放浪

 プルルルルッ  プルルルルッ 


 「はいお電話承ります、こちらマクドセブンストア南横浜店の田中でございます」


 「あのすいません、マクドセブンでバイトしてる呀嗟です」


 「お!呀嗟か!急に電話なんてどうした?今日の仕事とかで何か聞きたいことでもあるのか?」


 深く深呼吸した後、店長の田中さんに言う。


 「田中さん、俺、今日バイト行けそうにないです」


 俺の言葉に電話口から「はっ?」という声が漏れ、しばらく沈黙した後もちろん電話口から怒号が上がった。


 「おい待て!今日いきなり行けないって言われても困るよ!百歩譲って感染症とかに罹ったとかならまだしもよお!」


 怒号が飛び交う中、俺は平然と電話口に話かける。


 「店長、たぶん今日お客さんもう来ないと思いますよ」


 「…は?何言ってんだお前」


 「知らないってことは…まだ店は襲われていないみたいですね」


 「どういうことだ?」


 「ニュースかスマホでYAHOニュース見ればわかると思います」


 その後またしばらく沈黙が続く。


 「…え?これほんとか?」


 「…ほんとです、うちの大学なんて今じゃもう廃墟同然ですよ」


 「…わざわざ連絡ありがとな、じゃあ俺はどっかに避難…あっ」


 店長の様子がおかしい。

 電話口から田中さんの震えた声が聞こえる。


 「もう…どうやら店に入ってきちまったようだ…」


 「…そうですか」


 すると電話の向こうで悲鳴や物が壊れる音がし始めた。


 「う、嘘だろ!おいやめろ!近づくな!や、やめ…痛い!…やめろ……やめろおぉぉ――!!……」


 ツ――ッ ツ――ッ


 電話が切れた。



 「あ――…俺、これからどうしよう」


 自力で歩いて実家に帰るか、また安全そうな所に避難すべきか。

 どうすればいいのか、俺にはわからなかった。


 とりあえず東京にある実家の方に電話を掛ける。


 プルルルルッ  プルルルルッ 


 『ただいま、留守にしております、ピッと鳴りましたら、お名前とご用件を――』


 電話に出ない。


 両親の携帯にも電話を掛ける。


 プルルルルッ  プルルルルッ プルルルルッ  プルルルルッ プルルルルッ  プルルルルッ プッ――

 

 鳴らしても鳴らしても、一向に出る気配がない。


 両親の安否が確認できず、不安が積もりに積もっていく。

 不安が募ると同時に怪物たちへの怒りが湧き上がってくる。


 「あ…ああ…あああああアアアアア!!!クソッ!……クソクソクソクソクソクソ糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞糞!!!ッくそ!!」


 頭ぐるぐるする、イライラするイライラするイライラする。


 イライラが止まんねえ……。


 昨日まではいつもと変わらぬ日常だったはずなのに、今はなんだ?指原も死んで、両親の安否もわからない、みんな死んだ、指原たちを殺ったゴミ糞どもは俺がぶっ殺した、復讐は終わった…いやもうここで終わりにしたい。

 

 「とりあえず…久々に東京に帰るか」


 俺は東京方面へと一人歩いていく。


 『両親も無事だといいな、呀嗟広斗』


 脳内でサタンが俺の名を呼び、俺は「ああっ」と返した。


 もし、両親も死んでるなら、俺は…息絶えるまで一匹でも多く…人類を殺しにきた屑神どもを叩き潰してやる!!


 「待っててね、みんな、俺も後から逝くからな…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る