第7話 終わりは始まり

翌朝、4人は最後の戦いの地に赴いた。

山に向かう道中にも魔物はほとんど出ず、逆に緊張感が高まった。そして。

「ここか……」

山の中腹にちょっとした要塞、とも言えるような建物があった。そして、塀の周りは大変屈強な女性たちが取り囲んでいた。

「女だけの国、か」

赤は呟くと、どう突入するかの作戦を立てた。といっても、考えたのは3人なのだが。

まずは、適当なところにイリディセントの爆発魔法を放ち、気を引いている隙に侵入する。襲いかかってくる者がいたら、赤が死なせない程度に攻撃し、動きを止める。その間にチェリーはトラップがないか確認し、あれば全て解除、建物の入り口を開ける。スノーホワイトは、赤に怪我があれば治療をし、暴言を吐くものがいれば睡眠や沈黙魔法で黙らせる。沈黙魔法はイリディセントも使えるので、とりあえず相手を黙らせる。必要に応じてはチェリーの吹き矢も使う。力に訴える者には赤が対応する。

「よし、行くぞ」

作戦ができたところで、4人は要塞へ向かっていった。


「大爆発!」

イリディセントが塀の周り、入り口から遠いところを何ヶ所か爆破した。異変に気づいた女性たちがそちらに気を取られている間に正面突破だ。当然、剣で襲ってくる者もいる。そこは赤がサクサクと片付けていく。

「ほい、こっちも。あちこちにあるっすねえ」

などと言いつつチェリーは端からトラップを解除し、正面の鍵を難なく開けた。

突然の侵入者にちょうど食事中だった住人たちは驚きを隠せず、

「なんでここに男が!?」

「穢らわしい! 出ていけ!」

などと言いながら皿やカトラリーを投げつけた。それをスイスイかわして、チェリーは奥の扉の鍵をどんどん開けていく。

「極大発光!」

イリディセントは発光魔法を放ち、騒ぐ住人たちの視覚を一時的に奪う。当然、パーティーの4人はサングラスで防御済みだ。

「集団睡眠。はい、みんなおやすみ」

あまりにも人数が多いので何度もかける必要はあったが、ひとまず全員眠らせて4人は奥へ進む。そして。


「来たな、クソオスども」

玉座に余裕そうに座った魔王ことフロートは、落ち着いた声で罵声を放った。それとともに、

「集団発火!」

と、全員を炎の渦に巻き込んだ。

冷静に考えて、パーティーは全員、紙だ。火には弱い。

「緊急消火! スノーホワイトさん、発火封じ、ない、の」

特に体力のないイリディセントはもはやこれだけでも息も絶え絶えだ。

「効くかわからないが……強力沈黙!」

フロートに向かって唱えるも、動じた雰囲気はない。流石魔王だ。

「お前たちクソオスどもに生きる価値などない! 燃え尽きてしまえ! 集団発火!」

何度も炎の魔法を放つ。そこに、チェリーがシャッ、とカーテンを引く。

「いやー、耐火カーテンパチってきてよかったっすよ。今のうちにホワさん、治療頼みます!」

なぜすぐに出さない、と思いつつもスノーホワイトは治療魔法をかけた。過去にないような大怪我……大火傷だったが、それに興奮している暇はない。とりあえず特に重傷なイリディセントには、時限回復魔法もかけておいた。数秒ごとに体力が回復していくものだ。

「こいつ、イリディセントを……!」

幼馴染を盛大に傷つけられて怒り心頭の赤は、自分の火傷もかまわずフロートを斬りつけた。

「炎属性……付与……」

弱々しい声でイリディセントは赤の剣に炎属性を付与するとともに、ぱたり、と意識を失った。死んでいるわけではない。ただ、完全に戦闘不能状態だった。

炎属性付与された剣は赤にとって諸刃の剣であった。フロートを斬りつけ、燃やすと同時に自分も火傷を負う。だがそんなこと関係ない。スノーホワイトは防火カーテンの影から必死に回復魔法をかける。チェリーは防火カーテンで3人を囲むので精一杯だ。やがて……フロートも赤も瀕死の状態になった。

「おのれクソオスども……なぜ抵抗する、お前らなどこの世に必要ない。女だけで、女だけの世界を作り、穢らわしいクソオスどもを殲滅するのだ……」

「お前は……それが正しいと思っているのか……」

両者ボロボロだ、スノーホワイトも回復魔法をかける余力もない。

「正しいに決まっている、クソオスどもは女性を虐げ続けてきた。そんなヒト以下の生き物に価値はない!」

「そうか、クソオスか……」

赤は一息つくと一気に捲し立てる。

「お前の正義ってのは、思想ってのは、相手を下げないと成立しないその程度のものなのか!? 俺たちは旅の最中、男がいようと自由に生きている女性たちをたくさん見た! 男がいると自由に生きられない、その程度の思想なのかお前の思想は! 女性はそんなに弱い人間じゃない! お前の思想はな、男女平等でも男女同権でもない、ただの女尊男卑、男性嫌悪に過ぎない!」

もはや声もろくに出なくなりながら続ける。

「俺たちを全員殺したところでな、男がこの世からいなくなるわけじゃねえ。あんたが敵だと思っているやつらはいくらでも出てくるんだよ! その度に焼き殺して、それで満足か! 本当にあんたが、女性が強いなら男がいようと自分たちの権利を勝ち取れるはずだろ、そして……そういう…‥人たち……は……」

目もろくに見えない。それでも赤は訴え続けた。

「ちゃんと……いるんだ……よ……」

言い終わるとともに、赤は倒れた。

それを聞きながら、フロートはいろいろなことを思い出していた。


「女なんだから家のことだけしていればいい」

「お前みたいな不細工、生きている価値がない」

「女は25過ぎたら終わり」

次々、次々と過去に言われた辛いことを思い出した。

しかし、今は…‥


「大発火!」

最後の力で、フロートは魔法を放った。

しかし、その相手は赤たちではなく、自分だった。

「さらばだ、クソオスども……私もそんな時代に……生まれたかっ……」

言い切らないうちにフロートは絶命した。

かくて、魔王は討伐された、わけなのだが……。


満身創痍で逃げ出した4人は、燃え上がる建物を見ながら複雑な感情に包まれていた。

過去虐げられていた女性が、男性と同じ権利を得ようとして戦った。しかし、それを曲解し男を虐げようとする者も多数現れた。フロートは

「そんな時代に生まれたかった」

と言いながら燃え尽きていったが、果たしてこの時代でも全ての人間、男女問わずだが、生き生きとしていられているだろうか。答えは否である。


「まだ……終わんねーな、終われねえな」

赤は呟く。

「そうだな……もしかしたら僕たちが生きている間には終わらないかもしれないよ」

スノーホワイトは答えた。

それでも、少しでも進まなくてはいけない。

一生解決できない問題だとしても、立ち止まっている場合ではないのだ。


街に戻り、英雄と讃えられた彼らであるが、彼らは、いや、多くの人は知っているのだ。

戦いはまだ終わっていない、平和はまだ、遠いのだと。

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紙ですが魔王倒してきます 天竺葵 @aoitenjiku

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