第5話
道具をしまいおえ、ジョアンは、ジーンの花を眺める。あたり一面に壮観に広がる花々は、いつもジョアンの心を照らしてきた。
しかし今はもはや、慰めにしかならない。慰めとしても、一時のごまかしにしかならない。激しい胸の焦燥や不安こそが、ジョアンの本質となっていた。
ジョアンは、下腹に手をやる。そこにはジョアンの女が、どうしようもなく渦巻いている。ジョアンは泣き叫びたくなる。
けれど、実際は、何も言うことはない。ただ、ひたすらに無言で苦しいのだ。
「カルロスを、待っているわ」
ジョアンは自分を鼓舞しようと、言葉にしてみた。そして、その空虚さに笑った。
すべてを失っても、自分にはカルロスがいる。ジーンの花がある。何故なら、自分は産むために生まれていないのだから。そう思ってきた。
しかしジョアンにはもう、そんなものは少女の夢想にしか思えなかった。
産むためだけに生まれてきた。それの何がいけない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます