第2話

結局僕は赤崎さんからの頼みに応じることにした。たまに新庄に勉強を教えているし、腕前に関しては申し分ないだろうと自分でも思っていた。

僕は明日のために多少準備をして眠りについた。


翌日、僕はいつも通り早くに登校し、朝礼前まで勉強していた。4月の模試で一番出来が悪かった数学を復習していた。しかし、赤崎さんにどうやって勉強を教えようかという悩みが頭の片隅にあった。

朝礼の十分前、僕に呼びかける声が聞こえた。

「おはよう!石見君。」

赤崎さんだった。彼女はいつも通りの満面の笑みで挨拶をしてきた。僕にはできないなと内心で尊敬しながら、負けじと笑顔をつくって挨拶を返した。

「おはよう。赤崎さん。」

「石見君。昨日は突然ごめんね。でも、引き受けてくれて安心したよー。私中々の馬鹿だからよろしく頼むよ~。」

「全然大丈夫だよ。新庄にもたまに教えたりしてるし。あいつも中々にあれだから、、」

「じゃあ慣れっこってことだ!頼りにしてるね。」

その会話の直後、赤崎さんはいつも仲良くしている友達である桜川千尋さんに呼ばれた。

「じゃあ、今日の放課後校門で待ち合わせね。」

そういって彼女は友達のもとへ帰っていった。それと同時にニヤニヤとして笑みを浮かべながら新庄が僕に話しかけてきた。

近づいてくる段階でもう無視してやろうかという考えが頭をよぎったが、流石にそんな度胸はないため、いやいや応対することを心で決めた。

「おいおい、どういうことだよ。お前と接点なさそうな赤崎さんが話しかけに来てるなんてよ。」

「昨日、勉強を教えてくれって頼まれたんだよ。お前と似たようなもんだろ。」

「女子が男に対してアプローチをかけるという事実。これを見逃しちゃだめだぜ。」

そんなことを言われても、今まで浮ついた話の一つもない僕には非現実的に思えるし、それに赤崎さんはどことなく恋愛には興味がなさそうに思える。

彼女は誰にでも同じように明るく接する。特別扱いなど存在しないのだ。

「まあ、せいぜい嫌われないように無難にやり過ごせよな。明日どんな感じか聞くから覚悟しとけよ!」

そういって新庄は去っていった。まったく、なんであいつの方が盛り上がってるんだか。



放課後になり、予定通り校門で赤崎さんを待っていた。そういえば、どこで勉強するのか聞いていなかったなと思いながら、校門を通り抜けていく生徒たちをぼんやりと眺めていた。

すると、学校方面から少し聞き慣れてきた声が僕の耳に届いた。

「お待たせ!時間ももったいないし、行こっか。」

僕はまだ、どこが目的地なのか知らされてないんだけどな。

「どこで勉強するの?」

「図書館だよ。私勉強するときは基本図書館利用するんだ。あそこ、しゃべってもいい勉強ルームが用意されてるからみんなで勉強するのに便利なんだよ!」

当然いつも家に帰って勉強している僕はそんな情報知らないわけで。自分の世界の狭さを痛感させられた。



図書館に着いた。その図書館はここ三年前に建てられたものであるらしく、内装もは静謐な雰囲気に包まれ、木の温かな質感が心地よく広がっていた。

赤崎さんは慣れた足取りで勉強専用ルームへと僕を案内してくれた。赤崎さんは一度伸びをしたあとに、鞄から参考書を取り出した。

「英語から教えてもらっても大丈夫?」

彼女はそう言いながら長文読解用の参考書を指さしていた。しかし僕は彼女のジェスチャーを冷酷にも無視し、昨日から考えていた勉強方針をつらつらと述べていった。

「英語だね。じゃあまずは、赤崎さんの実力が知りたいからこの長文を解いてみて。で、その結果次第で何をするか決めるから。」

彼女は少し呆気に取られて後に、またいつもの笑顔を取り戻し、「おっけー」と言いながら僕が出した長文問題を解き始めた。

僕は彼女が問題を解いてる最中に自分の勉強を黙々と進めた。


30分が経ち、赤崎さんがペンを止めた。どうやら終わったようだ。

「終わった?」

「うん、なんとなくだけど解けてると思うよ!」

そういいながら彼女は解いた長文を僕に提出した。

僕はその答案を黙々と確認しながら、間違っている問題はもちろん、合っている問題であっても執拗に質問し、彼女が問題を解いていた際の思考回路を確認していった。

そして、容赦なく結論を彼女にたたきつけたのだった。

「6割あってるんだけど、質問した感じだと、長文自体の理解は少し甘いかな。単語帳に乗っているような英単語でも文章から推測して読んでいるみたいだし、まずは単語からやった方がいいね。文法の問題は今回は時制の問題があっていたけど、長文中に出てくる分詞に関する訳が出来てないから文法も復習しといたほうがいいね。じゃあ、今日は英単語を1~100までの復習することにしよう」

そうやって勉強の指針をすらすらと述べた。

するとやはり彼女は呆気にとられた後に、また笑顔を取り戻した。

「いやー、石見君ってほんとに勉強得意なんだね!分かった、単語だねー。確かに最近開いてすらなかったかも。」

勉強以外のことは何も会話をすることなく、僕たちの勉強会は終わった。


帰り道でやっと勉強以外の会話をすることに赤崎さんはとても驚いていた。

「私いつも友達と勉強するときこんなに黙々と勉強することないよ。それに、石見君っていつもあんなに考えながら勉強してるの?」

「勉強って考えながらするものじゃないの?」

そんな素朴な疑問を投げかけると赤崎さんはいつもの笑顔とはまた少し違った表情で笑った。それは、人と接するときのマナーとしての笑顔ではなく、心の底から会話によって生じた笑顔のように僕は思えた。

「そうだね。勉強は考えながらしないとね!家に帰ったら今日やった範囲はできるだけ復習しておくね。またね。」


赤崎さんは電車で家に帰るらしく、そういって駅で別れた。

帰り道でスマホに入れている英単語用のアプリを使っていると、また彼女からLIMEが来た。

「石見君に勉強教えてもらえれば、志望校にも受かるような気がしてきたよ!明日もお願いしていいかな?」

僕はその日、珍しくもスマホで勉強の続きをするのではなく、少し物思いにふけるように、夜空を眺めながら家へと向かった。

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君との日々に悩む僕は @furinn32

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