第44話「最終決戦」
約束の土曜日午前11時……ついについに最終決戦。
私、お母さん、お父さんが待つ自宅に、遥、海斗君、
そして本日の主役『颯真君』がやって来た。
合流した7人で歓談、ランチを共にし、お茶を飲んで懇親、
……解散という予定である。
何も知らないお父さんは単に、10年前私を助けた颯真君に挨拶。
お礼を伝え、後日、岡林家へ赴き、改めて颯真君の両親へお礼を伝える。
……お父さんは、お母さんが告げた認識しか持ってはいないが、
私を始め、颯真君、遥、海斗君、お母さんの5人は違う。
『私と颯真君の交際』を、「お父さんにはっきりと認めて貰う」という目的がある。
昨日まで、放課後いろいろと、3人、もしくは部活のない時に海斗君も入り4人、
やりとりのシミュレーションを行い、
ラスボス『お父さん対策』は万全、やるべき事はやった感がある。
颯真君も、逆にお父さんとは同性との気安さなのか……
「お母さんに会う時ほどは緊張しないよ」と言い、
大きな期待と小さな不安の中、ラストバトルは開始された。
お母さんの時と同じく、まずは、颯真君のお披露目、つまり自己紹介。
ちなみにお母さんは、颯真君に対して初対面を装う。
前回はお母さんからストップがかかったが、今日は颯真君から先制攻撃!
つまりゲーム風に言えば、颯真君のターン。
颯真君、軽く息を吸い込み、一気に言い放つ。
「初めまして!
お母さんの時には事前に交際をオープンにしていたから、
お父さんへのセリフが若干違う。
しかし、セリフが
まさに立て板に水の颯真君。
さわやかな笑顔も併せ、ほぼ無敵無双状態である。
「あ、ああ……は、初めまして! り、凛の、ち、父で! も、森脇、け、健太です!」
対して、お父さんのターン。
大いに噛みながら、お父さんは一生懸命に声を張り上げたが、
でも!
けして、お父さんがこうなったのは、颯真君のセリフだけではない。
颯真君はお母さんが褒めた通り、
海斗君に勝るとも劣らないイケメンで、背が高くて、クールだけど優しく温かい。
バスケットボールをやっていたスポーツマンで成績も優秀。全てに完璧!
そして危ない時に私を助けてくれる、まさに白馬の王子様!
私にとって『最高の想い人だ!』と言い切れる。
え?
ノロケ?
うん!
そうかもしれない、いえ、きっとそう!
お母さんから、
「お前にはもったいないかも」
と、言われてしまったが……
再び言われないよう、頑張るぞ、私!
しばし経って、お父さんは落ち着きを取り戻し、
ちゃんとお礼を告げる。
「岡林颯真さん、娘と同じく、お伝えするのがとても遅くなりました。心よりのお礼を言わせてください。10年前、迷子になった凛をショッピングモールで助けて頂き、本当にありがとうございました! 深く深く感謝致します」
あらら、お母さんとほぼ同じ!
でも、一生懸命言ってくれたから許す!
というか、お父さん、お礼を言ってくれて、ありがとう!
続いて、お母さんも同じくお礼を言い、私は大感謝!
やっと10年前のけじめがつけられた。
後は、颯真君のご両親にもお礼を伝えるだけ。
私がお茶を淹れ、6人全員で歓談に入る。
ここで作戦の第二弾。
私はお父さん、お母さんへ、ご報告。
「ねえ、お父さん、お母さん、颯真君に私、この前も助けて貰ったんだ」
対して何も知らないお父さんは、
「え~!? また助けて貰った!? ほ、本当か?」
事情を知っているお母さんは、
「あらあら、それは、それは、ありがとうございます」
と笑顔。
私は、
「違う組の知らない人から、強引に私たち3人のお昼ごはんに混ざるって言われて、颯真君に助けて貰ったの」
と、相原さんの一件を告げた。
うう、ごめんなさい、相原さん。
貴方との一件、作戦に使わせていただきます。
と心の中で謝りながら、私は言う。
「颯真君が間に入って、話し合いで解決してくれて、もう二度と強引に誘わないって約束してくれたよ」
私の言葉に、お父さんは大反応。
「おお、そうだったんですか。一度ならず二度までも、凛を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「いえ、とんでもない。自分、小さい頃、凛さんを助けた時の記憶が
「成る程! 本当に感謝ですよ!」
娘・命のお父さんは大喜び。
つかみはOK!
