第2話

 水の少ないジョアンの村は、草木が根付かず、うえや渇きといつも隣り合わせでいた。

 ジーンの花だけが、村のかつえを癒やしてくれた。

 ジーンの花はごく少量の水で育ち、花にたっぷりの水分を含んで咲く不思議な花で、村のものはこの不思議な花を食べ、永らえてきたのだ。

 しかし村長が十五年前、水路の計画を打ち立てた。


「ジーンだけではいけない。おれたちは新たなことをしなきゃならない」


 しわがれ、かさついた声で言った。閉じられた目は、刻まれたしわに埋まるようだった。

 そうして村の男たちから有志をつどい、彼らは水路をひらく旅へ出ることになった。

 後の子孫のため、村の繁栄のため――皆、希望と決死の思いに目をたぎらせていた。

 カルロスも、そのうちの一人だった。


「行ってくるよ、ジョアン」


 カルロスは、ジョアンの手を握り、言った。固い声には、熱っぽかった。


「さみしい思いをさせる。けれど、これは君と僕の未来に必要なことだと信じてるから」


 ジョアンは、涙をたえ笑った。そして、カルロスを誇りに思うと言った。


「あなたが頑張る分、私も村を支えて待っているから」


 その言葉に一切の偽りはなかった。

 ジョアンはジーンの花を育てるのが上手かったし、実際にやりがいも見出していた。何より、まだ十八歳だった。ぼんやりとした不安をあえて形作るより、自分の愛と楽しみに生きるほうが、ずっとやさしかった。

 ジョアンはカルロスを見送って、同じく待つ女たちと一緒に、ジーンの花畑を新たにひらいた。


「帰ってきたら驚くだろうね」

「もしかするとすぐ帰ってきちゃって、『これだけ?』って言われるかも」


 ジョアンたちは笑いあった。

 空は青く強く、どこまでも高かった。胸のうちに確かに悲哀はあった。しかしそれは、ただ愛しい人の不在を嘆くものだった。

 カルロスが尊いつとめを果たすとき、自分もまた胸をはれるような働きをしていたい。ジーンの花を愛するとカルロスと心がつながるようだ。ジョアンは、とてつもなく立派な気持ちになれた。

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