第6話 意外な邂逅
「そういえばさー」
赤がやおら口を開く。
「俺たちさあ、なんかいろんなことに巻き込まれてばかりで魔王の居場所調べてなくね?」
赤にしては珍しく正論を言った。
「そういえば、そうだね。どこかの街のギルドにでも寄って情報を探すかい?」
スノーホワイトですら、そのことを失念していたようだ。無理もない、行く先々で色々なことに巻き込まれてばかりで、肝心の魔王討伐については何も進展がないままだった。なんなら、魔王討伐の仕事を引き受けてから一度もギルドに行っていない有様だ。
「えー、ここら辺でギルドがありそうなのは……パインドアーか」
4人はパインドアーの街を目指すことにした。
「そういや、おいらたちいろんなことに巻き込まれてますけど、魔物らしい魔物って出てきたことほとんどないっすよね」
「それも不気味なんだよねえ……魔王って、もしかしてさあ……人間なんじゃない?」
チェリーとイリディセントが話していると、パインドアーの街が見えてきた。
「は? 魔王が人間? どういうこっちゃ?」
さっぱり話が読めん、という顔で赤が問いかけるとイリディセントは
「なんかさあ……前々からちょっと疑問に思ってたんだけど、僕たちが戦ってるのって『人間』なんじゃないかなあって。国家反逆罪の人の件でほぼ確信に近くなったけど」
「あー……」
確かに、魔王が魔物たちを統べる王であるなら、あちこちで魔物が出てもおかしくはない。しかし、魔物の数は増えるどころか以前より減っているようだった。
「ふむ……魔王が人間か。その発想はなかったな……」
などと話しているうちにパインドアーの街に着いた。とりあえず目指すはギルドだ。
ギルドに入り、4人はそれがほぼ確信に変わった。以前掲示板に貼られていた「魔物退治」の募集がほとんどなくなっていて、雑用、例えば赤が旅立つ前にやっていた肉体労働やイリディセントの日常生活で使う魔法のバイト的なものがほとんどになり、ヒーラーも冒険者の傷の治療より医療現場での仕事中心になっていた。そして一番上にデカデカと魔王討伐、と書かれている。
「魔王……って、なんなんだ」
赤は呟く。なにか、ただならぬものを敵にしている、と直感が言っている。
ひとまず、ギルドの係員に
「なあ、魔王って……もしかして魔物じゃないものなのか?」
と単刀直入に切り出すと、係員は
「あの、それが……魔王討伐に行ったパーティーはほとんどが喧嘩別れして解散しているんです」
と言いにくそうに答えた。
「間違いないね。これは人間の仕業だ」
スノーホワイトは断言した。
「で、その魔王っつーのは、どこにいるんだ」
係員は非常に困った顔をして、
「それが……情報が交錯していてわからないんです」
「は?」
赤が困惑と怒りの混ざった声で反応するのも当然のことであった。
「なんでも、山奥の一戸建てに住んでるんじゃないかとか、集合住宅の一室じゃないかとか……なにせみんな喧嘩別れしてしまうものですから、魔王の居所まで辿り着いたパーティーがないんですよ……」
「いや、こういうのってどっかの城とかさ、そういうんじゃねえの? まあろくに調べもせずに出てきた俺たちも悪いけど!」
「大変申し訳ありません……」
クレームをつけられた店員のように、ひたすら頭を下げる係員。
「まあ……魔王が人間だとなった以上、いわゆる魔王城のようなところにいるとは到底思えないね。係員さん、失礼した」
スノーホワイトはギルドの係員に軽く詫びを入れ、4人はその場を去った。
「……んで、どーすんだよ、手がかりなしかよ……」
「そういうことになる」
はああああ、と赤は頭を抱えた。
「討伐しようにも相手がどこにいるのかわかんねえんじゃ討伐しようがないだろうがよ……」
本当にその通りなのである。
しかも、対人間戦では剣も魔法もどうしようもない。
「なんか俺……帰ろうかな」
「赤、しっかり!」
「いやだってさあ、手がかりなし、相手人間、俺することある?」
