第5話 ファミレスでの出来事③
そして、そんな空の頼みを聞いた詩月は、
「えっ、私の小説ですか?」
少し驚いた様子でそんな事を言ったので。
「ええ、そうですが……もしかして、水野さんが小説を書いているというのは僕の勘違いでしたか?」
空がそう質問をすると。
「……いえ、確かに私は小説を書いていますがどうして分かったのですか? ……もしかして、本当は最初のページだけでなく私の手帳の中を隅々まで見たのですか?」
詩月は少し怪しむような口調でそう聞いて来たので。
「いえ、僕は本当に最初のページしか観てません……ただ」
「ただ、何ですか?」
そう言われて、空は数秒悩んでから。
「実は僕は中学生の頃、ネット小説を書いていたんです、そして、その頃僕が使っていたネタ帳と水野さんの手帳の中身の感じが似ていたので水野さんの手帳は小説のネタ帳だと思っていたのですが、もしかして違いましたか?」
少し不安そうな口調で空がそう聞くと。
「……いえ、確かに青木くんの言う通り、あの手帳は私が書いている小説のネタ帳で私は今ネットで小説を書いています」
詩月は観念した様にそう言ったので。
「そうですか、それなら水野さんの小説を僕に見せて下さい、そうすれば僕は水野さんの手帳の中身の事は誰にも話さないと約束します」
空はそう言ったのだが。
「えっと青木くん、出来れば別のお願いにして貰えませんか? 流石に私の小説をクラスメイトの人に見せるのは少し恥ずかしいです」
詩月は顔を下に向けてそう言ったので。
「別に恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ、これでも僕はネット小説ならジャンル問わず色々な作品を読んで来たので、水野さんが執筆した小説がどんな内容でも僕は楽しんで読めると思えますし、余計なお世話かもしれませんが水野さんさえ良かったら作品の感想だって言えますよ」
空がそう言うと、詩月は顔を上げて。
「それならもし私が青木くんの書いた小説を観たいと言ったら、青木くんは見せてくれますか?」
詩月はそう言ったが、それを聞いた空はすかさず、
「それは無理です!!」
キッパリとそう言った。すると、
「えー、どうしてですか? 私の小説が見たいのなら青木くんの小説も私に見せて下さいよ」
詩月は少し意地が悪そうな笑みを浮かべてそう言ったので。
「そう言われても無理なモノは無理です、恥ずかしながら僕の小説は人様に見せれる様なクオリティの作品では無いので」
空がそう言って苦笑いを浮かべると。
「……そうですか、でもそれなら私も同じです、私もまだ人に見せて評価をして貰える様な作品を書けていないので、ネットならともかくリアルの知り合いに見せる訳にはいかないんです、だから青木くん、もう一度言いますが私へのお願いは別の事にして貰えませんか?」
詩月は改めてそう言ったので、それならばと空は別のお願いを考え始めた。
ただ、急に何かお願いをしろと言われても中々良いモノは思い浮かばず、空は数秒間頭を悩ませていたのだが。
「……あっ」
「青木くん何か思いつきましたか?」
詩月がそう聞いて来たので。
「ええ、確かに一つ思いつきましたが、でも、さすがにこれは……」
空がそんな風に言い淀んでいると。
「青木くんが何を思いついたのかは分かりませんが、言うだけ言ってみて下さい、どうしても無理な頼みごとなら私もちゃんと断るので」
「……そこまで言うのならお話しますが、ただ、引いたりしないで下さいね」
「……余程変な事を言われなければ大丈夫だと思います」
空の問いに対して詩月はそんな返事をして、空は若干の不安を感じつつも。
「水野さん、一日だけで良いので僕と二人でデートをしてくれませんか?」
空がそう言うと。
「成程、デートですか……えっ、デート?」
詩月はそう言った後。
「えっと青木くん、デートってあのデートですか? カップルが休日とかにやっている」
詩月は少し不安そうな口調でそう聞いて来たので。
「ええ、そのデートです」
空がそう言うと。
