高の場を設けてくれるとは、今回は神様に感謝するぜ。


 「ゲハハハハハハッ!!!轢き殺すのたっのしぃいーーー!!!」


 ガシッ!


 「ヘア?」


 突如何かか俺の頭に付いてる煙突部分を掴まれ、視線を下に向けると地面と足が付いておらず体が宙を浮いていた。


 「これ、どういう状況だ?」


 今度は視線を少し後ろに向けると、図体は190はありそうなくらいでかく、見た目はただのむさ苦しい筋骨隆々なおっさんだが、どこか異様な気配と威圧さを感じた。

 その瞬間、俺の中の危険信号が本能的に発せられる。


 こ、こいつ!こいつはなんかヤバい!俺の本能が『早くこいつから離れろ』と叫んでいる!


 人間の男を視認した瞬間に感じた恐怖と生存本能で頭がいっぱいになる。


 俺は弱い人間を殺るために地上に降りたんだ!こんなヤバい奴と殺り合うために降りたんじゃない!


 焦りと恐怖で神の体なため比較的汗が出にくい体のはずが体中からジャバジャバと透明な液体が漏れ出ている。

 

 逃げなきゃ!こいつはダメだ!この場から…この男から離れないと!


 俺の脳裏にたった一文字が映し出される。


 ”死”


 ”死”への恐怖、死刑執行以来だが、死刑なんてもんじゃない!


 俺は頭を掴む手を引き剝がそうと両手で男の手を掴み返す。

 しかし、引き剝がそうにもビクともせず中々剝がすことができない。


 くそ!こうなったら握り潰してでも!


 両手に力を入れるが潰すどころか、痛がってる様子すらもない。

 すると男が突然俺に「どうだい?」と話しかけてきた。


 「束の間の強者になれた気分は?」


 そう言って男は口だけニカっと笑みをつくる。

 男のその眼差しがまるで俺を馬鹿にしているような目だった。

 男の笑みに俺は腹が立ってきた。


 「おい人間…俺を馬鹿にしてじゃねえぞ、俺は神からの祝福で強靭な肉体とスピードを手に入れたんだ!」


 「トー〇スみてえな面でか?ブフッ!ムハハハハハハハ!!!」


 「俺が…トー〇ス…だと?トー〇スみてえな見た目でなんか文句あんのか…」


 「なんだよ、まさか、気にってんのか?それで?ムハッハッハ!!!」


 男は片手で腹を押さえて大笑いし、挙句の果てには笑いすぎて涙も出ていた。


 俺を…馬鹿にしやがって…どいつもこいつも……。


 「気が変わった、やっぱりお前は俺がこの手で殺す!」


 俺は頭上の煙突から黒い煙…いや…毒ガスを放出し、奴の毒殺を試みた。

 どんなに強い人間でも、さすがに毒は効くだろう。

 しかし、男は俺の想定をまんまと裏切った。


 「ほう…毒ガスか、嗅いだことない臭いだな」


 な、な、な、な、なんでだあああああ!!!???


 「なかなかに悪くないが、スパイスが少々足りんな」


 なぜだ!?なぜ死なない!?


 「お前は一体何なんだ!!??」


 男に問うと、毒ガスを勢いよく吸いながら男は言う。


 「俺かあ?俺は……ただのしがないおじさんだよ」


 「クッ!人の形をした怪物め!」


 「怪物…ねえ、貴様のそのふざけた格好の奴には言われたくないな」


 男の一言に殺意を抱いた俺は男に向かって突進する。


 時速100キロの突進くらわしてやる!!


 男との距離を瞬時に詰める。


 死ねええええええええええええ!!!


 ズガ―ンッ!!!


 今起きた出来事に俺はすぐに理解することができなかった。

 男を轢き飛ばそうとした瞬間、頭上に衝撃が入り頭のみが地面に埋まった状態になったからだ。

 その時の俺は何が起きたのかさえわからなかった。

 すると、あしを掴まれたと思ったら男が頭が埋まった状態の俺を引き抜き、俺の顔を見てはニヤニヤと笑う。

 そして、男が俺に一言。


 「地面に埋まった時のお前の絵面、犬〇家の一族みてえで絶景だったぜ(笑)」


 このジジイ……!!


