人生はあやとり、赤い糸は堅結び

私は、結んであるものをほどきたくなる衝動がある。


明確な理由があるわけでもない。ただ、結ばれたものに対して、衝動的にほどいてしまう。


小さな頃は、本当に大変だった。靴紐、髪止め、ゴミ袋の閉じ口、しまいには手を繋いでいる人たちもほどいてしまう有り様。


小学校に入学してからも、母は頻繁に学校から呼び出しをされていた。

両親も先生たちも、まず、私の結ばれたものをほどきたくなる衝動を抑える為に試行錯誤してくれた。


心のコントロール仕方や結ばれたものを遠ざけるなど、ゆっくりと訓練してくれた。一方で、同級生の子たちは、私と関わろうとしなかった。

何人も声かけてくれたが、私の衝動の行動を目の当たりにすれば、困惑するのは、当たり前。


先生たちは、子どもたちへの私の衝動を説明することを一番、悩ませてしまった。

私を守りつつ、他の人たちも配慮しなければならないのだから。


そんな私の拠り所が、祖母や先生に習ったあやとり。結んで、ほどいて。だけどあやとりに結び目はなく、一本の輪を保っている。

どこかで、私は、あやとりのようにほどいても途切れないものに憧れていたのかもしれない。


中学生になると、私は、ある意味の有名人となった。あまり理解はされないが、また、ほどいてるよあの子、と。

さらに、中学生になり、心も成長し、衝動を行動に移した後に、「また、ほどいているよ。」と、指摘されれば、止まることもできるぐらいの行動制限ができるようになった。

それによって、たくさん友達もできた。

保育園も、小学校でも、いじめになることはなかったなど、私は、周りの環境にかなり恵まれていた。


中学校でも、からかわれることはほとんどなく、私の衝動を知らない子が、からかうと、他の子たちが事情を説明してくれ、からかった子も謝ってくれた。


そして、高校生になり、衝動ともうまく折り合いをつけながら、楽しく生活している。


さて、私がなぜ、こんなに長く私の半生を語っているかというと、高校生になり、大好きな人に、校舎裏に呼び出された今まさに、私にとんでもないことが起こってしまっているからである。


私は、目の前の大好きな彼を見つめながら、冷や汗やらが止まらない…。


「結ちゃんのこと、俺、好きだよ!大好きです!付き合ってください!」


「えっと…、私も堅君のこと、大好きだよ。私も付き合いたいです…。」


「あ〜、良かった!!俺の一方通行な想いじゃなくて!結ちゃん、ちょっと顔色悪いけど、大丈夫?無理してない?」


「堅君、私の衝動のことは、もちろん知ってるよね?」


「うん、結んであるものとかをほどきたくなる、ってことでしょ?」


「うん…、それについて、私が今まで知らなかったことが今、明るみになって…。」


「え…?どうしたの?言って?」


「うん…。私、堅君にここに呼び出されることがわかって、きっと告白してくれるんだ、ってすごく嬉しくなったんだけど…。それと同時に、衝動も一緒にわき上がってきて…。」


「結んであるものをほどきたくなる、って衝動が…?つまり、恋愛関係とか、恋人っていう堅い結びつきが衝動の対象になるってこと?」


「うん…ごめんね。家族関係や友人関係で衝動がでたことなかった。だから、まさか恋人関係とかで衝動が現れるなんて、知らなかった。」


「そっか…。つまり、結ちゃんは、それだけ俺に恋い焦がれてるってことか!」


「へ!?え!?それは…そうなんだと思う。めっちゃ恥ずかしい。」


「ありきたりだけど、結ちゃんの結は、結ぶってことでしょ?それで、俺は、堅だから堅い。字は、違うと思うけど…

結ちゃんとの運命の赤い糸を俺は、しっかりと堅結びするよ!」


大好きな彼は、笑顔いっぱいにそう言ってくれた。その瞬間、私の衝動を愛しさが追い越した。

そして、今まで思い付かなかったのが不思議な程に、あることを理解した。


結んであるものをほどきたくなる。なら、ほどいた後、また、何回でも結び直せばいいんだ、と。


私は、大好きな彼にそれを伝えた。すると、彼は、


「結ちゃん、それは結ちゃん自身も、俺も、周りの皆も、いつもしていることだよ!

人と人の結びつきは、いつだってほどけやすい。だからこそ、自分の気持ちを伝えて、相手の気持ちを想像して、配慮して、尊重して、弛んだ結び目を、ほどけてしまった結び目を、また堅く結んで人間関係を構築してるんじゃない?」


と…。私の頬に涙が流れる。

彼を、堅君を大好きになったのは、こういう人と人の結びつきをとても大切にしているから。


そして、私は、小さな頃から今まで、私を大切にしてくれた両親や先生たちや友達の顔を思い浮かべた。

私の衝動は、ずっと続くと思う。だけど、見えないたくさんの糸で、大切な人たちと私をしっかり結び続けよう。

小さな頃、夢中になった、あのあやとりのように、たくさんの形を結び作って、ほどけてもまた結んでいくんだ。


そして、泣き続ける私を、彼は、しっかりと抱きしめてくれる。


人生はあやとり、私と彼の運命の赤い糸は堅結び。












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流星群の彼女と心のクレーター 六月之羊 @satowa1991

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