憤怒の悪魔―呀嗟広斗

 目を覚ますと俺の視界に入ったのは真っ白な天井だった。

 意識が戻った瞬間左頬に激痛が走った。


 俺確か…何してたんだっけ?


 今の現状を把握するため自身の記憶を探る。


 俺は今日五代グループの常務に連れられて、それで真っ白い空間の中で俺は――。


 バキッ!


 突如俺の顔面にめり込む勢いの打撃を受けた。

 軍服を着た外国人っぽい男に乗られフルボッコで俺の顔面を躊躇なく殴る。


 そうだ思い出した、俺は常務の女に連れられて今いるこの空間内で女が「米兵を殺す気でかかれ」と言ってた、それで俺は……。


 俺が殴りかかったのを米兵が躱し、俺の腹に蹴りを入れて怯んだところを米兵に思いっ切り顔面を殴られた、殴られた俺は勢いよく吹っ飛び意識が飛んだ。

 そして今俺が目覚めた瞬間にこうして米兵が馬乗りになって俺を殴り続けているわけだ。


 やばい…「死なない程度に殺してやる」って言っておきながら俺の方が殺されかけてるのダサいな俺……。


 バコッ! バキッ! ボキッ!


 一方的に殴られるにつれ意識が無くなっていく。


 俺が神を殺せたのも…まぐれだったか……。


 殴られる激痛と奪われる命の灯に俺は「もういいや」と思い目を閉じようとした。


 ガシャンッ!!


 「目を閉じるな!!小童!!」


 空間に響き渡るガラスの割れる音と怒号に俺と米兵が声のした方を向く。

 ガラス越しに映る光景に俺は信じられない物を見た時と同じ感情に陥った。

 そして同時に怒りを覚えた。


 「米兵1人に手こずるようなら、この女を殺っちまうぞ!」


 俺より背丈のでかい男が隣にいた女…天内優里の首根っこを掴んで今にも殺す勢いで強く首を絞めていた。

 その光景を目にした俺は怒りが沸々と沸き上がり、叫んだ。


 「やめろ!天内さんは関係ないだろ!」


 何度も叫んでも男は天内の首を絞める力を緩める様子がない。


 「その手を放せ!放さねえなら!お前を殺す!」


 そう言うと男が俺の方を向き、ニタァっと笑った。


 「何がおかしい!」


 男はニタァっとした笑顔のまま大声で俺に言った。


 「この女を助けたければ、その米兵を殺れ!殺れたらこの小娘の命だけは助けてやる!」


 男の言葉に俺は男への殺意が湧いた。


 ”殺す”


 

 ―6分前


 私と義妹を助けてくれた恩人が一方的に殴られている光景に心が痛む。

 助けたい気持ちでいっぱいになるも、この施設に入る時事前に大男から「何も手出しするな」と言われており、動けずにいた。

 恩人が殴られる光景に嫌気がさして、私は隣にいた眼鏡をかけた男性に怒り心頭で詰め寄る。


 「一体ここで何をしてるの!?」


 眼鏡の男性が私に振り返り、事の状況を説明し出した。


 「今行われているのは、対神への抵抗分子であるかを測るための適性試験を行っています」


 「適性試験?あれが?…ふざけないで!」


 「ふざけ?まあ確かに本音としましてはこんなことは間違っていると思います、しかし…」


 眼鏡の男性は続けて答える。


 「現時点で神に蹂躙されつつある状況を打開するには、神に対抗し得る人材を見つけ、その精鋭のみの組織を作ることが今我々にできる最善であると私の取引先の常務がおっしゃっていました」


 「常務?誰が!?」


 眼鏡の男性に詰め寄ろうとしたその時、後ろから私の肩をポンっと置き、私を宥めようと大男が話しかけてきた。


 「まあそうカッカするな、少しは落ち着いたらどうだ?」

 

 「こんなのを見せられて落ち着けるわけな――」


 私の首に突如男の手が入った。


 「ちょいと失礼するぞ、小娘」


 首をがっしり掴まれ、掴む手に力を入れられ私の首が強く絞まる。


 「彼女を放しなさい、Mr.諏佐」


 眼鏡の男性が拳銃を取り出し、銃口を大男に向ける。

 

