同級生の美少女の手帳を拾った結果、彼女の偽の彼氏になりました
向井数人
第1章 キッカケ
第1話 落とし物の手帳
「……そろそろ時間ですね」
木曜日の放課後、図書室の壁に掛けてある時計を確認した
図書室の受付から立ち上がり、まだ室内に人が残っていないのか見回りに回った。
「とは言っても、この時間まで残ってる人なんて居ないと……」
そこまで言って空は足を止めた。
青木空の視線の先には図書室の机に突っ伏している綺麗な黒髪ロングヘアの女子生徒が居て空は一瞬驚いたのだが。
図書委員として図書室の施錠を任されている青木空としてはこの時間までこの部屋に残っている生徒を無視する訳にはいかず、空は彼女の傍へと歩み寄ると。
「……まさかとは思いましたが本当に水野さんでしたか」
そこに居たのは、空が密かに予想していた通り彼と同じ2年A組に所属している女子生徒であり。
男子生徒の間で密かにクラスで一番可愛いと言われている少し小柄で童顔の美少女である
そんな彼女は図書室の窓から差し込む夕日に照らされていて、目を閉じて気持ちよさそうに寝息を立てていたのだが、そんな彼女の寝顔を見て空は無意識に、
「……可愛い」
そんな事を呟いたのだが空はその場で頭を振ると。
「ごほん、何を言っているんだ僕はこんなの誰かに聞かれたら気持ち悪がられるだろ」
咳をしてから誤魔化すようにそう言って、その場から数歩進んで彼女の寝ている直ぐ傍まで行くと。
「えっと、水野さん起きて下さい、もう図書室を閉めますよ」
空は寝ている彼女にそう話しかけたのだが、彼女は「すう、すう」と小さく寝息を立てているだけで全く起きる様子は無く。
「……困りましたね」
そう言って、空は右手で自分の頭をかいた。
このままでは図書室を施錠出来ないので、空は詩月を起こして図書室から出て行って貰わないといけないのだが。
今のご時世、空が彼女の体を揺すって起こそうとしたりしたら下手をしたらセクハラとして訴えられてしまうかもしれないのでそんな事をする訳にはいかず。
どうやって彼女を起こすか、空は数秒間悩んだ後。
「……仕方ないですね」
空はそう呟くと一応室内を見渡して他の人が居ない事を確認すると。
空はゆっくりと寝ている彼女の耳元に自分の顔を近づけた。そして……
「すぅ……水野さん、朝ですよ!!」
「ひゃっ!?」
耳元で突然そんな大声を聞いた水野詩月は小さく悲鳴を上げてその場から飛び起きた。そして、
「えっ、あれ? ここは……」
そう言って、水野詩月は周りを見渡していたので。
「おはようございます、水野さん」
空がそう声を掛けると。
「えっ、あれ? 青木くん、どうして……」
空の方を観ては彼女は驚いた様子でそう聞いて来たので、空は簡単に今の状況を伝えた。すると、
「えっ、あっ、そうなんですね、すみません青木くん、直ぐに出ていきますね」
もう図書室を閉める時間になっていると知った水野詩月は慌てた様子でそう言うと、机の上に置いていた自分のノートや筆記用具などを急いで自分の鞄の中に入れてから。
「えっと青木くん、その私の事を起こしてくれてありがとうございました……えっと、それじゃあ失礼します!!」
寝顔を観られたと思って恥ずかしくなったのか、詩月は頬を少し赤く染めると早口でそう言って図書室から駆け足で出て行った。
そして、そんな彼女の背中を見送った空は、
「さて、それじゃあ僕も施錠をして家に帰りますか」
そう言ってからその場を後にしようと思い、さっきまで水野詩月が寝ていた席の方に目を向けたのだが。
「……あれ」
先程まで彼女が座っていた席の近くの床に一冊の手帳が落ちているのを見つけたので、空はその手帳を拾うとこの手帳をどうすべきか数秒間悩んだ後。
(中身を見るのは申し訳ないけど、持ち主の名前が書いてあるかもしれないし……そのすみません)
心の中で謝ると空はゆっくりと手帳の一ページ目を開いた。そして、
「えっ、これは……」
最初のページを観て空は数秒間固まったのだが、その後直ぐに手帳を閉じると。
「これは何と言いますか、他の人に中身を見られる訳にはいきませんね、とはいえ今から追いかけても多分追いつけないでしょうし、これは明日水野さんに直接渡す事にしましょう」
空はそう呟くと、拾った手帳と読みかけのライトノベルを持って自分以外誰も居なくなった図書室を後にした。
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