サディスト―冴山幸

 ―神降臨1ヵ月前


 ガシャンッ!


 「おい!味薄いじゃねえか!取り替えろ!」


 俺は薄いスープの入ったカップを看護師に投げつけ言う。

 看護師は「すいません」と言いカップを拾って早々に病室を出ていった。


 「チッ!あとで親父に言いつけてやる」


 俺は味っ気のない病院食を食しながらスマホを見る。

 大手新聞サイトには”俺が起こした事件”の判決に関するニュースが大々的に報じられていた。



 5年前、俺は連続通り魔事件を起こした、23区を中心に人通りの少ない所で目をつけた女、子供を包丁で刺し殺した。

 俺は都内で最も規模のある病院の息子だ、そのせいで周りの目が鬱陶しかった、第一志望の大学医学部が落ちた時なんて癇癪を起した親父にぶん殴られた。

 あれから何度も浪人したが一向に受からなかった。

 日に日にストレスが溜まっていく中、ある日気づけば俺は人を刺し殺してしまっていた。

 初めて人を殺した時は罪悪感と困惑でいっぱいになった、しかし時間が経つにつれ今まで溜まっていた鬱憤が不思議と晴れた。

 それ以降俺は捕まるまで何度も何度も人を刺し殺しては遺体をそのまま放置を繰り返した。

 捕まってからは一時は留置所にぶち込まれたが、親父が保釈金を払ってくれたおかげで釈放された。

 しかしこのときの俺は15人を殺っていたため、当初世間の間では死刑は免れないだろうと囁かれていた。

 でも俺は死にたくなかったので親父のツテで心神喪失の診断書を作ってもらい、おかげで俺は15人を殺ったにもかかわらず死刑を回避どころか無罪を勝ち取った。

 

 無罪判決が決まった時の遺族の顔なんてめっちゃひでえ顔しててつい笑っちまったよ。


 遺族らが騒ぐ中、俺は付き添いの警官らと共にそのまま法廷を出た。

 


 無罪だからといってあくまで心神喪失ということでしばらく精神病院(親父に頼んでめちゃくちゃいいところ)に入院しなくてはいけなくなった。

 そう簡単に外に出れないのとたまに点滴(ただの栄養剤)打たなきゃいけないのと病院食の味が薄いと不便もあるが、それ以外はかなり快適に過ごさせてもらっている。

 

 「何度も親父を憎んだこともあったが、俺を無罪にしていいとこの病院にしてくれただけでも感謝してやるか」


 俺は新聞サイトを閉じ、ゲームアプリを起動して遊んでいるとコンコンッとドアのノック音がした。


 新しいスープ持ってきたのかな?また味気ねえスープだったらただじゃおかない。


 俺は「入っていいぞ」というとドアが開き、別の看護師が一人病室に入ってきた。

 入ってきた看護師を一目見た時、俺の視線はその看護師一点になる。


 こんな可愛い子この病院にいたっけ?それにあの顔…どこかで見たことがあるような…。


 ふとそう思ったが、それよりも俺は彼女があまりにも可愛かったんで連絡先を聞いた。

 彼女は眼鏡をかけていたが、くりっとした可愛らしい目とショート髪が似合う整った顔つきとバランスが良い。


 「なあなあ、君可愛いね、よかったら俺と連絡先交換しない?」


 これで断ったとしても、この病院は親父の系列病院の一つだから、この病院にいれなくしてやるぞと脅せばいい。


 しかし、俺の予想とは裏腹に彼女は笑顔で俺に「いいですよ」と返した。

 彼女の一言に俺は驚いたが平静を保ち俺も笑顔で返す。

 その後すぐに俺は彼女と連絡先を交換した。

 俺の連絡先を受け取った彼女は嬉しそうな表情で俺に「ありがとうございます」と言った。


 俺もまだまだモテるんだな。


 俺は心の中で歓喜していると、彼女は「点滴新しいのに変えますね」と笑顔で俺に言う。

 彼女のその笑顔が可愛くてついつい鼻の下を伸ばしてしまう。

 「ああ、よろしく」と言うと彼女は点滴を変える作業に入った。

 

 快適な病院で可愛い看護師と最高だな、ほんとこの病院に入院してよかったぜ。

 

 すると突如急激な眠気に襲われ、俺はあくびをしてベットに横になる。

 

 ああ急に眠く…少し寝るか。


 うっすらと開く目の視線の先に彼女が笑顔で俺を見て「おやすみ」と呟いた。

 彼女のその笑顔に俺はふと少し違和感を感じながらも俺は強い睡魔に抗えずそのままベットで意識を失った。



 ―5時間後


 んん…ここは…どこだ?


