サタン

 ああ、俺、死んだか、体は痛くない、感覚がない、ここは……死後の世界?


 死後の世界にしては視界真っ暗でなんも見えない。

 いや、これが本来の死後の世界なのか。


 ああ、死にたくなかったあ、嫌だなあ、まだもうちょい生きたかったなあ……でも……怪物がうじゃうじゃいる世界で生きるのも嫌だし面倒くさいしイライラするしストレスなだけだし、友人も仁花もいない世界で生きる意味もない、おそらく両親も……。


 俺はこのまま死んでもいいや、そう思った。


 『ほぉう、ちょうどいい人間がいるじゃねえか』


 誰だ?この声は?聞いたことない声だ、でも声の特徴からして、男か?


 『誰だ?お前は?』


 俺は声のした方に向けて問う。


 『あ?ああ俺か?俺はお前ら人間で言う"悪魔"であり、悪魔の頂点に立つ"サタン"でもある、人間ごときが普通こんなお目にかかれない存在なんだぜ、光栄に思いな』


 サタンを名乗る男?は、成人男性と何ら変わらない見た目をしており、真っ黒な服に短髪ではあるものの長い前髪のせいで目元が見えない。


 サタン?あれか、確かキリスト教を創始したイエス・キリストの話でよく聞くあのサタンか、ほんとにいたんだな、悪魔って、まああの怪物がいるくらいだし、今更もう驚かない。


 俺は不意にため息を吐く。


 『おいおいおい、何をため息吐いてんだ?高貴であるこの悪魔大王の称号を持つこの俺様に?』


 『はあ……用がないならもう俺に構うな、こっちは気分が優れてないんだ』


 『礼がなってねえなあ、人間、お前は怖くないのか?悪魔の長であるこの俺を?』


 『あんなことがあって今更怖いなんて思うわけないだろ』


 悪魔は『へえ〜』と間抜けな返事をし、俺をじっと凝視してくる。

 しばらく凝視される中、悪魔はハッと何かを思いついたように指をパチンッと鳴らした。


 『そうだ!これもなにかの縁だ、お前に一つ提案がある!この俺様がお前を現世へ生き返らせてやろう!その代わり……』


 『その代わりなんだ?魂をくれとかなんかか?』


 サタンは首を横に振るう。


 『おいおい、俺を誰だと思ってんだ?下等な悪魔と一緒にしないでくれないか、男の魂なんてとうの昔に喰い飽きたわ』


 サタンの言動に腹は立ちつつも一呼吸おいてサタンに質問する。


 『んで、何が望みだ?』


 サタンはニコッと不気味な笑みを浮かべて言う。


 『まず一つはな、お前はもうすでに死人になっている、生き返るにはこの俺様の魂と貴様の魂とを融合しなくちゃあいけない』


 『つまり俺が生き返ると俺に憑りつくってことか?』


 『憑りつくって…俺は別に幽霊でもないがまあ似たようなもんだ、暇なときたまに精神内でお前に話しかけるかもしれん』


 『めんどくさ…』


 『まあその失礼な言動はさておき、もう一つなんだが…』


 『何?まだあるの?』


 『お前ほんとよく友達できたな、悪魔の俺が言うのもなんだけど』


 サタンはニコッとした表情から突如真顔になり、真剣な面持ちで俺に言った。


 『神を…殺して欲しい』

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