 「俺をコケにしたこと!後悔させてや――」


 その瞬間、俺の腹部辺りに衝撃と激痛が走った。

 地面に打ち付けられた俺はあまりの痛さに腹部を押さえてうずくまり、痛みが引くのを待つ。

 

 こいつ…ハア…ハア…俺の腹殴りやがったな……でも…早すぎて…見えなかった……いてえ……。


 痛みに苦しむ中、男が近くによってしゃがみ、俺との目線を合わせる。

 

 「なんだよ……」


 男は何かを考え込みながらこちらをじーっと見ている。

 じーっと見つめて男がはっと何かを思い出した様子で俺に話しかける。


 「俺さあ、なんでお前ら化け物共が心臓…いや、お前らが言う”核”という奴を破壊されないかぎり永遠の命と肉体の再生をすることができるそうだな」


 「それがなんだ?」


 男に問うと、ニヤついた顔で応える。


 「それはつまりよう……”核”を破壊されなければ、永遠にお前を”サンドバック”できるっつうわけだ……最高じゃねえか!」


 こいつ、いかれてやがる!本当にこいつは人間なのか!?人間であることが信じられねえ……。


 そして男はさらに笑みを深め俺に言った。


 「しばらくお前を練習台に使わせてもらおうか」


 「ハアッ?」


 バキッ!!


 突如俺の右頬に衝撃が加わった。

 たった一発の衝撃で俺の頭が変な方向に向いている。

 どうやら首の骨がお釈迦になったみたいだ。


 「ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!ゲ(イ)テエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!」


 痛い!痛い!痛い!早く!早く首の骨を再生し――。


 「もう一発いっとくか」


 バシッ!!


 強烈なビンタが俺の顔面真正面に襲い掛かる。

 あまりの衝撃に鼻の骨も頬骨も眼球もろもろ顔面の骨ほとんどが粉砕した。

 

 「あぎゃァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!顔がああアアァ…顔がアアアアアアアアアアアァァァーー!!!」


 「おいおい、まるでこの俺が虐めてるみたいじゃねえか、まあ…いっか」


 無我夢中で四つん這いになってでも男から離れようと必死に動く。


 ダメだ!やっぱりダメだ!こいつに構ってるどころじゃない!早く!早く逃げ――。


 グシャッ!


 「グガアアアアアアアア!!!」


 背中を踏み潰され足跡の穴ができ、地面が露わになる。

 穴から腸などの内臓が漏れ出でおり、失った肉体を再生しつつも想像を絶する痛みが襲いかかる。


 「ゆ…許してください……許してください……」


 「おいおい、ここにきて命乞いか?」


 なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ……ちくしょう…ちくしょう……。


 「み…見逃してくれ……」


 もう俺にできることは、ただただ命乞いをすることしかできない。


 「くっくっくっ……ムフ…ムハハハハハハハハ!!!」


 何笑ってやがる、頭がおかしくなったのか?


 俺は人間を甘くみた、元人間だったクズの俺でも、神の力を得た俺なら恐れるものなんてないと…だか、それは間違いだ。

 

 なかなか再生しきれない傷を見て俺は絶望する。


 神の力を得たとしても、今こうして人間であるはずの男によって追い詰められているのだから。


 「仕事じゃなけりゃあんた一人ぐらい見逃してやってもよかったが、残念ながらお前ら化け物を始末するよう言われてるからな」


 この時俺は次に男が言おうとしたことをだいだい察した。


 「あんたには悪いが、死んでもらう、だからといってすぐに殺すのもつまらん、あえてすぐには死なせず飽きるまでお前をサンドバッグしてやるよ」


 やっぱり、こいつはまともじゃない、轢き殺す趣味を持つ俺よりも、もっとヤバい奴だ。


 「や…やめろ……来るなぁ……やめろおぉォォォォーーー!!!」



 ―20分後


 「ふう…、20分近く殴り続けたが、うっかり心臓潰しちゃったせいでくたばっちまった」


 心臓を破壊する直前の時点ですでに化け物(神)の原形すらほぼ残ってない状態だった。


 「なかなかマシな奴は現れないものだな」


 たまたま故郷である日本に帰ってきたところでこのカオス、世界各地でも出現しているようだが…それより何か忘れているような。


 「あ…そうだそうだ、俺は飯食うために家帰ろうとしてたんだったわ」


 ひとまず帰路につくとするか…。


 「さあてと、この俺を楽しませる神はいるのかな?ムフフフ…」

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