憤怒の男

 「広斗、ちょっといいか」


 父が突如俺を呼び、俺は座ってたソファーから立ち上がる。

 俺は「うんっ」と返し、父のところへと向かう。

 父はなにやら深刻そうな顔をしており、俺は何かしたのだろうかと思った。

 書斎に入ると、父は椅子に腰かけ俺と目線を合わせた。

 

 「広斗、昨日菜月ちゃんのお父さんから聞いたのだけど、3日前、実は…7年前菜月ちゃんを…轢いた人が…亡くなったそうだ」


 父の話に対し俺は「そうなんだ」と応える。


 「驚かないんだな、広斗」


 すると父は確認するような素振りで俺に問うてきた。


 「もしかしてだけど、親の私がこんなことを疑うのもその…あれなんだが、殺ったのは…広斗なのか?」


 父から発せられた問いに俺は驚きつつも平静を装い父さんに聞き返す。

 

 「仮にそうだとしてどうするの?父さん、俺に自首させるの?」

 

 問われた父はおれから視線を外して考え込む。

 しばらくの沈黙の末に父が俺に言う。


 「本来なら、自首させて私も共に罪を償うのが親として大事な役目だ、しかし……」


 父は拳を握り体も震えながら話を続ける。


 「このことが露見すれば、母さんも身内も不幸を与えてしまう、だから…今の私に広斗を自首させる勇気もない」


 そう言うと父は俺でも見たことがないくらいの大粒の涙を流し、俺を強く抱きしめた。


 「すまない、すまない、お前の苦しみをわかってあげられなくて…」


 父は何度も何度も俺に謝っていた、このときの俺はなんで父が俺に謝っていたのかさっぱりわからなかった。

 父の情緒が少し落ち着いた頃、俺は父との間に”ある約束”をした。


 「この先もしかすればまた自分の感情を制御できない時が来る、もし許せないことがあっても、絶対に自分を見失わず怒りを抑え、人を傷つけるな、広斗、約束できるか?」


 父が言ったことに俺は「わかった」と応じた。



 ―現在


 目を開けると、白い天井と明かりのついていない蛍光灯が目に入る。


 「ここはどこだ?」


 起き上がり辺りを見ると、俺はどうやらベットで寝ていたようで、閉ざされたカーテンと雰囲気でここは病院であることがわかる。

 そして、俺の近くには知らない女性が椅子に座ってこちらを見ていた。

 

 誰だ?確か俺は女子高生っぽい二人を助けあたりで記憶がない、この人は俺が助けたあの高校生?いや…違う。


 その女性は助けた人とは見た目が違く、俺的に美人な部類に入るがアラサーな雰囲気を醸し出している。

 俺はその女性に尋ねようとしたその時、女性は口を開いた。


 「どうやら目覚めたみたいだね」


 そう言うと女性は続けて俺に言う。


 「あなた、お名前は?」


 「?…俺は、呀嗟…広斗です」


 女性の問いに俺は警戒しつつも答える。

 名乗った俺は逆に女性に尋ねる。


 「えっと、あなたは…?」


 俺の問いに対し女性は少し微笑んで言う。


 「あれ?あなた、私のことは知らないのね、まあ…知ってる人はそんなに多くないか」


 「えっ?すいません、もしかしたら僕の方が忘れてるかもしれないです」


 女性は「ふうっ」というため息を吐いてから女性は俺に名乗った。


 「私は五代グループの常務を務める五代渚という者です」


 「五代グループって…あの五代!?」


 五代グループって言ったら、日本国内の財閥のうちもっとも規模の大きいことで有名なあの五代!?しかも俺の目の前にはその五代グループの常務がいる!


 もしここにスマホがあればすぐ調べたいところだが、神を殺してる途中どこかにスマホを落としてしまったので使うことができない。

 正直女性の言ってることも半分信じてない。


 そりゃあそうだ、だって五代グループの常務が一般ピーポーの俺に話しかける理由も微塵もないからだ。


 俺は五代グループの常務を名乗るその女性を疑いつつ、俺のような一般人に何の用なのかを聞いた。


 「そうね、用件を言いたいところだけど…その前に一つだけ確認したいことがあります」


 「?…なんでしょうか?」


 女性は足を組みなおして話し始める。


 「私の知り合いの方から聞いた話ですが、あなた、どうやら神奈川県から東京都にかけて化け物たちを単独で…しかも素手で始末していったようですね、それは本当ですか?」

 

 「はあ…そういうことになる…かな」


 女性の問いに俺は頷いた。


 「やはりそうですか、おまけに女学生を二人助けたりと」


 「殺しまわってたら、たまたま見かけましたので」


 女性は「へえっ」と言い、少し間が空いた後女性は続けて俺に尋ねる。


 「あなたは何か格闘技とかやってたの?」


 「いえ特に…あ、まあしいて言うなら高校生卒業まで剣道やってたのと、日常的に筋トレを少々やってたくらいです」


 「ほう…それであの化け物たちをねえ…」


 「何かおかしいですか?」


 「ん?いえ、なんでもありません」


 質問に答えた俺は本題に入ろうと女性に切り出す。


 「それで、僕に要件とはなんでしょうか?」


 俺の問いに女性は「そうですね」と応え本題に入った。


 「私はあなたを対神の戦闘要員として雇用しようと考えここに来ました」


 「俺が…戦闘要員に?」


 ん?今この女、”神”って、なぜ奴らが”神”だってことを?


 「そうです、あなたへの監視が解かれる1カ月後の話になりますが」


 女性の用件に俺は混乱した。

 まさか自分があの五代グループの元で働くなんて予想もしないかったのだから。


 あそこで確か新卒で年収340万…いや部署によったら800万以上のところもある。


 まさか大学二年にして大手から内定?をくれるとは夢にも思わない、でも、戦闘要員としたら一般の社員とは違うだろうな。


 俺は常務の女性に戦闘要員のことを聞いた。


 「あのう、戦闘要員とは具体的にどんなことをやるんですか?」


 「そうですね、まだ詳しくは決まっていませんが、主に化け物を倒すことが業務になると思います、ただし…」


 「ただし?」


 女性は俺の問いに続けて説明する。


 「正式採用の前に、あなたには試験を受けてもらいます」


 俺に言った時の女性の表情は険しく、眼に光はなく冷めていた。

 その眼で見られた瞬間俺は悪寒を覚えた。

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