50話 仮面の下はイケメン
あれから1ヶ月、引退を撤回したアキナは撮影のために【生態系の迷宮】を訪れていた。
「なつめさん! こんにちは!」
「こんにちは、こはくちゃん。今日はなにをするの?」
「フライングボアのステーキを作るんです。本当は、なつめさんみたいにダンジョン探索をしたいんですけど」
「でも、お母さんから反対されているでしょ? 私もこはくちゃんには、まだ早いと思うなあ」
あれからこはくは、お母さんに今までの事を全て打ち明け謝った。物凄く怒られたが、何とか許してもらったようだ。
その時に、恐る恐るダンジョン配信をしたいと伝えたという。
反対されるかと思ったが、勉強をちゃんとする事、身バレする様なことをしない事、命の危険がある様なことをしない事を条件になんとか許してもらったという。
(お母さんって私なんだけどね)
とは言っても、言いつけを守らずに何度も撮影に同行させてくれる様に自分に頼んできたが、その度に、たしなめている。
(引きこもりは完全に卒業したし、不登校だけどフリースクールに通っているから勉強に遅れる事はないし、新しい友達もフリースクールや【生態系の迷宮】で出来たみたいだから一安心ね)
ここでアキナはある事を思い出した!
(ヤバ、支払いまだしてないじゃない!)
こはくのchはダンジョンでとれた資源を使って裁縫や料理、雑貨品の作成などをしながら、日々感じている事を顔出しなしでつづるVideo Blogである。元引きこもりで今も不登校な思春期の少女の本音が語られている、この動画には同性代の同じ悩みを抱える子達から一定の指示を受け登録者は短期間で1万人にもなった。
そして、こはくがVideo Blogで作成している物の原材料は、保護者であるアキナがゴンザレスから買っている。
今日はその支払いをする約束の日だ。
今、ゴンザレスは喫煙室にいるだろうから、そこに向かう。
『持って来たわよ』
カバンの中から現金が入った茶封筒を出し渡そうとする。
仮面をとったゴンザレスは、アキナに背を向け壁を向いたまま、魔道具のタバコを吸い続けていた。
『てっきり引退すると思ってたんだがな』
『子供が私のファンで、動画やLIVE配信をもっと見たいみたいだから仕方ないわ。それにこれから学費はもっとかかってくるだろうし』
『……なにかあっても俺は知らねえぞ』
『大丈夫よ。私が聖女、晳白奈(なつめあきな)だと向こうの人達にバレなければ良いだけの話でしょ?』
『……』
ゴンザレスの後姿を見ながら、アキナは思った。
(顔を見るなら今がチャンスね)
あれ以降もゴンザレスを見る度にこはくは、恋する思春期の女の子の表情をゴンザレスに向けている。
今の様に喫煙所で後ろを向き向こうの言葉をしゃべっている時は、少し雰囲気が違うが、ゴンザレスは卑怯で、情けなくてカッコ悪く、ゲスという言葉を凝縮した様な男だ。異性として魅力的なところが全く見当たらない。
そう、いつも仮面の下に隠れていて見る事ができない「顔」を除いては。
いったいどれだけイケメンなのだろうか?
周りこんでゴンザレスの顔を確認した。
「え!? 嘘!」
想像以上のイケメン顔だったので、思わず大きな声をあげた。
コウスケに凄く顔が似ているのだ。こっちの世界に帰るため、コウスケと泣く泣く今生の別れをしたのは20歳の時だ。そこから年相応のしわなどができたら、こんな顔に違いない。
普段の言動を見ていなければ、きっとコウスケ本人だと間違えてしまっていただろう。
(そ、想像以上のイケメンね……これじゃあ、こはくが、たぶらかされちゃうのも無理ないわ)
アキナに素顔を見られたゴンザレスは、冷や汗をかき慌てふためいてる。
イケメンなのにどうして顔を隠しているのか、どうして顔を見られて慌てているのかなどが、とても気になった。
しかし自分も、とても動揺しているので、そんな事を聞ける状況ではない。
『いや……アキ、これは、あの、その……』
『な、中々のイケメンね。でもアキって気安く呼ばないで』
これ以上動揺している事を知られるとどんな弱みを握られるか分からないので、この場を走り去った。
「なんだか知らないけど、バレてないみたいで良かったでござる」
相変わらずどこか抜けている元恋人の後ろ姿を見送りながら、コウスケはゲス勇者の呼び名に似合わない優しい笑みを浮かべたのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ご拝読いただききありがとうございました。
第一部が終了いたしました。
第二部が現在途中まで出来上がっております。
2~3日中に再開いたしますので、今しばらくお待ちください
完結ブーストをかけるために連載終了にいたしましたが、★とフォローを面白いと思ったら頂ければ嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます