融合
「どうしてここに…」
世界の異変に気づく最初のきっかけになった怪物…手から生じる爆発でクラス全員を殺した怪物が今私の目の前にいる。
殺された友人たちの死体を思い出し震えと吐き気を覚える。
怪物を窓から投げ落として以来どうなったかなんて気にもしなかったが、まさかまたあの怪物に出会うなんて思いもしなかった。
「フフフフフッ……」
最初に遭遇したその怪物は私の所へと歩を進めようとしたその時、頭上から押し倒されていた怪物が立ち上がり、鬼のような形相で押し倒した怪物を睨みつけていた。
「イギギギギギギギギギギギギギギギギッガリガリガリガリガリガリッ!!」
「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフッ――」
筋骨隆々の怪物は歯軋りを立てて威嚇しているのに対し、爆発を生じさせる怪物は余裕そうな表情で一方の怪物を見つめる。
怪物が警戒し合う中私と三咲はただ見ていることしかできなかった。
そして……。
「ギギャアアアアアアアアアア!!!」
「フウウウウウウウウウウウッ!!!」
相対する怪物の火蓋はついに切って落とされた。
体ががっしりしている方の怪物は両腕を肥大化させ打撃を加えようとする。
対し体は小柄だが手から爆発を起こす能力を持つ怪物は飛び掛かり、打撃を受ける前に相手の頭を掴む。
「フッ…」
小柄な怪物は勝ち誇った顔で両手から同時に爆発を起こした。
「フフフッ……フッ?」
爆発を受けた大柄な怪物は……無傷だった。
怪物はさっき私と戦っている途中で体全体を硬質化したのが功を奏したのか、頭に爆風が至近距離で直撃しても怪物には効かなかったようだ。
「ファッ!?」
怪物は驚いたような顔をして大柄な怪物から距離を取ろうとしたが、もう手遅れだった。
バチュンッ!
頭と上半身が両拳によって潰され、小柄な怪物は下半身だけを残して地べたに倒れる。
下半身のみとなった怪物は再生する様子はなく、突如下半身が砂化して形が崩れていった。
最初に遭遇した怪物の方がやられた…やられた方は体が崩れていってる……。
再生できる怪物とできない怪物がいるってことだろうか、または何か再生を止める弱点があるのか、しかし怪物に関する情報量が少ないせいで解明が難しい。
「どうすれば……」
2体が同時に襲ってくるという最悪の事態は免れたが、私たちが危機的状況なのには変わりはない、どうにか残ったあの怪物を倒さないと瓦礫で身動きができない三咲の命が危ない。
「早くこの場から離れないと…」
標的がこちらに向く前に私は必死に三咲の足を挟む瓦礫をどかす。
「お義姉ちゃん!あの怪物なんか様子が…」
三咲の指差す方を向くと、怪物がまたうずくまった体勢になり微かな唸り声を上げる。
「ググッ……グガガガッ…ガハッ」
怪物は頭を押さえながら苦しそうに唸り続けていた。
「ガアッ、ガハッ…ガハッ…ハア…ハア…ハア…」
唸り苦しそうだった怪物は通常の呼吸音に戻り、それから怪物は数秒ほどピクリとも動かなかった。
すると、怪物がゆっくりこちらに視線を移し、にっこりと想像上の悪魔そのものの笑みで口を開いた。
「コ…コ…こ…こんにちは、今、おれ、すごくいい気分…」
今まで唸り声だったり擬音語を発したりと人語を喋らなかった怪物が突如私たちに言葉を発する。
人語を発した怪物を前に私は驚きと恐怖が交互し金縛りにあったかのように体が動かない。
三咲も私と同じ心情なのか、三咲も私と同じ表情で瓦礫をもがく動作を止めている。
私たちは動けずにいるなか、怪物はお構いなしで陽気に話しかけてくる。
「きみ…知ってる、お前、女優だろ?もう一人の女子は誰だか知らんが、お前らで言う地獄ってところでもそこそこ有名だぜ、地獄にはテレビと少し似た仕組みの鏡でよく見かけてよう…最近の奴はこういう顔が好きなのかあぁ…」
怪物はゆっくり歩を進めこちらに近づいて来る。
ニタニタと笑う怪物に不気味さを感じつつ私は思考を凝らす。
小柄な方は上半身を潰されて死んだ、あの怪物だけは再生できるってパターンもありえるかもだけど、一か八か怪物の上半身を破壊できるくらいのダメージを与えないと、でも…どうやって…。
バンッ!
