とりあえず

@rabbit090

第1話

 くだらないなって、もちろん分かっていた。

 結花ゆかげんなりとした様子で、廊下を歩いていた。

 「早坂さん、来て。用事があるの。」

 慌てた様子で彼女は言った。

 けど、私には分かっていた。やらかしたことなど、もちろん承知の上だった。

 でも、

 「早く、早く。急いで。」

 急かすから、何?と思ったけれど、いつもと同じように長々としたお説教だと思っていたのに、違った。

 「みんな、もう集まってるのよ?お昼休み、どこ行ってたの?」

 「え?いや。」

 結花は、答えられなかった。

 一人だけ外へ行って、男と会っているだなんて、そんなこと言えるわけがない。そもそも、結花が所属している会社は、副業禁止だし。

 微妙な顔をしながら立っていると、手を引かれた。

 「あなたにも関わることよ、だから急いで。」

 「…はい。」

 ただ事ではない、と思っていた。

 彼女は、いつも私のことを説教することはあっても、優しくすることなど無かった。

 それは、ただただ悪いだけの予感だった。


 「どうしたの?すっごい疲れてるよね。」

 「うん?」

 パパとママは私の様子を窺っている。

 「………。」

 黙るしかない、だって、

 「”みなさん集まってもらって、悪いね。”」

と、そこから始まった話の結末は、会社がなくなるという事だった。

 そんなこと、あるの?って思ったけれど、私は心のどこかで喜んでいた。

 だって、もう会社なんて、仕事なんてやめたい、と思っていたから。

 でも、そしたらまた、パパとママに迷惑をかけてしまう。

 大学のお金だって、払ってもらったのに私は、昇給の見込みも低い事務員として、最低賃金と大差ない生活をしていた。

 「ご飯、いる?」

 心配そうに私を覗き込んでくるままの姿が、痛々しかった。

 私は、もう逃げ出したかった。

 こんな安穏とした毎日に不満を持っていた。

 けど、本当は分かっている。

 人は一人でなんて生きていけないということに、気付いている。

 だから、どこにも行けない。

 私は弱い存在だった。


 それから、しばらくして、私はアルバイトとして生活を始動した。

 折良く、前職が倒産という形での退社であったため、似たような仕事をさせてくれる求人を見つけ、そして採用された。

 私は、一人になることにした。

 一人に、もうずっと一人に。

 誰かに、とかそういう事はやめようと思った。

 誰かがいないと、だなんてやめよう。

 だって、私には罪があるから。

 誰にも言えないけれど、私は、誰か、といることがほとほと嫌になっていた。

 「誰も、助けてはくれない。」

 それを一番よく分かっているには、私だけだ。

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