第23話 侵入者

身体を洗って食事を終えたセラ達冒険者六人が冒険者財団ファウンデーション四階の大部屋で普段着に着替えて休もうとしている頃


「ケイ、透明マントはもういらないんじゃない?」


 セラは寝る前だというのに正装を解かないケイを見て声をかけた。


「オレは盗賊だ。あらゆる危険リスクを考えるのが仕事なんだ。

 みんなには悪いんだが今日は寝る前に最低限の防具は着ておいてくれ。

 そばにすぐ使える武器も持っていたほうがいい。

 とくにアキラとヤスマはだ。

 できれば短剣とか小剣なんかの部屋で使いやすいのがいいな。

 短剣が無いなら俺の予備を貸してやる。

 弱いが魔法もかかってる。今晩、敵の襲撃がある可能性は高い」


「ケイは気にしすぎだよ…… いえしすぎよ。ここは冒険者財団ファウンデーションなんだから。ここが襲われるなんて聞いた事ないわ」


「普通ならそうだろうな。だがオレの盗賊の勘が囁いている

 なんならクリモールの豹頭に賭けてもいい」


「えう~、せっかくの柔らかいベッドなのにぃ。もう野宿みたいに服を着て寝るのはやだよお」


 ケイの言葉を聞いてメグは心底嫌そうな顔をした。


「ゲ**の世界ならそうだろうな。んっ、んっ、だがここは現実の世界だ。

 クリモールの十二か条にも書いてある。

 盗賊たるものは何も信用するな、たとえそれが親であっても。

 あの商人のオッサンは裏切る可能性が高い。

 有能な商人であればあるほどな」


「いやだってケイ、あのおじさんは危険を犯して俺達を町まで案内してくれたんだぜ。裏切るんなら、もっと早くに裏切ったんじゃないの?」


 アキラが珍しくケイに食ってかかる。


「そこが商人だよ。オレ達を奴らに突き出すより、情報を売った方が金になる。

 戦闘になれば白銀級のオレ達が強いのはわかっているだろうしな。

 狡猾な商人らしい安全な金の稼ぎ方だ」


「なんて奴なんじゃ。しかしクラッカー殿、ここは冒険者財団だぞ。

 財団にそんな無謀なことをする奴がおるんだろうか?」


「いるさ。金でなびく奴はどこにでもいる。

 特に暗殺者ギルドとかならな。

 とにかく外の宿で仮眠を取っておいてよかった。今日は流石に俺も疲れている。

 ここで寝ずの番をするのはちょっとキツいからな」


 そう言ってケイは自分のベッドの毛布の下にタオルなどを敷き詰め、膨らみを作ると部屋の隅へと座り、フードを深く下して姿を消した。

 そして室内灯のシャッターを半分降ろし、部屋を薄暗くする。

 薄暗闇の中、みんなは毛布の下で武器を握りしめ眠りについた。

 そしてみんなが寝静まり夜半過ぎになった頃、入り口の扉が静かに開くと忍び足で侵入者が一人、部屋に入ってきた。

 フードを被りマスクをした相手の姿はよくわからない。体つきからどうやら男のようだ。ベッドに寝息を立てて眠る冒険者達の姿を確認すると笑みを浮かべ、机の上に置いてあるルーン文字の描かれた皮の鞄を手に取った。それを持ち上げ部屋を立ち去ろうとする。だが鞄を持って入り口を向いた瞬間、その人影は大きく断末魔の叫び声を上げた。


「何があった? 襲撃か?」

「みんな、すぐに起きて! 敵襲よ」

「えう~」


 前もって警戒していたアキラとセラがベッドから飛び起きる。

 アキラはダガーを、セラは小型のハンマーを構えた。メグもダガーを握りしめ、寝ぼけ眼で敵の姿を確認しようと首を振る。ヤスマとルナは素早くベッドから飛び出すと入り口の前から誰が出てきても対応できるように武器を構えた。中央の手ーブルの側で黒いフード姿の男はうずくまり、うめき声をあげている。

 

「ルナ、ヤスマ、良い陣取りだ。引き続き敵を警戒しろ。コイツは俺が対応する」


 だがケイが短剣を構えたまま待っていると、うずくまった男の声はあっという間にかぼそくなり、そのまま頭を床に付けて動かなくなった。男の背中の黒い染みから床に赤い血だまりができて拡がっていく。どうやら致命傷の一撃だったようだ。扉を開けて夜目の効くルナとヤスマが廊下の様子を探る。他に人の気配は無いようだ。だが二人は廊下に出て次の襲撃に警戒を続ける。しかしいくら待ってもそれ以上の襲撃は無いようだった。

