第3話:馬鹿で変態な転校生

「お兄ちゃんのぉ.......あほんだらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


琴海は春巻きを口に放り込みながら、そう言い放って部屋に籠った。


「琴海...」


(すぐ振らなくても...金髪に戻すよう説得出来たのにな...)


泣き喚く妹の姿を見た将一は少し冷静にはなっており、後悔していた。


琴海は髪の色なんか〜と思っていたようだが、将一からしたら、どうしても金髪だけは無視できなかった。

一度金髪の美しさを知ってしまった将一には、頭から振り切ろうとしても、到底無理なことなのであった。


やはり、金髪に戻してもらうしかない。そう決心した将一だったが、今妹の部屋に行くほどの勇気は持ち合わせていなかったため、早めに家を出ることにした。


琴海が春巻きを全てかっさらってしまった為、一から弁当を作り直した将一は、5時半過ぎに家を出ることになった。

学校が開くのは7時からだが、そんな長く家に居る気にもなれなかった。


さて、どう時間を潰そうか...と考え学校と逆方向に歩いていると、一人の女の子が道のど真ん中に、座り込んでいたのだ。


「どうかしました?」


流石に車道に座り込んでいる子を無視することはできず、将一は声をかけた。

そして、彼女は僕と同じ学校の制服を着ていることにも気がついた。


(白の刺繍...同学年にこんな子いたっけな...)


そう考えていると、女の子はこちらに顔を向け、口を開いた。


「先日、この周辺に引っ越してきて、今日から新しい学校に登校するんですけど、たら高がどこなのか分からなくて...」


たら高とは、僕たちの学校の私立片桐高校の略称である。あまりにも頭の悪い学校なので、近所の人から''だら高''と呼ばれていたところ、いつの間にか''たら高''として定着していたのだ。


(ちなみに、''だら''の由来は富山弁らしく、富山弁で馬鹿、アホという意味らしい)


「はぁ...たら高は一応、向こう側を真っ直ぐ進めばありますが...」


たら高はすぐ近くにある。ここから歩いて行けば15分ほどでつけるだろう。僕はいつも徒歩10分かけて歩いて登校している。


「ちなみに...どこら辺に家あるんですか?差し支えなければ軽く地図くらい描きますけど...」


初対面の人に住所を聞くのはどうかと思うが、迷うほどということは、相当遠くから来ているんだろう。


「本当ですか!?えっと...ここです!」


おい、、、クソ近ぇじゃねえか、、、

なんなら俺より学校近くに住んでるぞ、、、

方向音痴にも程があるだろ、、


「家自体は学校から近いんですが...やっぱ初日に遅刻したくないし、早く着こうと思って...そしたら案の定迷子になって...」


ああ、この子なりの理由があったのだ。仕方がない。ただ、''アホ''なだけでこの子は微塵も悪くないのだ...


「確かに、遅刻は嫌だけど...学校開くの7時すよ?」


彼女はスマホで時間を確認して、目をパクパクさせていた。


「ほ、ほんとだぅ...まだ1時間もあるぅ...」


そうとう寒い思いをしてきたのか、彼女は半泣きになりながら身震いしていた。


「あの...一応僕の家近いんで、しばらく温まります?」


「いいんですか!?」


「まあ、他に寄るとこないですし...」


正直家には戻りたくなかったが、このままほおっておくわけにはいかない。それに、俺も今から1時間も時間を潰せる自信が無い。

どうせ妹は部屋から出てこないだろう。


「じゃあ、あっち側なので行きましょう。」


「はぃ!!ありがとうごさいますっ!!」


彼女は手を擦り合わせながら感謝してきた。


(よっぽど寒かったんだな...)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(ガタッ!!)


家に着いたので扉を開けようとしたが、鍵がしまっていた。

琴海...アイツもう家出たのか...


