第2話 放課後の約束
次の日、いつも通りの時間に登校した青木空は真面目に授業を受けつつも昨日拾った手帳を水野詩月に返そうと思い、時々窓際の席に座っている彼女の姿を観ていたのだが。
(……中々良いタイミングが無いですね)
空は心の中でそう呟いた。
空としては一刻も早く水野詩月に手帳を返して彼女を安心させてあげたいと思っていたのだが、空は親しい友人も居なくて休憩時間はずっとライトノベルを読んで過ごしている影の薄い存在であり。
そんな空が急にクラスメイトの、しかもクラスメイトの男子からは密かにクラスで一番可愛いと言われている水野詩月に話しかければ青木空という地味な人間は間違いなく悪目立ちしてしまうので、クラスでは目立たず静かに過ごしたい空としてはそうなる事は避けたかった。
そして、そんな事を思いつつも空は真面目に授業を受けて、3時間目の授業を終えるチャイムが鳴り終わり国語の担当教師が教室から出て行くと。
「ガラッツ」
水野詩月は自分の席から立ち上がると、そのまま一人で黙って教室から出て行ったので。
(……よし)
空は心の中で短くそう呟くと黙って席から立ち上がり、彼女の背中を追って自分も教室を出て廊下を歩いている詩月の後を追って行った。
すると彼女は女子トイレに入って行ったので、空は少し離れた所で彼女が出て来るのを待っていた。
その後、数分経つと詩月は一人で女子トイレから出て来たので。
「あの、水野さん」
空がそう声を掛けると。
「えっ、あっ、えっと、青木くん、どうかしましたか?」
突然声を掛けられて詩月は少し驚いた様子だったが、直ぐに気分を落ち着かせて彼女はそう聞いて来たので。
「その、間違っていたら申し訳ないのですが、もしかしてこれは水野さんのモノですか?」
空は少し遠慮がちにそう言ってポケットから昨日拾った手帳を取り出すと、それを観た詩月は一瞬大きく目を見開いた後。
「……はい、その手帳は私のモノです」
少し下を向いて、詩月はそう言ったので。
「そうですか、実は昨日、水野さんが図書室から帰った後にこれが床に落ちていたので、もしかしたら水野さんのモノかもしれないと思ったのですが、当たっていた様で良かったです、あっ、当然ですがこれはお返ししますね」
そう言って、空が手帳を渡すと。
「……ええ、ありがとうございます、青木くん」
そう返事をして詩月は手帳を受け取ったので。
「それでは僕はこれで」
空は自分の役目は終わったと思ってそう言ってその場を後にした。
その後は特に何もなく、普段通り授業を受け終えて放課後を迎えると。
今日は図書委員の仕事も無いので帰宅部の空は教科書を鞄の中に仕舞うと、空は鞄を持って教室を出た。
そして、階段を降りて下駄箱を目指していると。
「あの、青木くん!!」
背後から急に声を掛けられたので少し驚いて振り返ると、そこには急いで追いかけて来たのか水野詩月が肩で息をしながら少し疲れた様子でそう言ったので。
「あの水野さん、大丈夫ですか?」
少し心配した様子で空はそう聞くと。
「はあはあ、ええ、大丈夫です……あの、青木くん」
「はい、何でしょう?」
空がそう言うと、詩月は改めて空の顔を観ると。
「今日はこの後何か予定はありますか?」
詩月はそんな事を聞いて来たので。
「この後ですか? いえ、特に何もありませんが」
空が正直にそう答えると。
「そうですか……えっと、それなら青木くん」
「はい、何でしょう?」
「……その、もし良かったらこの後少し私に付き合って貰えませんか?」
詩月は真面目な表情を浮かべてそんな事を言ったので。
「……ええ、分かりました」
それとなく事情を察した空はそう言って彼女の誘いに乗った。
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