タスク

灰田宗太朗

タスク

 寸断された右腕が宙を舞う。つい先程まで男の肩から付いていたそれは、ビルの壁面から排気される茶色がかった煙を巻き込み、弧を描いて落下した。黒いビニール袋へ包まれた粘性のゴミが優しく受け止める。

 男はズボンのベルトに挟んであった拳銃へと手を伸ばす。しかしそれを行う利き手は既に存在してない。改めて左手でそれを抜こうとする。

 男が最後に見たのは刀を咥えた女の顔だった。それが眼前まで迫り自身を首とその下へと分類した。

 女が頭を振ると、刀に付着した血が飛び散り壁面の汚れを増やした。それと同時に刀から微かに発せられていた、高音が止んだ。それは高周波刀特有の物である。身体を折り曲げると、左大腿の鞘へと口から直接、刀を収める。

 女には両腕が無かった。肩から先はそのまま鍛え上げられた身体へと流れ込み、それが当然であると主張している。

 女は振り返ると、自身の後ろで震えていた者を一瞥した。十代後半程の少女だ。身なりは良いが、髪は荒れ、肌の色は悪い。この震えも恐怖だけから来るものではない。この少女は男の顧客だったのだ。女はこの様な人間が嫌いだった。直ぐに視線を外し血の中を後にした。


「刀は?」

 駅から乗り込んできた黒服の老人は、女に小さな声を投げた。自動化された路面電車の車内には二人しかいない。老人は女の前の座席に座る。

「アオサって書いてあるビルの裏。西側の。室外機の下にある。今回のやつ話と違ったよ。ほぼ素人だ」

 女は窓の外を見つめている。

「このまま周り続けていれば、いずれ当たるよ。辛抱さ」

「やるせないんだよ」 

 路面電車が停止し、女が立ち上がった。市営のそれに女が金銭を払う必要はなかった。

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タスク 灰田宗太朗 @Hai_daS

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