何故こんな早く家を出たのか理解できなかったが、今の状況に置いてはありがたかったので、特に考えないことにした。


「お邪魔します...あの...まずお風呂借りてもいいですか...?」


「お風呂?いいよ。」


まあまずは温まりたいよな。

彼女にお風呂の場所を教えたあと、俺は暖房をつけて待つことにした。


ーーーーーーーーー10分後ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼女はタオル1枚で、びしょびしょのまま飛び出してきた。


(おお...意外と着痩せするタイプなんだな...)

身長も普通の女子よりは大きいと思っていたがまさか、胸がそれ以上に発育しているとは...


「あのっ!!!!何考えてるんですかぁ??」

彼女の身体にしか目が行かなかった僕は、彼女に声をかけられ、咄嗟に彼女の顔に視点を持っていった。

彼女は驚いたような呆れたような、少し恥ずかしがっているような表情をしていたのだ。


「ど、どうかしたの?、」


なんかお風呂に気になるものでもあったのだろうか。そう尋ねた。


「なんで覗いて来ないんですか!!って言ってるんですっ!!!」


「は?」


彼女の怒りのベクトルが予想の右斜め上すぎるたため、思わず心の声が漏れてしまった。


「普通は覗くもんでしょぉ!」


「ふ、普通って?」


「道端の女子高生を拾う→家に誘う→風呂に入れる→風呂を覗く。これが全男子高校生の待ち望むラブコメ展開でしょーが!!」


「あなた私に発情しないんですか??私で勃起しないんですかぁ??お前さてはゲイかっ!」


この瞬間、僕の彼女への評価は

''馬鹿で真面目な馬鹿''

から

''馬鹿で変態な馬鹿''

に変更されていた。


彼女の奇行に少しうろたえていた僕だったが、ゲイだと決めつけられるのは不本意なので、訂正することにした。


「僕はな、ゲイなんかじゃねぇ、ちゃんと女の子が好きなんだよ!!」


「じゃあ何で覗いてこないんですか!!」


そりゃあ決まっている。黒髪の女の子の風呂を覗く馬鹿がどこにいるのだ。


「金髪じゃないからだよ!!!」


「は?」

次はアッチがうろたえていた。


「金髪なら覗く気にもなったが、お前はちょっとおっぱいがデカいだけの黒髪JKだろ!そんな女の風呂を誰が覗くんだよ!」


「あなたは、金髪が好みなんですか?」


「ああ。」

というかなんだその金髪フェチもあるみたいな言い方。金髪が至高なんだ。それ以外はない。


「そうですか.....失礼しました。お風呂をわざわざ貸して頂き、ありがとうございました。」


彼女は急に、風呂に入る前の調子を取り戻していた。


「ああ、そういえば名前も聞いてなかったな。僕は入見 将一、同じたら高の高校2年生だ。

好きな物は金髪だ。」


「私は東条 海月(東条 みつき)。東條英機の東条に、クラゲと同じ漢字で''みつき''です。みつきって読んで下さい。」


「ああ。じゃあ、僕も将一で良いよ。あと、敬語とかも別にいらないよ。」


「わかったわ。」


さて、これから1時間弱、どう時間を潰そうか...


「あの...彼女とかいたりしたの...?」


「唐突だな...いる...というか、今朝別れたんだ。」


「なるほど...それでこんな朝早くに...」

彼女の頭の中で、段々と整理が着いてきたらしい。


「ところでよ、みつきは何組に転校するか、もうわかってるのか?」


「ええ、確か3組だったはず...」


「おお、俺と同じじゃないか。よろしくな。」


「初日から友達ができるなんて、私ツいてるかも。」


気が合うのか、初対面にしては話が弾み、あっという間に7時になった。そして何故かこいつは俺が好きな髪型だの、金髪の素晴らしさだのの話に食いついてきていた。


「もう7時だし、そろそろ向かうか。」


「うん。そうしましょ。」


朝から琴海との喧嘩で落ち気味だったテンションは、海月との会話で取り戻しいつも通りの学校を迎えることとなった。









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金髪''が''いい!!! 久保田 @KANINAYUtabetai

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