義姉妹

 煙が舞う中、煙越しから薄ら影が映る。

 影の正体は私たちに襲いかかって地面を叩きつけたあの怪物だった。


 「フウッ!フウッ!ハアッ、ハアッ」


 怪物は鼻息を荒くしながらこちらに近づいてくる。


 まずい!怪物が目の前に!いや、それよりも三咲は!?


 私は必死に三咲を探した。

 しかし、立ちこもる煙のせいで視界が悪い。

 探しているうちに怪物が凄まじいスピードでこちらに接近してきた。


 「ギャハハハハハハハハハッ!!!」


 来る!


 躱そうとしたが、あまりの速さに目が追いつけず、怪物の拳が私のお腹にもろに入った。

 殴られ私のお腹からグリッと聞いたことのない音がした。


 「カハッッ!!」


 あまりの激痛とお腹の圧迫に嗚咽を漏らす。

 お腹を殴られた私は数メートルほど飛ばされ、壁に強く打ちつけられる。

 なんとか意識を失わずに済んだが、激しい痛みと倦怠感で体が思うように動かせない。

 一方の怪物は不気味な笑みを私に向け、ゆっくりこちらに近づいて来る。

 

 「クククッ……イヒイヒイヒイヒヒッ!」


 う、だんだん……意識が…保たなく…なっ…て……。


 意識が途切れようとした、その瞬間。


 カンッ


 ある方面から突如小石が飛んできて、その小石が怪物の顔面に当たった。

 怪物も私も小石が飛んできた方に視線を向けた。

 そこには瓦礫の中に一人倒れている三咲がいた。


 「お義姉ちゃん!」


 三咲は怪物の標的を私から三咲に移すためか、三咲は落ちている小石を拾ってそれを怪物目掛けて何度も投げ込んでいた。

 三咲の危険な行為に私は叫んだ。


 「三咲!やめて!私はいいの!だから三咲だけでも逃げて!」


 それでも三咲は小石を投げるのをやめる気配はなく、三咲はそのまま怪物を引きつけていた。


 「お願い!お姉ちゃんの言うことを聞いて!私はもう動けない!だから!」


 「お義姉ちゃん!」


 三咲は私に向かって声を上げ、そして言った。


 「お義姉ちゃん、私、左足が瓦礫に引っ掛かって動けないの、たぶん足は骨折してると思う、私じゃもう遠くに逃げれない、でもお義姉ちゃんならまだ逃げる力は残ってるよね、だから、お義姉ちゃん…逃げて」


 「そんなの……できるわけないでしょ!義妹を置いて!」


 いやだ、いやだ、お母さんだけでなく、義妹まで失ったら私……。


 「化け物!こっちよ!殺したいなら、三咲じゃなくて私を殺して!」


 怪物の向きを三咲から私に向かわせようと声を上げたが、怪物は私に一切興味を示さずそのまま三咲の所へと近づく。


 だめ、だめ、三咲には手を出さないで……お願い。


 私は体を動かそうと必死に全身に力を入れる。


 動いて、お願い、もうこれ以上失いたくない、動いて、私の体。


 三咲の所に向かうべく全身を無理にでも強引に体を動かす。


 義妹は…三咲は……私が守る!



 怪物をなんとか義姉から離れさせることができた。

 義姉が逃げる時間を稼ぐことができた、あとは隙をついて義姉が逃げればいいだけ。


 「フッフ!ギギギ!クフフフッ!」


 怪物は気持ち悪い顔に不気味な笑みで私を見つめてくる。

 怪物のその顔はまるで獲物を捕らえた喜びに満ちた顔のようにも見えた。


 怖い…でも、これでお義姉ちゃんが助かるなら私……。


 目の前にいる怪物に恐怖で体が震える。


 本当は死ぬのが怖い、今にでも泣き叫びたいくらいだ、でも、もしここで泣いてしまったらお義姉ちゃんのことだ、きっと私を助けに向かっちゃうだろう、だから泣くのを我慢する、だって、私は二度も命を救われたのだから。


 一度目は姉と兄を失い、施設に預けられる予定だった私をお義姉ちゃんと

その両親が私なんかを引き取ってくれたとき、二度目は私が怪物に殺されそうになったところをお義姉ちゃんが助けてくれたとき。


 私、幸せだったよ、お義姉ちゃんと最後まで一緒にいれて、私は先にお兄ちゃんたちの所に行っちゃうけど、お義姉ちゃんは生きて幸せになってね。


 「ありがとう、優里お義姉ちゃん」


 怪物の拳が私目掛けて振り下ろされると同時に私は目を閉じた。


 目を閉じてからずっと静観な時間が流れる、痛みも何も感じない。

 死んだのかと思ったが、体は下敷き状態の左足のみが痛むだけ、それ以外は特に何も違和感はなかった。


 私がふと目を開けると、怪物にしがみ付き首や足、腕を絡め身動きを封じる義姉の姿があった。

 

 「お義姉ちゃん!?どうして!?」


 義姉に問うと、義姉は怒った顔で私を叱った。


 「ばかっ!妹を置いて逃げる姉がどこにいるっていうの!しかもこんな無茶して!三咲が私よりも早くに死ぬなんてこと、私が許さないんだから!」


 「お義姉ちゃん……」


 義姉は怒り顔から笑顔へと変わり、義姉は私に言った。


 「三咲ちゃん、私が…お義姉ちゃんが…絶対に守るからね、そして二人で生き抜こう、死んでいった友達やお母さん、そして、三咲のお姉ちゃんとお兄ちゃん…静香さんと翔君の分まで……」


 そう言うとお義姉ちゃんは怪物の首を絞める腕にさらに力を入れ、「バキッ!!」という骨が折れるような音が響くと同時に怪物の首が変な方向に折れ曲がった。

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