安否

 「キャアアアァァァッ!来ないで――」

 

 グシュッ!


 「くそ!くそおぉ!なんで…なんでこんな目に遭わなくちゃならないん――」


 バシュッ! グシュリッ…グシャッ…グシャッ……


 「イヒ…イヒイヒイヒ…イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ…ヒックッ!」


 「いや……嫌!」


 ガシッ!


 「やだ!離して!嫌!いやあぁぁ!!!!」


 バリッ!!


 「痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!やめてええぇぇぇっ!!!!!」


 バシャッ!!! ズチャリッ…ビシャッ…ビシャッ……バシャッ!


 「スウウウウゥゥゥゥ……ハアアアアァァァァン……」


 

 一体なんなの!?なんなのあいつ!?いきなり教室に入ってきたかと思えば、こんな……こんな…ひどい…。


 怪物が突如教室に入ってきていきなりみんなを…何者なの?というか…人間なの?

 

 怖くなった私は教室を出てしばらく走った後、咄嗟に職員室に逃げ込み奥の机の下に隠れる。

 廊下では悲鳴やグシャッというまるで肉を雑に潰すような嫌な音が響く。


 「イヒヒ…ハアッ、ハアッ、スウウウウゥゥゥ…」


 職員室の廊下に響くその不気味な声…最初に教室で遭遇したあの怪物が私を追って来たのだろうか。

 

 「入って来ないで…入って来ないで……」


 しかし、私の願いに反し怪物は職員室に入ってきた。

 気配を悟られぬよう息を殺す。


 「フフッ、ヒヒヒッ!イヒヒヒヒヒッ!」


 怪物は最初に一番入口から近かった机を一つ蹴り上げた。

 

 バアンッ!


 蹴られた机は宙に浮き、その後机は地面に強く叩きつけられた。


 「フフッ…フフッ…」


 怪物は次に隣の机も蹴り上げた。

 

 怪物は一つ…また一つと隣の机を次々に蹴り上げていく。


 まさか机全部吹っ飛ばすつもり!?これじゃじきに見つかっちゃう!?


 怪物が机を蹴り上げていくにつれてだんだんと私の所に近づいていく。


 バアンッ! バアンッ! バアンッ! バアンッ! バアンッ! バアンッ! 


 どうしよう……足音が近くなってきた……。


 机が叩きつけられる音と足音がだんだんと近づく。


 バアンッ! バアンッ! バアンッ! バアンッ! バアンッ! バアンッ!


 ついに残る机は私が隠れる机一つのみが残された。


 「イヒヒッ、ヒックッ!!」


 怪物は足を高らかに上げ、机を思いっ切り蹴り上げる体勢に入る。


 殺される!!


 死を感じた直後、脳裏に義姉の顔が浮かび上がった。


 お義姉ちゃん、助けて。


 私は目を閉じてそう祈った。


 

 私はひたすら走った、辺りに怪物がうじゃうじゃいる恐怖も、自身の肺とお腹が苦しくても、足が疲弊しても、ただひたすら走る。

 1秒でも、義妹の所へたどり着くために、足を止めなかった。

 迫りくる怪物たちの襲撃を避けながら、どんな危険が待ち構えていても最短ルートで義妹がいそうな高校へと向かう。

 怪物が目の前にいようが、誰かが助けを求めていようが、自分が命の危機にあろうが関係ない、義妹の命ただ一つのみを優先するだけ。


 「お願い…どうか無事でいて、三咲ちゃん」


 義妹の通う高校にたどり着くまで精神的にも体力的にも辛くても私は走り続けた。


 

 正門へとたどり着いた私は目の前の光景に愕然とする。

 校庭には辺り一面死体やその一部などが乱雑に置かれていた。

 私に気づいて襲って来る怪物もいれば、私に目もくれず死体を喰うのに夢中な怪物もいる。

 

 「ウヤァハハハハハハハハッハアッ!!」


 後ろから迫る約2メートルはあると思われる大型の怪物からの斬撃を跳んで躱す。

 そして怪物の顔面目掛けて思いっ切り蹴る。


 「グヘアァッ」


 怪物が怯んだ隙にその場を離れる、演技のために学んできた格闘技を駆使し、次に襲い掛かる怪物たちに対し躱しては蹴り、ある時は落ちていた刃毀れのナイフを拾って怪物の目を刺したりと追手を撒いていく。


 よし、やっと正面玄関までたどり着けた、あとは校内を探して――。


 校内に入ろうとした瞬間、私の視界にわずかに見覚えのある…いや、あの惨劇が始まってからずっと探していた人がいた。

 すぐ視線をやや右方向にずらす。


 「…三咲…ちゃん?」


 視線の先には、机の下に隠れる義妹の三咲とそのまさに机を蹴ろうとする怪物の姿が目に入った。


 危ない!!


 ヘトヘトだったはずの体が自然と動いた。

 今までより全速力で三咲のとこに駆け付ける。


 だめ!だめ!三咲はだめ!殺させない!絶対!三咲だけでも!必ず!必ず!


 気づいた時には私は窓を蹴破って侵入し、さらにその怪物の顔面を渾身の力を籠めて跳び蹴りをかました。

 私に蹴り飛ばされた怪物は壁に思いっ切り叩きつけられ、「ゲハッ!」という声を発した。

 それ以降怪物は気絶したのか、呼吸音をするだけで体はピクリとも動かなかった。

 

 「ハアッ、ハアッ」


 ゆっくり呼吸を整えていると、右にある机の下からひょこっと三咲が顔をのぞかせていた。


 「三咲ちゃん!!」


 名前を呼ぶと三咲は駆け寄って私に抱き着いた。

 緊張が途切れたのか、三咲は私の腕の中で目と頬が赤くなるほど大泣きした。


 「お義姉ちゃあん!ヒッグ…怖かったよう…ウウッ」


 三咲が無事だった安堵からか、泣いてる三咲につられて私も涙を浮かべ、抱き着く三咲に対し私も抱き返した。


 「無事でよかった…本当に…無事でよかった」


 「お義姉ちゃん、助けに来てくれて…ありがとう」


 私は強く、強く、三咲を抱きしめた。

 

 絶対に離さない、三咲を必ず最後まで、命に代えてでも必ず……。


 三咲と抱き合う中、私は三咲を守り抜く決心がついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る