第33話 おしまい






 ルーカスと仲間たちも加わり、玉座の間は鎮静化された。アムストロングを始め、トランポリン、グルムングたちが拘束され連れていかれる。


 それを見送っているビンデの元にロス王とミターナ王妃が現れた。


「ウホンッ。ノースランドよ、ご苦労であった。またしてもの活躍、褒めてつかわすぞ」


「リターさん。あんた大丈夫だったかい?」


「え、ええっ」


 しかし、ビンデは国王を見向きもせず、リターを気遣い、ヤーニャに治療をするようにお願いした。


「……今度のことで、余も思い直し、そちやルーカスの罪を許してやることにしたぞ。喜ぶがいい」


「ルーカスや仲間たちがいなければ、クーデターは成功してました。当然でしょう。それより約束通り、外国人はともかく、革命軍には恩赦を与えてやって下さい」


「なんと?それはダメだ。再びクーデターを起こしたらどうする?そちたちが都に暮らすというのなら、考えんでもないが……」


「俺たちはナターシャに帰りますよ。あそこが気に入っているんでね。クーデターを起こさせないようにするには、彼らを許し、国民のための政治をやればいいのです」


「しかし、あの娘のような魔法使いがまだいるやもしれん。エントラントやユアル・サリナスも侮れん。そちたちの力が必要じゃ」


「魔法使いは恐らく、トランポリン一人だけでしょう。もし、他にもいたならその時は呼んでください。他国のことも心配いらないと思います。ドラゴンと魔法を見たユアル・サリナスは、再びサウズ・スバートに恐れを抱くはずですから」


「そうか、のう……」


 ロス王は心底、不安の声を漏らす。


「あなたが国のことを考え、人の意見を聞き、国民を第一に思えば、国は自然と上手く行くと思います。素晴らしい国ですから、サウズ・スバートは」


 ビンデの言葉に、ヤーニャとリターが頷いた。


「それに厳密に言うと、ボクは魔法が使えないんです。使えるのは道具があるからなんです」


「し、しかし、色々と魔法を使っておったではないか?ドラゴンまで……」


「あれは魔法のアイテムと知識があったからです。それさえあれば、誰でも魔法は使えます。サウズ・スバートの魔法遺伝子はまだ生きているので」


 とビンデは指輪を外し、ロス王に手渡した。


「よいのか?」


「はい。これで、国を良くしてください」


「おおっ」


 玉座の間から引き上げてゆくビンデ親子とリターを見て、玉座のミターナは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「フンッ、田舎者が。所詮、落ちぶれた家の者です。言葉遣いも知らず、礼儀もなってない。どうせ、あの家は跡取りもいない滅びゆく一族なのです」


「だとしたら、我がガリアロス王家も滅ぶやもしれんぞ。我らにも子はないのだから」


 ロス王は右手に嵌めた魔法の指輪を弄びながら、ミターナを見つめた。



  *        *         *



 玉座の間から出ると、廊下にはアルフレドとウェス宰相、近衛兵が一列に立って出迎えた。


「帰りもお送りいたします」


「ありがとさん」


 ビンデは軽く、手を挙げて答える。


「今度こそ、本当に国政を我々の手で変えてみせるから」


 ウェス宰相が、ビンデたちを待ちかまえており、真剣なまなざしで言った。


「いち国民として、期待しています」


 ビンデは頭を下げた。


 セッツには、神輿のような椅子が用意されていて、屈強な男たちが担いでくれた。


 アルフレドは先に立って歩いて行く。


 王宮の出口ではルーカスと仲間たちが待っていた。


「ロス王がサウズ・スバートの兵士になってほしいと言ってきたが、どうすればいいと思う?」


 礼を言い終わり握手を交わした後、ルーカスが言った。


「国に帰らないのか?」


「国はもうない。ユアル・サリナスに占領されてしまったからな。それより、お前に助けられた命、お前の望むように使ってくれ」


「もういいって、お互い様だろ。でも、あんたがロス王の暴挙を見張っていてくれるなら、みんなも喜ぶだろう」


「では、そうしよう。ユアル・サリナスに対抗することにも繋がるしな」


「そうか、じゃあ頼む」


 二人は再び、固い握手を交わした。



 ノースランド親子とリター、二つの馬車が並んでいた。


「それじゃあ、気をつけてね」


 セッツとヤーニャはそれぞれリターに挨拶を交わすと、先に馬車に乗り込んだ。


「ありがとうございました。皆さんもお元気で」


 リターは目に涙を浮かべて、何度も頭を下げた。


「税金のことは見直すと言っていたから、きっと大丈夫さ。以前のようにラク酒は安泰だから」


 ビンデがほほ笑んだ。


「はい。お陰でみんなにいい知らせを持って帰ることができます。本当にありがとうございました」


 リターは深々と頭を下げた。


「礼はもういいって」


 二人見つめ合い、少しの沈黙が生まれる。


「……あの、近いうち街に見学に来てください。来てくれますよね?」


「ああ。絶対、絶対に行く」


「それとラク酒の泡入りってのも教えてくれませんか?どんなものか興味があります」


「泡水を持っていくよ」


「これ町の地図です。へたくそですけど」


 リターは手書きの地図を手渡した。ビンデは赤くなって受け取り、それを懐へと仕舞った。


「それではまた……」


 ビンデはリターを馬車に乗り込むまで見送った。


 四人は大勢の人々に見送られながら、それぞれの馬車に乗り込むと御者が鞭を打ち、馬車が動きだす。


 ビンデは感傷に浸ったように黙って馬車に揺られていた。


「ねえ……」


 セッツが思い出したように、顔を渋くした。


「本当に後悔しないか?法道具を国王様にやってさあ」


「いいに決まっているだろう。どうせ、魔法なんて、使えないんだし。国王には」


「それはそうだけど……私の杖」


 セッツは無念そうに顔に皺を寄せる。


「では、全国民が魔法を使えるというのは、ウソ?」


 同乗したアルフレドが驚く。


「全てが嘘じゃないけどね。使えたとしても、最初は物凄く疲れる。ちゃんと教えてくれる人もいないし」


 二人も頷く。


「それに道具を自分の手元に置いておいた方が王様も安心して、納得するだろう?俺たちが魔法使いだと思っているうちは、心のどこかで、油断ならないって思うはずだろうし」


「でも、あの王妃様は危ないんじゃない?」


 ヤーニャが言った。


「そこも狙い目さ。魔法が使えようが使えまいが、そっちに目がいってるうちは、国政に興味を示さないし、疲れて、晩餐も開かなくなるでしょう?」


「確かに」


 セッツとヤーニャが頷く。


「アルフレド、これは内緒だぜ」


「勿論でございます」


「おっ、理解があるねえ?」


「わたくし、殿下に、みなさん共々、処刑と言われたことは一生、忘れません」


 アルフレドは目を閉じて答えた。


 三人が笑う。


「ビンデ、あのお嬢さんと一緒になりたいんじゃないのかい?」


「母さん、何言ってるの、やぶから棒に?そんなわけないだろう」


 狼狽えるビンデ。


「お前はカッコつけだから、本心を隠すからね。だから未だに結婚できないんだよ。もっと卑怯なくらい貪欲で無いと、女は落とせないよ」


「やめてくれ。母さんからそんな話、聞きたくないよ」


 耳を覆って、いやいやをするのビンデ。


「なーに、いざという時は魔法の絨毯でひとっ飛びさ。ヒ~ヒヒヒッ……」


 セッツは魔女のような笑い声をあげた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法王国のノースランド家 kitajin @kitajin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