「えっと、青木くん、どうして私とデートをしようとそう思ったのですか?」
少し遠慮がちに詩月はそう聞いて来たので。
「その恥ずかしながら、僕は生まれてから今日まで彼女が居たことが一度も無くて、なので当前ですが女性とデートをした事も無いんです、だから単純に話しも合いそうでその上滅茶苦茶可愛い水野さんとデート出来たら学生時代のいい思い出が出来るなとそう思ったのですが……僕なんかとデートをするなんて水野さんは嫌ですよね、それに水野さんはとても可愛いので彼氏くらい居そうですし」
空はそう言ったが、その言葉を聞いた詩月は少し顔を下に向けると。
「もう、急に可愛いとか言わないで下さい、私は別にそんなに可愛くも無いですし彼氏も居た事はありませんよ、でも、そうですね……」
そう言って、詩月は少しの時間悩んだ後。
「……分かりました、青木くん、今度私と一緒にデートしましょう」
詩月はそう言ったので。
「そうですか、やっぱり駄目ですよね……え? 良いですか?」
「はい、良いですよ、ただ幾つか条件があります、それを全部飲んでくれるのなら私は青木くんとデートをしても良いですよ」
詩月はそう言ってから幾つか条件を言って来て、空はそれらを全て了承したので二人は今度デートをする事になった。
ただ、それでも空は恋人ではない自分なんかとデートをして良いのかと再度彼女に確認したのだが。
「別に良いですよ、私がネット小説を書いている事は青木くんにはもうバレてしまったので隠さずに話をしますが、私は恋愛小説をメインに小説を書いていて今執筆してる作品も恋愛モノなのですが、私は今まで彼氏が居たことは一度のなくて、なので当然ですがデートをした経験も一度も無いんです」
そこまで言うと、詩月は一度言葉を切ってから。
「それで最近ふと思ったんです、私の小説が余り人気が出ないのは私に恋愛経験が全く無いからなのではと、でも、私は今は彼氏が欲しいと思ってなくて、それなら恋愛経験を積む機会は無いかなと最近少し悩んで居たのですが……」
そこまで言うと詩月は顔を上げて空の目を見て来たので。
「成程、水野さんが僕の無茶な提案に乗ってくれた事にも納得出来ました、そういう事なら水野さんの恋愛経験の少しでも足しになれるようデートプランを考えるのでデートの相手をよろしくお願いします」
空が改めてそう言うと。
「……分かりました、青木くんも納得してくれた様ですし、そうですね……来週の日曜日位に私と一緒にデートをしましょう」
空の話を聞いて詩月は納得した様子でそう言った。
そうして二人は話し合いを終えて、お互い手元にあったドリンクを飲み終えると会計を済ませてファミレスを出た。
そして、空は詩月と一緒に駐輪場に向かっている途中。
「でも、今日は少し意外でした」
空がそう言うと。
「えっ、何がですか?」
詩月はそう聞いて来たので。
「いえ、僕の勝手なイメージだと水野さんはもっと物静かで何と言いますか少し人見知りしてそうなイメージだったのですが、思っていた以上に水野さんはちゃんと話をするんですね」
かなり失礼な事を言っていると自覚しつつも、空は思っていた事を素直に口にすると。
「……いえ、確かに私は青木くんの言う通り静かで結構人見知りをする性格です、でも、そうですね……」
そこまで言うと、詩月は数秒間悩んでから。
「もしかしたら私は青木くんと性格が合っているのかもしれません、殆ど会話をした事が無い人とこんなに話しが出来たのは青木くんが初めてですし、今は興味が無いですがもし私に恋人が出来るのなら青木くんみたいな優しい人が良いのかもしれません」
少し照れ臭そうな笑顔を浮かべて詩月は空の顔を見上げながらそんな事を言ったので。
「……そうですか」
そう言って空は詩月から顔を逸らしたのだが、その言葉を聞いた空の心臓はドクドクと強く動いているのを感じていて。
(……これだけで水野さんの事を好きになりそうになるなんて、さすがにちょろすぎるだろ)
声には出さず空は自分自身に突っ込んだ。
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