死
「そんな…嘘だろ…そうだこれは夢だ、うん絶対そうだ、そうだよな、早くこんなつまんねえ夢覚めないかな、ハハハッ……」
しかし、そんな都合よくいくわけがなかった。
どんなに念じても一向に悪夢から目を覚ますことは無かった。
これが紛れもない”現実”であることを理解したくもなかった。
「あああれか?これどっきりか?そうだろ?な?こんな悪い冗談やめろよ、な?」
体のほぼ半分を抉られ、僅かに指原を喰った痕跡が残っていた。
指原のそれはまるで獣が喰い残したそのものだ。
確認するように指原の顔に触れると冷たかった。
勘違いなどではない、間違いなくこれは生きてはいなかった。
死体に障るのは二度目なのだから。
「なあ…冗談だって…なあ…みんなぁ…指原さん……」
俺は冷たくなった指原仁花を強く抱きしめた。
もう二度と話せない指原を、昨日が最後の会話となった仁花さんを。
「うああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
またも大切な人を失う気持ちと守れなかった気持ちとが混在する。
失った悲しみに咆哮を上げる。
そして、俺の中に一つの黒い感情が芽生えた。
”殺す”
友人たちを!仁花を!こんな目に遭わせた醜い怪物ども!ぶっ殺してやる!!どんな怪物だろうと…全員ぶっ殺してやる!!
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
俺から奪う奴全員…殺す!!!
俺は指原仁花の遺体を近くのベンチに置き、右手で優しく仁花の顔を覆って目を閉じた。
「ごめんな仁花さん、もっと早く待ち合わせに向かってたら君を守れたのに…」
視界を仁花から怪物たちの方に移す。
「仁花さん、ほんとならちゃんとした場所で弔いたかったけど、いつか必ず弔いはする」
俺は友人たちを、指原仁花を殺した怪物らに一矢報いに駆け出した。
殺す殺す殺す殺す殺す
俺は目の前にいる怪物たちを素手と周りにある物とを駆使して一匹一匹屠っていく。
内臓破壊、首を捥ぎ取り、嚙み千切り、両目を抉り、四肢を捥ぐ。
普通そんな力業は元々やってもいないしできる腕力もないはずだったが、なぜかそれはできた。
普通ならありえないが、失った怒りのあまりやっけになって身体に馬鹿力を発揮しているからだろう。
しかし、体を酷使しすぎたせいか体のあちこちで悲鳴を上げていた。
それでも俺は怪物たちを殺す手を休めなかった。
また失うなら、もういっそのこと怪物たちを道連れに殺してやる。
体に激痛が走ろうが怪物に喰われ殴られ斬られようが次々に怪物を屠る。
ああ痛い…痛いなあ…痛いなあ…でも…もっと…もっと…殺さなきゃ…たとえ地獄に落ちようがなんだろうが…全部…壊してやる!
死ね!死ね!死ね!
お前ら怪物に生きてる価値ねえんだよ!一部が動物やら一つ目やら角生えてるやら変な顔と武器やらたまに片言な日本語や英語を使ったりやら不細工な姿で人の命奪いやがってよお!
お前らに!人生を…人の大切なもん奪う資格も権利もねえんだよクソ野郎!!
「例えお前らが悪魔だろうが神だろうが!全員まとめてぶっ殺してや―」
グシャッ!!
肉を抉るような音と同時に俺の体が動かなくなった、いや…体を動かす機能を失ったと言った方が正確かもしれない。
俺の胸辺りに心臓を貫く手が視界に入った。
後ろからただならぬ異様な気配と悪寒を感じる。
「悪魔は別に殺しても構わないが、神は殺してはならぬ」
後ろにいる”何者”かが一言そう言い、俺の胸を貫く手刀を思いっ切り引き抜き、同時に胸から噴水のように血が大量に噴き出た。
俺の胸を貫いた怪物は他の醜い怪物とは違って神々しい姿をしていた。
「人間も悪魔同様、醜く欲深い生き物、人間の存在そのもの価値は無し」
倒れいつ息絶えてもおかしくない俺にその怪物はそう言い残し、その場を去っていく。
「ああ…やべ…これ…死ぬ…でも…これで充分…仇…取れたよな…仁花…さん……」
俺は血が流れるにつれてだんだん意識を保てなくなり、ついには視界が暗くなり意識を失った。
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