ラプラスの悪魔
『神を…殺して欲しい』
サタンは俺にそう言った。
ん?…ん!?……はあ!?
俺が!?神を!?殺す!?いやいやいやいやいやいや……。
『嫌ですよ!』
『でも生き返られるんだぞ、これでも安い方だと俺は思うぞ』
『嫌ですよ、俺痛いのやだし暴力やだし殺すのやだしめんどくさいし……もう…疲れたんだよ…俺は』
『現世で散々神殺してたのに?もったいな!』
サタンは俺の所に歩み寄り、俺の耳元で囁いた。
『指原仁花を殺した神……まだ殺せてないぞ』
サタンはニヤッと嫌な笑みで俺を見つめる。
そのとき俺の中で何かがプツンッと切れた。
そして俺は悪魔…サタンに向け言った。
『不本意だが乗ってやる、その話』
そう言うとサタンは嬉しそうな表情を向けて高らかに言う。
『いいねえぇその表情!やっぱこうでなくちゃ!人間は!』
サタンは俺の顔をガシッ!と掴み頭蓋骨がミシミシと鳴るくらいに強く握られた。
ア…アガッ……おま…なにを……。
『なあに、死にはしない、俺はただ、お前に見合った力を与えてやってるだけだよ』
痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
『へえ~君の覚醒…いや…従来持ってた能力の完全版か、さすがに俺の能力は引き継げれなかったみたいだけど、これはこれで悪くない』
糞が!離せ!離せ!頭が…割れ……る……。
またも俺の視界が真っ暗になりつつあった。
『ああそうそう!最後に言っとくけど、神の弱点は”心臓”だから、ちゃんとそこは仕留めるんだよ!そうしないと絶命しないから!』
それを最後に俺の意識は途切れた。
あの人間…下等神とはいってもあの数を一人でここまで応戦するとは、幸い”心臓”を破壊されずに済んだ下等神もおるが、損傷が激しく再生に時間が掛かっている者もおる。
とりあえずあの人間の心臓を貫けばもう生きられんだろう、呼吸も止まっているようだしな。
さて、ここ神奈川という地域に住んでる人間たちの殲滅はある程度済んだ、そろそろ東京に戻って―。
『神を…殺して欲しい』
突如悪寒が走った、異様な…かつて感じたあの恐怖。
なんだ?今のは?この懐かしい嫌な気配は?
気配を感じた方向に視線を向ける。
どこだ?一体どこに?……。
気配の元を探ると一点に目が行った。
「あいつか?さっき仕留めたあの人間から…なのか?」
その異様な気配の正体はわからない、ただ一つわかるのは…この男を確実に原形を留めないくらいに破壊した方がいい、神である我の本能がそう言っている。
念のためだ!殺るんだ!今!ここで確実に!
右の手刀を刃に変え、仰向けに倒れている男目掛けて刃を振るった。
刃を振るった衝撃で黒煙が舞う、しばらくして煙が止み男の遺体を確認する。
「な…ない!?」
そこに遺体はなかった。
どこだ!?どこだ!?まずい!我は…我はとんでもない失態をおかしたかもしれん!
全神経をとがらせ血眼で男を探す。
どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?どこだ!?
「動きがうるせえ……神の癖に、ガキじゃねえんだから落ち着いて探せよ、屑が」
この我が……屑…だと?
「黙れ!人間風情がぁ!!」
後ろに立つ男目掛けて刃を振るった。
殺ったか?
グキッ!!
ハッ?
突如視界が逆さまになる。
今、何が起きた!?なぜ視界が逆さまなんだ?
グシャ!!
「ぐはっ!!」
首に激痛が走った、この感覚を味わうのは1万2000年ぶりだ。
激痛元近くに眼を生成し、損傷部分を確認する。
首には大きな穴が開いていた、そこは……まさか!」
「へえぇ、首にも心臓あるんだね、でも死んでないってことは…まだ何個か体のどこかに隠し持ってるってことでいいかな」
心臓が弱点であることを知っている!?まあそれは別に問題ない、だが、上級の神である我の心臓一つを破壊するとは……。
損傷部分と心臓を再び再生させ、戦闘態勢になる。
「調子に乗るなよ…人間!」
「てめえこそ…人間舐めんじゃねえぞ、神様」
男は我に襲い掛かり、対し我は左の手刀にも刃を生やし襲い掛かる男目掛けて刃を振るった。
わかる…わかる…奴の動きが…前よりもわかる。
俺は昔からある程度人の動きを予測できてはいたが、それを遥かに上回るほどに動きが先読みできる、動作だけじゃない、風向き、気象、重力、ありとあらゆる物理現象までも予測できるようになっていた。
これがサタンから貰った力……”ラプラスの悪魔”とかいってたな、こいつはすごい…奴の動きが正確にわかる、いける!
俺は神を自称する怪物の攻撃を躱し反撃の機会をうかがう。
「出来損ないの神らよ!あやつを殺せ!」
不意に後ろから別の怪物が襲い掛かるが、難なくそれを躱し、カウンターで怪物の心臓を捥ぎ取り握り潰す。
周囲の動き全てが俺の手中にあった。
どうやら雑魚神は心臓を一つしか持ってないようだな、そして…他とは違うこの怪物(上級神)は心臓を複数持ってるようだ。
何個だ?奴は心臓を何個保有している?見極めろ、もっと中身のそのさらに中を透視するまでもっと…もっともっともっともっともっと……目に全神経を集中させろ!
するとわずかに心臓のありかが見えた。
場所は…さっきの首と胸そして……股関節部分…計3つだ!
俺は他の怪物含め間合いに入った怪物全員の心臓を次々に素手で貫き破壊していく、破壊された怪物は体が崩れ砂と化して消滅する。
そして俺は自称上級の神の隙をついて股関節に手刀を刺しこみ、仕込んであった心臓を破壊、続いて心臓が新たに再生される前に胸を、最後にさっき損傷を与え再生された首(心臓)を掴み握り潰す。
ギギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
心臓全て破壊された神は雑魚と同様体が少しずつ崩れ始め砂と化していく。
「おのれえぇぇぇ……人間……神であるこの我を……人間ごときが信仰の対象であるこの神に―」
「お前、なんていう神なんだ?」
「は?」
瀕死の神は俺の質問に高らかに答える。
「我はフィウメフレッド!祭神を司る神!この我に無礼を働いたこと、後悔させてや―」
ベラベラ喋ってる途中のところで俺は最後に残っていた顔面を踏みつけ声は途切れた。
「フィウメフレッド?祭りの神?知らね……」
だが終わったわけじゃない、周りにはまだ雑魚神とかいう怪物が何体か残っている。
『おい、サタン、俺の友人…特に指原仁花を直接殺った奴はまだこの中にいるか?』
俺の呼びかけにサタンが頭の中に響くように質問に答える。
『大半がフィウメフレッドとの戦闘で倒している、あとの残りはあいつとあいつと……あとあれの三体で全部だ、そいつらを殺ればお望みの復讐を成し遂げれるぞ』
俺はサタンに「ありがとう」と言い、残り三体はもちろん、ついで視界に入る他の怪物全員を無差別に殺し回った。
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