 目を覚ますと、視界には見知らぬ天井が映り、周囲を見回すと俺は裸の状態になっており、両手足が鉄の鎖のようなので縛られ、口も白いタオルのようなので塞がれ喋ることもできない。

 今の状態でただ事でないとわかった瞬間俺は縛られた鎖と口を塞ぐタオルを外そうと引っ張たり藻掻いたりを繰り返す。


 くそ!なんなんだ!?起きた瞬間この状況?何が起きたんだ!?くそ!外れねえ!


 混乱していると突如ドアが開き、女が一人黒いキャリーケースを背負って室内に入って来る。

 入ってきたその女を見ると、俺は目を疑った。


 お、お前は!


 俺が眠気で意識を失う前、点滴を交換しに俺の病室に入ってきたあの看護師だった。

 

 な、なぜ?なぜあいつが俺を?


 女が近づくと、俺の口を塞ぐタオルを雑に外し、顔の向きを無理やり女の方に向かされる。


 「おはよう、連続通り魔殺人鬼さん」


 女は俺を見るなり口が裂けるくらいの不気味な笑みを浮かべて俺に言う。

 タオルが外れ喋れる状態になった俺は女に怒りを向ける。


 「お前!この俺をこんなところに連れ出しやがって!お前のしていることは、親父の病院とそのバックにいる奴らを敵に回すのと同じことだぞ!」


 俺は女に思いっ切り怒号をぶつける。

 一方の女はハアッとため息を吐きながら俺に話しかけてきた。


 「ふ~ん、全然心神喪失じゃないじゃん、15人も殺した殺人鬼に多少興味あったけど、ただのクズで草」


 「はあ?なんだと!?俺を誰だと思ってる!東京の大病院の息子だぞ!俺はただストレス発散で貧乏人の女、子供ぶっ殺しただけだ!俺に殺された奴なんかむしろ光栄に思え!ってくらいだ!」


 しかし女は俺を差し置いて「ふ~ん」と興味なさそうに適当に返事をし、何かを準備し始めていた。

 よく見ると女が持っていたキャリーケースの中からノコギリや牛刀、ペンチを取り出していた。

 その光景を見た俺は女に恐る恐る問いかけた。


 「おい、それ…一体何に使うつもりだ?」


 俺の問いに対し女はニコッと笑い顔を使づけて耳元で俺に言った。


 「これから、あなたが死ぬまでの配信を始めるよ♪」


 そう言って女は豚の覆面を付けビデオカメラをセットし電源を入れる。

 そして女はカメラに向かって高らかに喋り出した。


 「みんな~!おまたせ!今日も視聴しに来てくれてありがとう、本配信は闇サイト会員レベル10限定『さっちゃんTV』よりお送りしまーす」


 そう言って今度は俺の方を向き、俺を紹介する手振りで説明を始めた。


 「今日の生贄は、三枝登、28歳、5年前23区を中心に何の罪もない女性、子供15人を殺害したクズ人間で~す!」


 「おいお前!何をほざいて――」


 ズシュッ


 突如俺の右手に激痛が走った。

 右手を見ると、女が牛刀で俺の掌を刺し、刺された部分から血が噴出した。


 「ギャアああアアアアアアアアアア!!!」


 女は苦しむ俺を見て「まだ喋っちゃだめですよ~」と挑発めいた口調で俺に言う。


 こ、このアマァァァ!