という事で、次へ。
まず趣味の、出来れば共通の趣味ならば盛り上がる!
という、遥、海斗君のアドバイス。
これが作戦の第三弾。
「自分、バスケットボールをやっていたんです」
と颯真君が言うと、何と! お父さんがカミングアウト!
「おお、そうなんですか。バスケットボールかあ、懐かしいなあ!」
などと言い出した。
「何? お父さん?」
と私が尋ねると、お父さんは中学生の頃、バスケットボールをやっていたという。
おお、私、全然知らなかった!
そうしたら、颯真君も、
「はい、自分も中学までやっていましたよ」
と、言う。
お父さんは遠い目をして懐かしそうに、
「おお、そうか! そうか! 俺はそんなに上手くならずにやめてしまったが、スリーポイントシュートが好きだったなあ。遠くからボールを放り込んで、決まると気持ち良いんだよ」
「はいっ! 俺もです!」
「おお、俺と颯真君は、好みが合うなあ!」
などと、話は盛り上がった。
互いに話す口調も、ふたりとも『俺』とか、相当フレンドリーになっている。
やったあ!
ナイス、遥! 海斗君!
作戦大成功!
本当にありがとう!
そして話題は、自然と『この街』の事に……
うちのお父さんも、この街で生まれ、この街で育った生まれ故郷。
思い入れ、愛着は人一倍、
いや、もっとあると思う。
「俺、凛さんを助けた直後、A市へ引っ越して……この生まれ故郷の街へ10年ぶりに戻って来ると、父親から言われて、凄く楽しみにしていたのですが……街の様子が、10年前とは、すっかり変わっていて、本当にがっかりしました」
颯真君が残念そうに話すと、お父さんはまた大反応。
「うむ、俺もこの街で生まれ育ったが、少し前に再開発計画が施行されたからなあ……防災、バリアフリーなどの安全面と、街の利便性と発展の為には致し方なかったが、個人的には本当に残念だった」
と、ここでもバスケットボールに続き、大盛り上がり。
そして颯真君……
「俺も街の未来の為には仕方なかったと無理やり納得しました。ですが、全ての風景が変わってしまった中で、幼い頃出会った凛さんと再び出会い、彼女がこの街に居てくれた。……奇跡のように、また再会出来て、本当に嬉しかったんです」
と、目を輝かせ、真剣な表情で言い切った。
私には分かる。
これが、私へ告げた颯真君の本音だもの。
この気持ちが、
遠くに離れていた私の存在を、颯真君の心にはっきりと刻んでくれた。
そして、私も淡い初恋が本物だと確信したのだ。
お父さん、いつもならば……
私と男子の話だと、とても抵抗感を示すのに、
「うんうん、そうか! 分かるよ!」
とか、笑顔で言っている。
ここが勝負だ!
作戦の!
最終決戦の総仕上げだ!!
私と颯真君はアイコンタクト。
一緒に立ち上がった。
頑張れ!
私!
私と一緒に頑張って!
颯真君!
遥と海斗君も応援するように、じっと見守ってくれている。
「お父さん! お母さん!」
「お、おお! 何だ、いきなり! 凛! 颯真君も? どうした?」
「うふふ、凛ったら、珍しく大きな声を出すのね」
びっくりするお父さん。
意味ありげに微笑むお母さん。
「私は助けて貰ってから10年間、ず~っと颯真君が好きです! 初恋です! 今はもっと大好きなんです! だから私たち、お付き合いするって決めました! どうか、許してください!」
「俺も凛さんが初恋の相手です! 何回も凛さんを守って、凛さんが心の底から好きだと確信しました! 二度と離れ離れにならず、これからも守りたい! ずっと守りたい! そう思いました! 凛さんを絶対に大切にしますから、お付き合いする事を! どうか、許してくださいっ!」
きっぱりと言い切った私と颯真君は、
ふたりで一緒に手をしっかり握り、
お父さん、お母さんへ、深く頭を下げたのである。
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