弱点を探る中、怪物は突如手から爆発を生じさせた。
それはまるで小柄な怪物が使っていた能力そのものだった。
「ほう…わるくねえなあぁ…こいつあぁ使えるなあ、ヒヒ…いいもん手に入れたぜえぇ…グッ!ガハッ!」
怪物はまた苦しみだし唸り声を上げる。
呼吸を荒げつつ怪物は落ち着きを取り戻し、お喋りを再開する。
「ハア…なるほどなあ、俺と同種の野郎を殺し魂を喰らえば能力を継承されるが人格もある程度入れられってこったあぁ…ああ…めんどくせえなあ…」
怪物との距離がだんだん詰まっていることに焦りを感じた私は正気に戻り戦闘の構えを取る。
「これ以上私たちに近づかないで!」
「へえぇいいじゃん女ぁ、いい根性してるぜえ…」
私の言うことに反して怪物は口からよだれを垂らして接近していく。
同時に怪物は体全身の筋肉をさらに発達させ、試しに両手に爆風を発生させていた。
「ほう…これがあの雑魚が持ってた爆手かあ、いいねえぇ…俺が元から持ってた筋殴との組み合わせもいい…これで思う存分壊し放題だ!ヒヒッ!」
怪物は私を見るなり舌をペロリとする。
「とりあえずお前を最初に犯してから四肢捥いでぐちゃぐちゃに壊すのもいいなあぁ、そして次はあぁ…瓦礫に埋もれてる小娘を犯すのもいいなあ…お前らを殺せば俺が殺して喰った魂63人分とお前ら2人、そしてさっき殺した怪物の魂の数57人分を合わせて……122人だ!」
怪物が私だけでなく義妹にも手を出そうしていることについに堪忍袋の緒が切れた。
「三咲には手を出すな…あなたが私の大事な義妹に手を出すなら、お前を殺す」
「おいおい、女が俺をお前呼びなんて可愛くねえなあ…せっかく別嬪な顔してるのによお…、まあいいか、100人分の魂に達したおかげで俺は前世の記憶と知能を取り戻したんだからなあ、そして俺はこれからもっともっと人間や他の怪物を皆殺しにしてよお…特に顔のいい女なあ犯して殺すのもいいなあ、俺を神として生まれ変わらせた”神”を今度は俺が殺すぜえぇ!」
怪物が距離を詰め私目掛けて拳が振り下ろされた。
ワンパターンな攻撃に対し簡単に躱せる…と思った。
ガシッ!
「ハッ!?」
「捕まえた♪」
怪物は右の拳を振り下ろす動作を瞬時に中断し、逆に左手が私の顔を掴んだ。
フェイント!?振ろうとした拳はフェイク!?
怪物は私の顔を掴み体もろ共上へと持ち上げる。
「おいおい、まさかまた俺が同じ動作で攻撃するとでも?ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!バアァカ!!記憶が戻った俺はお前ら人間と変わらねえ思考を持ってる、そんぐらいも予測できなかったかバカ女!」
怪物に好き勝手言われるこの状況に油断してしまった後悔と自責の念でいっぱいだったが、そんなよりも怪物への憎しみと罵詈雑言を怪物にぶつけたい気持ちの方が勝った。
しかし、口も塞がれた私には罵詈雑言をぶつけることすらできない。
「ンンッ!ンッ!ンーッ!!」
「どうだあ!?悔しいだろう?これが弱肉強食って奴だあ、弱い奴はなぁ、所詮なあんにも守れやしねえ…おとなしく俺に殺されていりゃあいいんだ!」
そう言うと怪物は私の顔を掴む手にわずかに熱が生じ始めた。
熱い…まさか!