 「おっと、この俺に銃を向けるのか、弾がこやつに当たるかもしれんぞ」


 「いえ、射撃はあの惨劇が起きて以降から少々嗜んでおりましたので、外すことはまずないかと」


 「ほう、仮に外さなかったとしても、拳銃ごときが俺の息の根を止めるとでも?」

 

 大男はそう言い、私の首を絞める手に一層力が籠もる。

 

 だめ…息が……。

 

 呼吸ができずいつ意識を失ってもおかしくない状況に追い込まれる。


 「まあ見ておれ」


 大男がそう言うと、突然ガラスを割り、呀嗟さんたちに向かって大声で言った。


 「目を閉じるな!!小童!!」


 大男は続けて大声で言う。


 「米兵1人に手こずるようなら、この小娘を殺っちまうぞ!」


 そう言うと呀嗟さんが私たちの方に何か叫んでいたが、意識が薄れてゆく私には断片的にしか聞こえず何を言っているのかわからない。


 「この女を助けたければ、その米兵を殺れ!殺れたらこの小娘の命だけは助けてやる!」


 大男の発した言葉を最後に私の意識は途切れた。



 ”殺す”


 俺の中のたった二文字が脳裏に浮かび、男への殺意で溢れそうになる。


 一刻も早く天内を助けないと……。


 俺は米兵に押さえつけられる力に抗おうと地面を藻掻く。


 「Get down! 」


 動くなって?うるせえ!今はそれどころじゃねえ!お前に構ってる暇はねえ!


 「放せええええええ!!!」


 俺は米兵の首元のシャツを引っ張り思いっ切り米兵の顔目掛けて拳を振るった。

 怯んだ隙をついて俺は拘束を解く。

 そして俺は真っ先に天内のところに走る。

 しかし、俺の行先を阻もうと米兵が前に出てかかって来る。


 「邪魔だあああアアアアアアアア!!!!」


 俺は米兵目掛けて右拳を振るうが躱され足を掛けられそうになる、しかし…。


 「同じ手はくらわねえよ!」


 足を掛けられる力を利用して俺は体を回転させ、回転の威力を上乗せて米兵の顔面に蹴りをぶち込んだ。

 蹴られた米兵はさっき俺が吹っ飛ばされた時の距離を上回って遠くに吹っ飛んだ。


 「You fucking kid!」


 米兵は腰に付けていた拳銃を取り出し、それを俺に向ける。


 「Japanese, you die!」


 パンッ!


 発砲音と同時に一発の弾が俺に迫って来る。

 俺は反射で躱し全速力で米兵に接近する。

 何発も撃ってくるが難なく銃撃を躱していき、そして……。


 「よお、アメリカ人」


 米兵の目前まで近づいた俺は馬乗りとなって、さっきまで俺にしてきたことをそのままそっくり米兵にやり返す。

 何度も何度も米兵の顔面を殴打する。


 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!


 何度も俺に殴られる米兵の顔面から鈍い音がでようが反応がなかろうが何度も何度も何度も手が血で汚れても殴り続けた。


 こいつの次はあの男だ!天内を…その義妹も…俺なんかを治療してくれた医者も看護師も隣の入院してる人も罪のない人間を傷つけようとする奴は誰だろうが俺が全員ぶっ殺してやる!!!


 バキッ バキッ バカッ ボキッ ガリッ


 「さっさと死ねや!!!」


 ガシッ


 誰かが俺の腕を掴んだ。


 「さすがにやりすぎですよ、呀嗟広斗さん」


 後ろを振り返ると、眼鏡をかけた俺と歳の近い男がいた。


 「誰だお前ぇ!?邪魔をするなあああアアアアアアアア!!!」


 クイッ


 突如針金のような糸で体中を縛られ拘束された。

 拘束を解こうと体を必死に揺らし藻掻くがなかなか解けない。


 「てめえ…!何をし――」


 後ろ首に衝撃が走り、力がふっと力が抜けてくように意識を失った。

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神罰ーPunizione divina 神町恵 @KamimatiMegumi

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