第5話

 道具をしまいおえ、ジョアンは、ジーンの花を眺める。あたり一面に壮観に広がる花々は、いつもジョアンの心を照らしてきた。

 しかし今はもはや、慰めにしかならない。慰めとしても、一時のごまかしにしかならない。激しい胸の焦燥や不安こそが、ジョアンの本質となっていた。

 ジョアンは、下腹に手をやる。そこにはジョアンの女が、どうしようもなく渦巻いている。ジョアンは泣き叫びたくなる。

 けれど、実際は、何も言うことはない。ただ、ひたすらに無言で苦しいのだ。


「カルロスを、待っているわ」


 ジョアンは自分を鼓舞しようと、言葉にしてみた。そして、その空虚さに笑った。

 すべてを失っても、自分にはカルロスがいる。ジーンの花がある。何故なら、自分は産むために生まれていないのだから。そう思ってきた。

 しかしジョアンにはもう、そんなものは少女の夢想にしか思えなかった。

 産むためだけに生まれてきた。それの何がいけない?


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