脱出
僕は夢を見ているのか、今僕の目の前には今話題の若手女優天内優里がいる。
理科室でひっそりと隠れているところに誰かが走る音がしたのでドア窓から廊下を覗くと、天内さんが怪物から逃げているのを見かけ、僕はドアを少し開け、天内さんが理科室ドアに近づいた瞬間俺は天内の手を掴み理科室の中へと引き込んだ。
「あなたは確か…教室を出た時の…」
天内さんが僕に話しかける。
僕の後ろの席だったせいで…いつも遠くからでしか見れなかったあの天内優里が…いざこうして間近で見ると…なんだろう…テレビに出ていた天内優里よりも…えいがのスクリーンに映る天内優里よりも…本物はすっごく綺麗ていうか顔の骨格がすっごく整ってて目と睫毛が大きくて…なんていうか…神秘的なものを強く感じる。
「そう、そうなんだ、僕がふと窓の外を眺めた時変なのがいて、先生の一人がその…殺されて、嫌な予感でしてそれで…教室を出たんだ」
ハアッ、ハアッ、目の前に天内優里が…緊張しすぎて平静を保つのがきつい、だめだ、顔が表に出ちゃえば絶対変な顔になる、そしたら天内が引くだろうし、キモ陰キャのレッテルを貼られてしまう。
「天内さんが無事でよかった…」
「横山君も無事でよかった、みんな怪物にやられて…一人じゃ心細かったから…」
あ、あ、天内さんが、ぼ、ぼ、僕の名前を、認識してくれていた!
あの天内さんが、僕とは天と地の差があるのに陰キャな僕の名前を!
嬉しさのあまり倒れそうだ、でも今はそれどころじゃない、天内さんを安全な所に避難させないと。
「あ、天内さん、一旦この学校から出よう、そして誰かに助けを呼…天内さん?」
天内さんは携帯を弄って何かをしようとしている、すると天内さんは「だめか…」と言って僕に顔を向けた。
「横山君、警察に電話したけど繋がらない、たぶん助けは来ないと思う」
「え?」
クラスメイトは死に、警察も頼りにならない、校内も…おそらく外も怪物たちでいっぱい…。
この展開、パニックホラーやゾンビ系などの漫画で読んだことある、この場合は確か主人公(僕)とヒロイン(天内優里)の二人で安息地へ逃げる展開だ。
まさかこれ、いけるのでは?天内優里と結ばれるルートが。
この場合は主人公らしい行動をとることが重要だ、つまり、今ここで主人公らしいことができるのは、僕しかいない。
ああ、神様、今まで妄想でしかでき得なかったことが、今、できます。
ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとず―――っと、天内優里を遠くからしか…こっそり付きまとって盗撮することしかできなかった僕に、こんなにいい活躍の場を与えてくれて感謝しかない。
「天内さん、僕と一緒に安全な所に避難しよう、二人で」
僕は天内さんの手を掴み引っ張る。
「ちょ、ちょっと待って横山君、どこへ向かう気なの?」
驚いた天内さんは僕にそう言う。
聞かれた僕は考え込み、とりあえず頭に浮かんだことを天内さんに伝える。
「例えばその…近くの自衛隊駐屯地とか?一番近い所といえばその…目黒基地とか?」
他に様々な避難先候補を述べたが天内さんの表情はどこか晴れない様子だった。
ここはやっぱり安全な所に逃げるよりまずは家族の安否を確認するのが先なのかな。
「もしかして、探したい人とかいますか?家族とか?」
尋ねると天内さんは顔を上げて重い口を開いて僕に言った。
「実は…義妹を…義妹を助けたいの」
天内さんそう僕に言った。
義妹?ああ、確か元は幼馴染だった子か、めんどくせえ…でも、だからといってそんなの無視しろなんて言ったら納得しないだろうし…仕方ない。
「そうだね、じゃあ先に義妹の安否を確認してから―」
「横山君!危ない!」
天内さんは青ざめた表情で僕にそう言っていたが、これを最後に、目の前にいたはずの天内優里の姿が見れなくなった。
今、私の目の前で横山君が…殺された。
死体となった横山君の体は力尽きるように横に倒れ、頭上半分が無くなり残った下半分の頭から大量に血が噴き出ていた。
ドアからゆっくり入ってきたその怪物は、さっき私を襲って来たあのメタボ体形の怪物だった。
逃げた時は動きは鈍くノッシノッシと動作が遅かったにもかかわらず、あのスピードでここまで追いついたということか。
「ムフンッ、ムムムッ、ムフン」
怪物の大きな手が私目掛けて振りかざしてくる。
瞬時に躱すが、怪物が床にたたきつけた振動で私の体に伝わって体がふらつく。
「なんて力強いの」
怪物はお腹辺りから人間サイズの手を複数生やし出して私目掛けて襲い掛かってきた。
「噓でしょ!?」
私は怪物から全速力で逃げるが複数の手が追跡してくる。
怪物本体は追っては来ないものの、代わりに触手がだんだんとこちらに迫って来る。
一体どこまで付いて来る気なの!?
私は足をさらに速く動かし、必死に触手から逃げる。
お願い!諦めて!
すると観念したのか、一階に降りたところでその触手は追ってくることはなかった。
触手を伸ばす長さに限界があったのだろうか。
「た…助かった、でも、助けられなかった…ついさっきまで横山君生きてたのに…」
私は正面玄関へと向かい、怪物が近くにいないのを確認した後上履きから靴に履き替え外に出た。
「そんな…」
私の目に映る光景にショックが大きすぎて一切感情が湧かなかった。
正門からさらに向こうで怪物たちが人を殺し喰い回っている、まるで獲物を狩る肉食動物のように…。
「もう…これは現実なんだよね…みんな死んだ、桃菜も…横山君も…」
これでもし、三咲も死んでいたら、私の精神は保たないだろう。
「お願い…三咲ちゃん…どうか無事でいて」
私は微かな希望を持って家族はもちろん…義妹の三咲を探しにまず三咲の通う高校へと向かった。
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