第32話 決着⁈
「王を討て」
アムストロングが叫びながら、兵に合図を送る。
ビンデがため息をついて、アムストロングに問いかけた。
「あんた、まだ懲りないの?」
「王が約束を守らないのが分かっただろう。もう騙されない」
アムストロングが険しい顔で言って、通り過ぎていく。
「むかえ討てぇ」
すると近衛兵たちが部屋に雪崩込んできて、革命軍と両者乱れての大乱戦が繰り広げられる。
そんな中、リターは部屋の隅でおびえていた。
「お嬢さん」
リターの傍らからセッツの声がして、何もない所から姿を現した。
「ああ、お婆さん」
安堵の表情を浮かべる。
「すまんが、あの杖を取って来てはくれないか?」
セッツは玉座の手前に落ちている杖を指さした。
「えっ?」
「私は足が悪くてね。とてもあそこまでいけないんだよ。けど、あれさえあれば、この戦いを収める事ができるんだ。お願いできないかね?」
周囲では兵士たちが激しい闘いを繰り広げている。戸惑うリターであったが、セッツの眼差しに、思わずコクリと頷いた。
「分かりました」
「このマントを羽織って行くといい。誰にも姿が分からないから」
セッツは自分のマントを手渡たそうとするが、
「いいえ、お婆さんが羽織っていてください。私は大丈夫です」
「あんた、いい子だよう」
セッツは微笑んだ。
リターは苦笑して、身を屈めて、杖に向かって前進し始めた。
ビンデとトランポリンはお互いの間合いを計り、対峙していた。
「止めにしよう。俺、基本的に女子供に手をあげたくはないんだ」
「魔法も使えないお前がどの手をあげるんだ?出来損ないが」
「お前が王になればいい。しかし、ロス王を殺す必要はないだろう?」
「ダメだ。王族を生き残らせることは後々、尾を引く。例え、小さな火種でも残しておきたくはないのは、歴史を見れば明らかだ」
「実体験から言ってるのか。ではこうは考えられないか。ガリアロス・ダズを処刑しなかった事でお前がいる。生かされているって感じないか?」
「なぜ、そうまでして、ロスを生かしたい?お前を処刑しようとした男だぞ」
その時であった。突然、衝撃が起こり、王宮が揺れた。
「なんだ?」
「フフッフ、この宮殿を一度、破壊する。そうすることで、ガリアロス王家の終焉を国民に植え付けるのさ」
グルムングが笑った。
続けざまに爆発が起こる。
「止めろ」
ロス王が叫んだ。
「ヨーサは何をしている?憲兵はまだか」
「で、殿下」
ミターナが情けない声を上げる。
ビンデは歯を食いしばって、トランポリンをむかえた。次の瞬間、トランポリンの魔法を纏った張り手がビンデの顔に向かって打ち込まれた。
ビンデは吹っ飛ばされ、床を転がりながら止まった。
「他愛ない」
振り返ったトランポリンはヤーニャを次の標的にしようとしたが、魔法の杖に近づくリターに気付いた。
一気にジャンプして、リターの前に立ちはだかった。
「ああっ……」
リターが悲鳴に似た吐息を漏らす。
咄嗟に手を出して杖を掴もうとしたが、トランポリンが先に杖を掴んだ。そして、拾い上げるとじっくりとセッツの杖を見つめ、徐に近衛兵に向かって杖を振った。
杖の先から電撃のように光が走り、衝撃を近衛兵たちは受けて倒れる。
「素晴らしい」
トランポリンはセッツの杖を見つめ、つぶやいた。
「返しな。それはあんたみたいな半端者には使えこなせんよ」
いつの間にか横に立っていたセッツが手を差し出した。
「半端者?私は魔法王国の正統継承者だ。お前の得意なドラゴンも召喚することができるぞ」
とトランポリンは床に杖を置くと魔方陣を描き始めた。
「よさんか。こんなところでドラゴンを呼んだら、建物が破壊されてしまう」
「どうせ、お前らは死ぬのだ」
「やめろーぅ」
ビンデが叫ぶ。
トランポリンの描いた魔方陣は半径一メートル位のもので、その中央に杖を立てて、目を閉じて気合いを込めた。
「いでよ、ドラゴン」
すると、魔方陣を中心に風が起こり、光の柱が天井に向け伸びていく。
「魔方陣が小さい。それではドラゴンが出てこれんわ」
セッツが叫ぶ。