「お前の根性に免じてお前だけは生きてるうちは頭吹っ飛ばすだけにしてやるよお、まあ残った体はあとで犯させてもらうけどな、せっかく貴重(女優)な玩具手に入れたんだあ、ついでにお前の義妹も一緒にあの世送りにしてやるよ…犯してからなあぁ、これなら寂しくないし義姉妹仲良く地獄行きだあ!死ね!」
頭を掴む手が強くなり、手から発せられる熱もだんだんと熱くなっていく。
「お義姉ちゃん!やだ!やだ!やめて!お義姉ちゃんを殺さないで!」
三咲が叫ぶ声が私の脳内に響く。
ごめん、守れなかった、嫌だ、まだ死にたくない、私が死んだら今度は三咲が……。
三咲が涙を流して怪物に懇願している。
殺される寸前でも三咲は「お義姉ちゃんを殺さないで!」と怪物に懇願し続けていた。
「お願い…殺すなら私を殺して…お願い…」
私のことはいい、せめて誰か…誰か三咲だけでも…助け…て――。
バシュッ!
死を覚悟した私だったが、バシュッという音が聴こえてから一向に意識を失うどころか、痛みすらも感じない、恐る恐る目を開けると見知らぬ人が私を抱えていた。
「あ、あなたは…」
私を助けたと思われる男は私の呼びかけには無言のまま、男は私を義妹の隣の位置に置く、男はスポーティーなズボンを履いていたが、上半身は裸のまま、体に血が付いている、足は靴すら何も履いてない裸足のまま、そのせいか足は傷だらけで所々出血していた。
「ギャアアアアアアアアア!!!いだい!痛い!クソがあアアアアアアアア!!!」
私の頭を掴んでいたはずの怪物の左手は無くなっていた、怪物は欠損部分から出血し右手で出血部分を押さえている。
「ああ…うるさいうるさい…耳障りだ、はあ…」
男に視線を移すと男は怪物の左腕を片手で持っており、それを適当な方へ投げ捨てる。
「なんだ?……ああ、わかってる……どうでもいい……放っておいてくれ」
男は一人でブツブツと呟いている。
誰かと会話をしているかのような口ぶりだが、近くに人も電話している素振りもない。
「誰だ誰だ誰だ!!??よくもよお!俺の腕引き千切りやがってよお!再生できても痛みはどうしようもねえんだよおぉ!!」
怪物は左腕を瞬時に再生させ男に急接近する。
「死ねえ!!クソガキがあ!!!」
怪物は男の頭を掴もうとするが避けられ、気づいた時には怪物は吹っ飛ばされていた。
「ググッ…クソがあっ……」
一方の男は右拳から少し出血しており、どこかで拳に負荷を掛けていたのか、拳の形がやや歪になっている。
「ああ痛いなあ、さすがに怪物素手で殺るには負担が大きすぎたか……まあいい、今は糞神を殺ればいいだけだ、ああめんどくせえ……」
吹っ飛ばされた怪物は起き上がり男に怒号を上げる。
「お前……よくもお楽しみを邪魔したなあぁ、ふざけんなよなあぁ……なあ!!」
「うるさい、お前はさっさと死ね」
予想外のことに私は状況が追いつかなかった。
しかし、ただわかるのは、私たちはあの若い男性に助けられたこと、そして私たちの味方の可能性が高いということ。
「あの!」
私の声に反応した男がこちらに視線を移す。
「助けてくれて…ありがとう」
「……」
彼は何の反応も示さず無言のまま怪物の方へと向かって行った。
彼は一体何を考え、そして何者なのか、今の私にはわからない。
でも……。
お願い、どうかあの怪物を…倒して。
私は彼に最後の希望を託すことにした。
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