生きる
ハアッ ハアッ ハアッ
私は母と共に三咲の入院先の病院へ向かった。
警察から伝えられた事実がどうしても信じられなかったからだ。
三咲ちゃんが無事でよかった、でも…でも……。
静香さん…翔君…死んだなんて嘘だよね?
面会の受付を済ませ、少し経つと担当看護師に呼ばれ、三咲の病室に案内される。
ドアの3回ノックし、ドアの取っ手を掴む。
緊張でドアの取っ手を掴む手が震えたが、深呼吸して心を落ち着かせ恐る恐るドアを開けて病室に入る。
ベットには三咲は半身を起き上がらせており、私たちを見つめている。
「優里お姉ちゃん……」
「三咲ちゃん」
三咲は突如涙を流し、顔を埋める。
「お兄ちゃんが……お姉ちゃんも……うぅ…」
三咲は泣くのを我慢しようとしているようだったが、突如失った悲しみのあまり顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくる。
「なんで…なんで…こんなことに……なんで…私だけ…」
三咲の姿に私は心が痛んだ。
そうだよね、私なんかより三咲の方が辛いよね、両親だけじゃなく、姉兄まで……。
「なんで私だけ……いっそ私も一緒に死んじゃえばよかったのに!」
三咲のその言葉に私は三咲に近づき思いっ切り強く…抱きしめた。
私の行動に三咲は驚く様子を見せる。
そして、私は三咲に言う。
「死んじゃえばよかったなんて、そんなこと言わないで」
私は顔を合わせ続けて三咲に言う。
「三咲ちゃん…ほんとに…無事でよかった」
そう言うと三咲は大粒の涙を溢し私の腕の中にうずくまって泣いた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんの分まで一緒に生きよう、三咲ちゃん」
三咲は「うんっ」と頷き、上目で私の顔を覗く。
「私が…私が三咲ちゃんを一生守るからね」
三咲を抱きしめ撫でているうちに私も三咲と同様に失った悲しみが湧き上がり、病室で三咲と一緒に思いっ切り泣いた。
「ハッ!!」
まだ!まだここで死んじゃだめだ!
私は怪物の攻撃を寸での所で躱し、怪物から距離を取る。
怪物は相変わらず私への目線を外さない。
義妹…三咲ちゃんの安否を確認するまで、まだ…死ねない!
教室から出て廊下を走る。
怪物も私の後を追い、殺しに迫って来る
追跡を逃れようにもなかなか追手を撒けない。
早い、いずれ追いつかれちゃう。
私は逃げながら考えた、怪物から逃げ切る方法を。
考えろ、考えるんだ、私はまだここで死ぬわけにはいかない。
考えるうち私は一つある方法を思いつく、しかしそれは、やった試しもなく成功する可能性が低い、それでも…。
大丈夫、あのときドラマの撮影で学んだあれを上手く使いこなせば…。
私は怪物を”とある場所”へ誘導する。
失敗すれば間違いなく死、それでも、一か八かの賭けに出るしかない!
校内を逃げに逃げ、着いた先は行き止まりでその先は窓しかない。
私は怪物の方を向きそのまま行き止まりの前で立ち止まる。
怪物は「フウウゥッ!フウウゥッ!」と唸り声を発しながら全速力で私に向かって来る。
怪物はだんだんと私との距離を詰めていく。
10メートル…9メートル……。
頭の中で瞬時に怪物の接近速度、距離を計算していく。
5メートル…4メートル…まだ…あと少し……。
怪物は私の顔に触れようと右手を伸ばしてくる。
2…1……今だ!
顔に触れようとしているところを私は一歩後ろに下がって怪物の右腕を両手で掴む。
観察してわかった、この怪物、クラスメイトや私を襲う時必ず右手で顔を掴もうとすることが多い。
攻撃パターンとタイミングさえわかればあとは有利な場所に誘導するだけ、怪物だろうが化け物だろうが相手の行動パターンを理解すれば倒すなんて容易だ。
そして怪物の右手を引っ張って背負い、怪物を窓の外目掛けて思いっ切り投げ込む。
いっけええーー!!!
怪物は窓ガラスに衝突し割れ、背負い投げで怪物を外に追いやった。
私は怪物に追われながら5階まで登ってわざと行き止まりまで誘導させ、怪物が私の顔目掛けて腕を伸ばしたところで投げ技をする。
5階から放り出したのでその高さからの転落ならいくら怪物も死は免れない、たとえ死ななかったとしても損傷が激しくしばらくは動けないでしょう。
「アクション絡みで日本代表から直接柔道を教わったけど、習っておいてよかった」
私は顔や制服に付着した血や汗をハンカチで拭って廊下を歩く。
「一刻も早く、学校から出ないと……」
でも、怪物を倒したのはいいけど、逃げてる時からずっと何かが引っ掛かる。
学校を襲ったのは怪物1体……1体?
そういえば怪物がここを通る前から他の教室や廊下にはすでにあちこちで死体が散乱していた。
あの怪物はいつ他クラスの人たちを?
……まさか!
ずっと感じる違和感についに私は気づいた。
同時に前方の廊下と左側教室内入口近くから怪物と同じ嫌な気配を感じた。
来る!!
教室入口から出て来た怪物と前方から迫ってきた怪物2体からの攻撃を瞬時に躱した。
怪物は…1体だけじゃない!
教室から出て来た方の怪物は、お腹のたるみを全面に出した重量感のある体格におかめみたいな顔つきをしている、体長約2メートルといったところでしょう。
前方から襲って来た怪物は、足と胴体は小さいながらも腕が長く手の平はでかい、まるで妖怪”手長”のような容姿だ、それに両手には鉈のような武器を持っている。
「他にも怪物がいたなんて……」
私は2体の怪物から逃げる。
大きい方の怪物は体重が重いせいかのろのろと動くだけだったが、手長の方は手の長さを活かしてとてつもない速さで追って来る。
さすがにあの長い手に鉈を持った怪物には分が悪い。
廊下を走ってると不意に何者かに腕を掴まれた。
まずい!捕まっ―。
腕の掴んだその手は理科室からだった。
そして、私は理科室の中へと引っ張られた。
「アゥッ、アグゥッ、ピョッパッ」
手長の怪物は擬音を発してそのまま通り過ぎ、どこかへと消えていった。
「大丈夫ですか、天内さん」
声の主の方に視線を向けると、最初の怪物が教室に侵入してくる直前に教室から出たあの男子の姿があった。
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