第6話

 種の知らせがやってきたのは、ちょうどその頃だった。ジョアンはもう、三十四歳になろうとしていた。

 体を壊して帰ってきた男が、あらたに種男になるという。ジョアンは、その話を聞いて、どきりとした。


「ああ、私......」


 慌てて浮かんだ気持ちを打ち消す。しかしその感情は、何度も何度もわいて出た。だってもしかしたら、これが最後かもしれない。胸をかきむしるような、かゆみに似た欲求が、夜ごとジョアンを襲った。


「あんた、種をもらいなよ」


 フィオネが、ジョアンにそう言った。

 ジョアンはハサミを持つ手を、ぶらんとおろした。ただ、フィオネの眉間や目じりに刻まれたしわを、ジョアンは見つめた。フィオネは、よく澄んだ芯のある女の目つきをして続けた。


「あんた、迷ってるだろう。なら産んじまいな」


 フィオネの目は、ジョアンのすべてを見透かしていた。ジョアンはそのことに羞恥を覚えるよりも、安堵を覚えた。


「あんたも女だもの。子供を産みな」


 十八歳の頃なら反発していた言葉が、何故かとてもありがたかった。泣きたいくらい、身にしみた。

 自分は、女なのだ。女はこれなのだ――そんな自分を、抱きしめられた。そんな気がした。

 裏切ることは怖くて仕方なかった。けれど、もっと怖いことのために、ジョアンは決意した。それからその日がくるまでずっと、ジョアンは夜ごと「考え直そう」と言いながら泣いた。


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