「まあそれもそうなんだけど……」
赤とイリディセントは途方に暮れる。そこに
「お!? もしかして赤くんじゃねえか?」
低くでかい声で呼びかける男性がいた。
「え、まさか……」
後ろを振り向くと、そこにいたのはかつて赤を助けてくれた色上質紙 オレンジだった。しかし。
「オレンジさん、その腕……」
オレンジの左腕は義手に、なんなら右脚は義足になっていた。
「あー、これか? ちょっとな、でけえのにやられちまってな。ガハハ!」
体力もかつての最厚口ではなく、厚口くらいまで落ちていた。
「ちょっと街まで買い物に来たら赤くんいたもんだから声かけちまったよ、どうだ、元気か?」
「いや……なんかもう手がかりなしで……もう帰ろうかと思ってたところです」
肩を落としている赤を、オレンジは
「帰るのか、まあ、帰る前にちょっとうち寄ってかねえか、なあに、1時間くらい歩く程度だ」
と誘った。
「1時間……って、その脚で1時間も?」
「おうよ! うちの町には名うての義体職人がいるからな! あと妻にも会ってほしいんだよ」
「妻……?」
オレンジは助けてもらった時点でもう既婚者だったはずだ。母親とも面識がある人で、時々家にも来ていた記憶があるが、今更? と首を傾げていると
「まあ、詳しい話は家に着いたからだ!」
と、半ば無理やりオレンジに徒歩1時間かけて家に連れて行かれた。
「あら、オレンジさんおかえり。その子たちは?」
見知らぬ女性に声をかけられて赤は大変戸惑っていたが、オレンジは意に介さず
「この子は色上質紙 赤くんだ。なんでも俺に憧れてファイターになったらしくてな、昔はペラッペラの薄口だったのに今は立派になったもんだ! んで、こっちの子がキュリアス イリディセントくんで、赤くんの幼馴染だよ。今何やってるんだ? 魔法学の研究か?」
「あ、あの、マジシャンになって赤と一緒に冒険してます……」
「ほうほうたいしたもんだ! で、そっちの子達は……誰だ?」
まあ、オレンジからしたら誰だ? である。なにせ、オレンジが街から消えてから知り合った仲間だからだ。
「えー、僕はベルクール スノーホワイトと申します。ヒーラーとして彼らにお供しています」
「おいらはコミックポップ チェリーっす! 同じように一緒に旅してるシーフっす!」
二人の自己紹介が済むと見知らぬ女性は、
「あらあら。旅の最中なのね。私は里紙 竹よ。よろしくね」
「竹さんは俺の自慢の妻でな! 俺がこんな身体になって前の妻に捨てられた時に拾ってくれたんだ!」
「拾っただなんて。自分を落とし物みたいにいうのやめてくださいよ。あはは」
目の前で何が起きているかわからない、という赤とイリディセントに、オレンジは一通りの説明をした。
ある日この近くの山に大きな魔物が出たと聞き、早速ギルドで登録して戦いにきたものの魔物が思ったより強く、命こそ助かったが左腕と右脚を失ったこと。それを知った当時の奥さんが、私はそんな人の介護はできませんと三行半を突きつけてきたこと。絶望して死のうとしていたところを、竹さん……今の奥さんが止めて、一通り話を聞き、とりあえずこの町まで連れてきてくれたこと。そしてこの町には腕のいい義体職人がいて、完全に元通りとはいかないものの、訓練をすれば日常生活に不自由がないくらい動かせるようになったこと。そしてそれを支え続けてくれたのが竹さんだったこと。
「んで、今に至るってわけだ! ガハハ!」
かなり重い話をしたあと、盛大に笑うオレンジに4人はどう反応していいかわからなかったが、
「とにかく俺は今幸せってこった。絶望しかててても、助けがあることもまああるにはあるんだな」
と明るく言った。そこに。
「オレンジさん、腕と脚のメンテナンスするから来てくれよ」
と1人の女性がやってきた。
「おーう! いつもありがとなセピアさん! ちょっと行ってくるぜ、竹さん、あとよろしくな!」
「はいよー」
まるで嵐のようだった。