ケイは窓の外に光が差すのを見て侵入者のフードを外し、光るダガーで侵入者の顔を確認した。まだ10代の若い男のようだった。


「思ったより若いな、使い走りか。コイツは捨て駒にされたな。

 どうりであっけなかった訳だ。例のブツを盗みに来ただけかもしれん。

 流石にファウンデーションに喧嘩を売ろうというバカはコイツしかいなかったようだ」


「でもケイ、冒険者財団に泥棒を送ってくるなんてただ事じゃないわ。

 こんなの****には無かったし」


 セラはシナリオと言おうとして口をモゴモゴさせた。


「思ったとり、あの豚野郎が俺達を売りやがったのさ。

 この世界じゃ良くあることだ。盗賊より性質が悪いのが商人って奴だ。

 クリモールへの誓いをしていないからな。

 しかも地下迷宮の手紙で見たように、あいつらは子供の人身売買をしているような悪徳商会だ。次に会ったらタダじゃおかねえ」


「えう~、でも今夜はぐっすり眠れるって言ってたのにぃ。

 騙されたあ~」


「まんまと騙されたな。

 ただ今回は駆け出しのコイツ一人だったから助かったが、

 オレが警戒してなきゃコイツみたいに、目を覚ますことができないぐらい

 グッスリと眠ることになったのは、バーバラお前だったかもしれないぜ」


「えう~」


「すっかりしてやられたよ。

 だけどファウンデーションを敵に回してまで危険を冒した理由はなんなんだ?

 セラ、あの不気味な黄金像はそんなに価値があるのか?」


「価値はあるわ。ザナックにとってアレは自分の命そのものよ。

 この像にあるダイアモンドは最低でも1万金貨ゴールドの価値がある。

 できれば壊したくなかったんだけど、

 お金を惜しんでみんなに犠牲が出るトコだった。ごめんなさいね」


 セラはそう言いながら侵入者が持ちさろうとした魔法鞄を取り上げ、そこから黄金像を取り出してみんなに見せた。鞄から出した黄金像は胸のダイアモンドがまるで心臓の鼓動のように点滅をはじめ、薄暗い部屋をさらに不気味な雰囲気に変えた。


「おいっセラ、その黄金像ヤバイんじゃないのか。

 あの光る、光るアメーバを呼び出したりはしないよね?」


 アキラはそう言って、迷宮の最後に出てきた、光る眼のアメーバを思い出して身体を震わせた。


「テテリリ、テテリリ……」


「ぎゃあああっ、出たあ、アレだ、アレが出たあ!」


 アキラが突然、部屋の中で鳴り出した音を聞いて叫び声を上げる。その様子を見てケイは大声で笑いだす。


「テッテ、リッ、リッ、リィ~

 どうよ、オレ様の声帯模写は?」


「うわあ、ケイやめてくれ~、その音は俺に効く」


 アキラは必至の形相でケイに嘆願すると迷宮の最後に出てきた光る眼のアメーバを思い出し身体を震わせた。


「アキラの言うとおりコレはかなりヤバイ代物よ。ただしザナックのいる神殿にわざわざ行かなくても、簡単にアイツを倒す方法があるわ」


 セラはそう言って部屋の暖炉に炭を放り込んで火力を強くした。パチパチと音を立てて勢いよく炎が燃え上がる。すると、階下から騒ぐ声が聞こえてきた。


「ちょっとあなた達、ここは冒険者財団ですよ。

 冒険者以外の方が許可なく入ることは禁止されています」


「いや、俺も元冒険者だ。だから入る資格がある。


「なら他の兵士たちを外に出してください」


「いや、ここには我々から秘宝を盗んだ罪人がいる。

 タレコミがあったんだ。その調査に来ている。

 邪魔だてすれば貴様も同罪だぞ?」


「ドレイク司令官、奴らは上にいるようです。突入しましょう」

 

「よし、近衛騎士団は我と共に来い。盗人共をひっ捕らえるぞ」


「勝手に上がられては困ります。冒険者財団は治外法権なんですよ。

 こんな無法は許されることではありません」


 魔術師のエミリアが必死の様子で兵士たちを食い止めようとする。


「よし、この女も捕えろ。盗人の仲間だ」


「いやああっ。、やめてえっ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

みんなで異世界ロールプレイ〜最強TRPGの伝説 みこがみ明 @mikogami2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