 女は両手を合わせてパンッと1回鳴らした後、机に置いておいたノコギリに手を伸ばし掴む。


 「みなさんお待ちかね!これからこのノコギリで×××病院のお坊ちゃんをスライスしていきたいと思いまーす♪ではまず右足から……」


 女の持つノコギリの刃が俺の右足に接近していく。

 刃がついに俺の右足に到達した瞬間。


 ギチュッ


 「うぎィ!」


 ノコギリの刃が俺の右足の甲にかかり、切れ目が入る。

 刃が入ると同時にだんだんと痛みが増していった。


 ギリッ ギチッ ギチッ 


 「アギャアああアアアアア!!!いてええ!!やめ!やめろおおおオオオオ!!」


 ガリッ ゴリッ ……ゴトッ


 「さっそく肉片1枚削ぎました!それじゃ続けてもう1枚!」


 ブシュッ! ガリリッ!!


 「あああああアアアアアアアア!!!!」


 ガリッ ゴリッ ギチチ…… ゴトッ


 「もう1枚も切れました!これを塊がなくなるまでスライスしまーす♪」


 「やめろおお…何が望みだ?…金か?金ならいくらでもやるぅ……」



 ・配信コメント


 なんでも金で解決しようとする上級国民の息子で草


 心神喪失扱いでいい思いしてんだからさっさと氏ね


 遺族もこれ見てんのかな?


 あいつが再び社会にでたらまたやるだろ?


 こんな害虫〇しちまえ!さっちゃん!!


 いつも応援してます。


 脱税した政治家H氏の次は通り魔殺人鬼かー


 三枝登スライスされてて草


 グロすぎて吐いたwww


 さっちゃんにスライスされんのむしろご褒美だろ


 われらの闇の正義さっちゃんでござる


 今日もいいもん見れたわ~


 来週も楽しみにしてます。



 「み~んなあなたの死を望んでるみたいだけど、今どんな気持ち?」


 俺の体は両手足も左目も下半身も切られ抉られ、残ったのは頭と胴体のみ。

 もう俺の中に抵抗の意志も力もない。


 「もう…俺を…殺してくれぇ……」


 俺の一言に女は「ん~」と考え込み、俺の周りをうろうろと歩く。


 「視聴者のみんなは彼をどうしたらいいと思う?」


 女はカメラに向かって視聴者に問いかけ、返答を待つ。



 ・配信コメント


 とりあえずスライス続行


 上に同じ


 さっちゃんにおまかせします。


 スライス続行!


 三枝登「もう…俺を…殺してくれぇ……」 自ら殺されたいと懇願してて草


 スライス!スライス!


 スライス一択で!



 「わかった!じゃあスライス続行ってわけで!三枝登はあと何枚持つかな?」


 女は躊躇なく俺の体をスライスしていく。

 切られるにつれだんだんと意識が遠のいていく。

 スライスされる途中残った右目、右耳、そして左耳も切断され、そしてついに。


 「おお!心臓が露わになってる!視聴者のみんなも見て見て!」


 女が切断部分に顔を近づけじっと見つめる。


 「心臓は…動いてるね、しぶといねえ~、そんなに生きたいんだ~、あなたのせいで死んだ被害者たちの方がもっと生きたかっただろうけど(笑)」


 「フシュゥ……フシュゥ……フシュゥ……」


 「……そろそろ死んでもらうか」


 女が俺の心臓を突き刺すと同時に、視界と意識が真っ暗になった。



 「生配信を見てくれてありがとう!来週の生贄は…この三枝登を無罪にさせるために診断書の偽造や三枝に有利な審理を行った生贄たち計5名を一気に殺りたいと思いまーす♪みんな!来週お楽しみに♪」

 

 

 2週間後、三枝登とその父三枝義武を含む6名の遺体が三枝義武の経営する病院の院長室にて凄惨な状態で発見された。それと同時に、突如一般動画・SNSのサイトにて三枝登の心神喪失の偽造と裁判に関する不正の証拠が大々的に公開された。

 これを受け警視庁は故三枝義武の経営していた病院及び不正に関与していた精神科医・裁判官らの自宅に家宅捜索が入った。また今回発覚した殺人事件こと通称『さっちゃん連続殺人事件』の重要参考人である”さっちゃん”の身元を捜査すべく捜査本部が設置された。


 ―2週間後


 "神"を名乗る正体不明の生物による大規模襲撃後、突如上からの指示により、『さっちゃん連続殺人事件』の捜査を打ち切ることとなった。

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