「んじゃまあ、立ち話もなんだからうち入って。わりとね、広いから」
竹は4人を家に迎え入れた。
「お茶でも飲む? お腹空いてない? 残り物の煮込みしかないけど食べるなら温めるわよ」
「いやそんな申し訳……」
ぐうううう
遠慮の言葉を口にする赤の腹は、しっかり
「いただきます」
の意思表示をしていた。
「はははっ、若い子は遠慮しなくていいの。たんと食べて元気出しなさい」
「はい……」
元気がなさそうだったのを見てとったのか、竹は4人分の煮込み料理を器に盛り、温かい茶と共にテーブルに置いた。
「えっと、赤くん、だっけね?」
「は、はい、赤です」
「緊張しないでいいから。今なんか悩んでない?」
ぎくり、としながらそんなこと、と言おうとしたが先にスノーホワイトが
「実は僕たち、魔王討伐の旅をしているんですが、魔王の居場所になんの手がかりもないんです。わかっているのは魔王が人間らしい、ということと魔王討伐に行ったパーティーはほとんどが喧嘩別れしてしまう、ということだけで……」
と口を挟んだ。
「ふうん……もしかしてあの人かしらね」
「竹さん、心当たりが!?」
バン! とテーブルに手をつき立ち上がる赤を諭すように竹は、
「ほら、煮込みとお茶こぼれちゃうから。とりあえず座って」
と席に着かせた。
「す、すみません。で、あの人、というのは」
「昔この町に住んでいた、フロート ホワイトさん。外国から入ってきた文化を変なふうに取り違えて、町を出てあっちの山で暮らしているそうだよ」
「!!!」
完全に洞窟の暗闇にいた4人の道に突然の光が差した。
「なんでも、大勢の女性たちを集めて女だけの国を作る、って言ってね。そんなことしても何にもならないと思うんだけどね、私は」
空になった食器を片付けながら竹は続けた。
「別にね、子どもを作るためにだけ男女はいるわけじゃない。ただ、お互いの足りないところを補い合って生きていけばいいじゃないか、どちらが優位とか、そんなことどうでもいいんじゃないか、って思うんだよね。みんな、今までの旅で働く女の人をたくさん見たでしょう」
確かに、薬師、技術者、警察官、そして先程の義体職人も女性だった。
「でもねえ、なんらかの仕事をすることだけが女の輝ける場じゃない、人間には向き不向きがある。私は家事が得意だからこうして主婦をやっている。決して仕事ができないからやってるわけじゃない」
洗い物をしつつ、話し続ける竹。
「外で仕事をするのも素晴らしい。そして、家事に誇りを持って家を守るのも素晴らしい。男女もそういうことだと思うんだ。どちらが優れてる、劣ってるじゃなくてね、みんなそれぞれ適材適所で生きていければそれでいい。まあ、そうもいかない人が世の中には溢れているから、なかなかうまくいかないし私はきっと恵まれているからこんなこと言えるんだって言われたらそれまでなんだけどさ」
再び席に着く竹。
「何かが歪んでしまって、間違った方向に権利を主張し始める人がいる。やりたいことができない不満を、自分より弱い人間にぶつける人がいる。フロートさんもそんな人たちの一人で、この世界の魔物はもはや『そういった人たちの一部』なんだとね、ああ、長話が過ぎたね。そろそろオレンジさん戻ってくる頃かな」
竹は外に様子を見に行った。
「なるほど……一理どころか百理もあるような話を聞かせてもらったね」
スノーホワイトは深く考えている。
「んで、とりあえずあっちの山いけばそのフロート……魔王はいるってことか!?」
「赤……君は考えるということをしないのか」
「おう、脳筋だからな!」
「自慢げに言うことじゃないって……」
流石のイリディセントも呆れ顔をしている。
「えーと、つまりは? 魔王は歪んだ考えを持った人間で、まあ居場所は向こうの山と? おいらたちはどうやって戦えばいいんすかね?」
チェリーが珍しく建設的な話を始めた。