だが、光の中から鋭い爪が現れた。
「フフフフッ」
トランポリンは目を輝かせて笑う。
次に現れたのは大きな角の生えた頭、そして芋虫のような体が魔方陣から産まれるように這い出てくる。それは気味の悪い赤褐色の肌をした胴長の奇妙な生物であった。
「これは……芝居のドラゴン⁈」
ビンデがつぶやく。
「さあ、ドラゴン。こいつらをやっておしまい」
トランポリンが叫ぶと、ドラゴンは這うようにしてゆっくりと進んでゆく。
「おい、なんだ、あれは?」
兵士たちは現れた生物に恐れ慄いて逃げる者や、反対に向かって行く者と分かれた。
「どうしたドラゴン、火を吹け」
すると、張りぼてのようなドラゴンはおちょぼ口を開き、そこから、布の火を放った。
「ふぇへっへっへ、こいつはいい。お前さん、ドラゴンを知らんな。自分の想像した演劇のドラゴンを召還したじゃの」
セッツは愉快に笑った。
「おのれ」
トランポリンは張りぼてのドラゴンに向かう兵士に、腹立ちまぎれに杖を揮う。そこへビンデが現れ、手をかざして兵士の盾になる。
「こんな所で、ドラゴンを召喚しようとするなんて……どうやら、俺は考え方を改めないといけないな。女子供だろうと容赦してはいけない、場合もある」
「死にぞこないが、とどめを差してやる」
トランポリンはビンデに杖の先を振りかざした。稲光がビンデに向かっていくが、ビンデはそれを避けようとせず、稲光をまともに喰らい体が光る。
しかし、服は焼け、髪は焦げるが、ビンデは平然と立っていた。
「どうした?そんな物か、お前の魔力は?」
トランポリンは眉間に皺をよせ、今度は本気を出して杖を振った。
稲光は先ほどの倍以上の光を放ち飛んでくる。だが、ビンデはそれも避ける事無く喰らい、吹っ飛んだ。
「フンッ、他愛ない。口先だけのおっさん」
だが、倒れたビンデがムクッと起き上がった。
「なぜだ?なぜ……?」
トランポリンが絶句する。
「フフフフッ、三百年前、お前の子孫、ガリアロス・ダズを倒したのはノースランド・ガンツ。彼がどうやって、ダズを倒したのか伝え聞いてはいないようだな」
ビンデは立ち上がる。先ほどより、更に服が焦げ、いたる所に火傷の痕があるがそれでもニヤリと微笑んだ。
「なんだと?」
トランポリンは恐怖を感じ後ずさる。
「我がノースランド家にはこの指輪がある。この指輪があれば、どんな魔法もたちまち吸い取ってしまうのだ。ダズの魔法力もこの指輪を使い、吸い取ってしまったのさ」
ビンデが右手の指輪をかざした。
「ウソをつけ。先ほどから闘っていたのにどうして、それを使わなかったのだ?」
「使っていたさ。だから、お前の体の魔法力が弱まっている事を感じているだろう?」
トランポリンは自分の体の変化に気付き、一瞬たじろぐ。
「う、うるさい」
再び杖を揮ったが、先ほどのような威力はなく、糸のような電流が流れ出るだけであった。
ビンデはそれをくらうと、力尽きたようにばたりと倒れた。
「なっ……」
驚くトランポリン。
「ど、どうやら……魔力を使いつくしたようだな」
突っ伏したまま、ビンデが擦れた声で囁く。
「きさま、では、指輪の話はでたらめか……やはり効いていたのか?」
「いや、効いてないさ。ただ、立っているのが疲れただけだ」
「騙されるか。まあいい。魔力は弱くなってもお前ごとき……」
トランポリンがビンデに近づこうとしたその時、足元に巨大な槍が突き刺さった。
「お嬢ちゃん、それ以上動くと、今度は体を貫くぞ」
玉座の入口にルーカスと仲間たちが立っていた。
「やっと、援軍の到着か」
ビンデがそれを見て、ガクッと床に突っ伏した。
「いけーっ」
ルーカスと奴隷の仲間たちが玉座の間になだれ込む。
たじろぐトランポリン。その手からヤーニャが杖を奪い取った。
「他人の物を使うからペースが崩れたのね。じゃなきゃあ、あなたが勝っていたわ」
「いいわ。一旦、敗けといてあげる」
トランポリンは顔を歪めながら、負け惜しみを言った。
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