第45話エピローグ「展望台で……」

『最終決戦』から、1か月後の土曜日夕方……


私と颯真そうま君は、ショッピングモール屋上の展望台に居た。


ショッピングモールのテナントは、10年前とは大きく変わり、

同じ店はほとんどない。


颯真君が、迷子になって泣いていた6歳の私を連れて行ってくれた管理事務所も、

大きく様変わりしている。


……時は大きく流れていた。


……街の風景も、人も変わっていると実感する。


あの時、私をなぐさめてくれた管理事務所のお姉さんは、

どこかでまだ、元気に仕事をしているだろうか……


……今日も天気は快晴。


雲ひとつないが、太陽は西の地平線へ沈みつつあり、

夕焼けで空は真っ赤に染まっている。


展望台のテラスから遠くを見れば、空同様、夕焼けに染まった美しい山並み。

学校の屋上から見えるのとほぼ近い風景……大パノラマという趣きがある。

街は変わってしまったが、遠くに見える山々だけは変わっていない……


10年前、6歳の子供だった私と颯真君は、

16歳の少女と少年になり、手をつなぎ、寄り添い立っていた。


颯真君がしみじみと言う。


「凜ちゃん」


「何? 颯真君」


「屋上から遠くに見える山々だけは、俺達が出会った10年前と、変わらないな……街のビルは、たくさん増えたけど」


「うん、そうだね」


私は頷き、同じ事を考えていた颯真君の手を「ぎゅ!」と握った。


……最終決戦は、私と颯真君の大勝利に終わった。

遥、海斗君、そしてお母さんの大きな協力もあって。


3人には本当に感謝している。


あの時……


「私は出会ってから10年間、助けてくれた颯真君がず~っと好きです! 初恋です! 今はもっと大好きなんです! だから! 私たち、お付き合いするって決めました! どうか、許してください!」


「俺も凛さんが初恋の相手です! 何度も凛さんを守って、凛さんが心の底から好きだと確信しました! 二度と離れ離れにならず、これからも守りたい! ずっと守りたい! そう思いました! 凛さんを絶対に大事にしますから、お付き合いする事を! どうか、許してくださいっ!」


きっぱりと言い切った私と颯真君は、

ふたりで一緒に手をしっかり握り、

お父さん、お母さんへ、深く頭を下げた。


……………………………………………………………………………………


私達が居る部屋は、しばしの沈黙。


誰も何もしゃべらないまま、数分間が過ぎた。


れたお母さんが、お父さんへ、


「ええっと……貴方、何か言っておあげなさいよ。言わないのなら私が言うわよ」


「いや、待ちなさい。俺から話をする!」


意外だった。


話をしようとするお母さんを止め、

私たちへ、素敵な返事を戻してくれたのは……お父さんだった。


ふうと息を吐き、お父さんが話し始める。


「俺は最近、凛が変わったと感じている。明るくなり、成績も上がり、全ての面において、とても前向きとなった。彩乃も同意見だ」


お父さんは、しみじみ言い、


「今の話を聞いて、よ~く分かった! 凛は好きな颯真君の存在を励みにして、頑張っていたとな」


そして、


「凛、颯真君……ふたりの気持ちを尊重しよう! 凛を愛する父親として、思うところは少しある。だが、ふたりの交際を許そう!」


と、交際をOKしてくれたのである。


お父さんは更に、


「この街を、故郷を愛する俺と颯真君は、同じように凛を愛している。そして俺が、もしも颯真君の立場だったら、同じように考え、同じ言葉をこの場で言っている、そう思ったから、交際を許すんだよ」


最後にお父さんは、


「これからも、いろいろな事があるだろう。支え合って、しっかりとふたりで歩いて行きなさい」


と優しくエールを送ってくれたのである。


お母さんも、


「良かったね! ふたりとも、頑張りなさい。何かあったら、相談してね」


安堵あんどして、優しく微笑み、これまた応援してくれた。


遥と海斗君も、


「やったあ! 凛! 良かったね! 良く頑張ったね!」


「ああ、やったな! ふたりとも、おめでとう!」


と声援を送ってくれた。


気になって、颯真君、遥、海斗君が帰った後で、

お母さんと一緒に、お父さんと話したら……


お父さんは、颯真君を連れて来るという話を聞いた時点で、

この展開を想定していたそうだ。


そして私と颯真君の交際を、4人全員がかりで説得しようとしていたのも、

分かっていたそうだ。


私は素直に謝り、「ありがとう」と言ったら、

お父さんは優しく私を抱きしめてくれた……


その翌週……

私とお父さん、お母さんは、事前にアポイントを取って岡林家へ赴き、

颯真君のご両親に、10年前の件を始めとして、いろいろとお礼を告げた。


対して、颯真君のご両親はとても恐縮していたが……

私と颯真君が交際する事、

そして、お互いに『初恋』だったと聞き、大いに喜んでくれたのである。


それから………1か月の間、颯真君とはいろいろ話した。


交際を許して貰ってからは、気持ちに余裕が出来て、

お互いの心の距離も、いっそう縮まった。


そして将来、大人になったら、お互いに『やりたい事』があるとも分かった。


まだまだ未熟だし、どういう『夢』なのかは内緒だけれど……

めざす場所は遠いけれど……


愛する人と、信じ合える友だちが居れば、


どんな事があっても、頑張れる!


逆境ぎゃっきょうが、ふりかかっても、必ず乗り越えられる!


……ふたりが望む夢は、絶対にかなえられる!!


そう信じたい!!


つらつらと考える私へ、颯真君がまた呼びかける。


「凜ちゃん!」


「はい!」


「俺達の想い出は 10年前に止まったままだったけど、運命的な再会をして、また動き出したんだ」


「そうだね! しっかりと動き出したよ!」


「ああ! 新しくなったこの街で、この故郷で、俺達ふたりの大切な想い出を、改めていっぱい作っていこう!」


「ええ! 颯真君! い~っぱい作ろう!」


展望台から、夕日に染まった美しい風景を見ながら……

奇跡の『初恋』を成就じょうじゅした私は、

颯真君の手を再び「ぎゅ!」と握ったのであった。《完》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運命の再会!初恋は突然に! 東導 号 @todogo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