「女だけの国を作る……ということは、まだ国家レベルではないにしても大勢の女性たちがその山にいる可能性がある。その女性たちをまずなんとかしないといけないだろう。ただ、彼女らがどうやってこちらに攻撃してくるか、だ。歪んだ考えで叫ばれても、こちらにはどうすることも……」
「ぶった斬っちまえばいいだろ!」
「赤くんねえ……」
「スノーホワイトさんの能力で眠らせておけば? もしくは僕も多少弱体化魔法は使えるし……」
「ふむ」
作戦を練っているところにオレンジが帰ってきた。
「どうした? みんなして難しい顔して」
「いや、竹さんが俺たちに魔王討伐のヒントをくれたんだけど…うーん」
そうか、とオレンジは答え、
「ところで、セピアさんにちょっとお願いして工房見せてもらえるよう話つけといたんだが、見せてもらいに行かないか?」
「へ?」
「気分転換気分転換」
なんだかよくわからないまま、4人は工房に連れて行かれた。
「お、お邪魔します……」
そーっと工房に入っていく4人に、セピア……ハンマートーン セピアは少しきつい口調で
「そこら辺のものは触るな、商売道具や大事なお客さんの身体だ。あと静かにしろ。オレンジさんの頼みじゃなきゃ断っていたが……とにかく作業の邪魔だけはしてくれるなよ」
黙々と作業を進めるセピア。
工房にはいろいろな部品、工具、そして完成した義体が置かれている。内心、気分転換と言われてもなあ、と思いながら4人はそれらを眺めていたが、チェリーがなにやら思いついたように
「そうか、そういうことか……」
と呟いた。
「チェリーくん、赤くんが叫び出す前に外に出るぞ。お邪魔しました」
そそくさと赤を押し出すようにスノーホワイトは外に出た。イリディセントとチェリーも続いた。
「で、チェリーくん、何かわかったかい?」
「協力、っすよ……」
「はあああ? 今更!?」
でかい声を出す赤を見て、スノーホワイトはやっぱりさっさと工房から遠ざけておいてよかった、と思った。
「今更って言いますけどね、おいらたち今までの旅で協力らしい協力しました? なんかおいらめっちゃ迷惑かけてばっかでこんなこと言うのもなんですけど、このパーティーなんか連携的なことしてます?」
赤、イリディセント、スノーホワイトは考え込んだ。言われてみればそうだ。イリディセントの発熱の時赤とチェリーで薬師のいぐさのところに行って、その間スノーホワイトが看病していたくらいか。あとはなんとなく揉め事に巻き込まれますなんとなく解決してきただけだ。
「イリさん、発光魔法使えますよね? あれのどでかいやつできます? とりあえず襲ってきた人の目一時的に潰しましょう。ホワさんは眠らせたり黙らせたり、できますよね? んで、力技でくるやつはまあ……命奪わない程度に赤さんがやっちまっていいと思います」
「なんか急に参謀気取りだなあおい……んで、お前は?」
「……とりあえずその家かなんかわからないですけど、それの開錠とトラップ解除でもしときますわ」
3人でずっこけた。
「トラップなかったらどーすんだよ?」
「え、だって他にできることないですもん。それかえげつない眠り薬針の吹き矢で眠らせときます?」
「……なんかすげーことできるじゃねえか……」
「おいらも忘れてました」
また3人でずっこけた。
「あのな、俺らお笑いやってんじゃねーんだからな、真面目に……いや、だいぶ真面目に考えてんなお前……」
少なくとも脳筋で突っ込もうとした自分よりは、と思って赤は少し自らを情けなく思ったが、
「んじゃ、オレンジさんと竹さんに礼行って出かけるか」
「そうだね、早い方がいい」
「ただもう夕方だが……出発は明日にして、一旦街に戻って装備を整え、宿に泊まって行った方がよくないかい?」
「それもそうだな」
かくて4人は泊まっていけと言うオレンジと竹の申し出を丁重に断り、礼を言って街に戻るのであった。
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