第9章 日記(2)

すると、波は少しずつ実体化して、ゆらを海の底へと誘っていった。視界もないような暗い、暗い深海のようだ。つらさ、苦しさ、痛み、かなしみのような感情が、ゆううつが集まったような感情が、ずっとずっと積もって溶けている液体みたいだ。でもなんだか安心する。何十年もこの感情にのまれていた日々。懐かしい、安心するようになったネガティブの沼で息をしていたことを思い出していた。小さく声が聞こえる。スノウちゃん?でも、心の中では響かない。

「・・・い」

かすかに聞こえる言葉。

「・・しい」

スノウちゃんよりももっと幼い声だ。小学生、いや、もっと幼い。3歳くらいかな。

「もっと・・・」

「さみしいよ」

真っ暗闇の中から聞こえる声はどこから叫んでいるんだろう。まだ海の底ではない。もっと下の方から聞こえる。ゆっくりと静かに、そしてもっと複雑にさせていた感情の奥の奥深くにあの子はいた。小さな女の子。二つくくりの赤い服を着た目の丸い女の子。それは私だ。あの時に作った感情をもって寂しそう。

「お母さん。どうして私を見ないの。私のこともっと見て」

小さな子が持てる言葉で精一杯助けを求めていた。小さな妹ができた時に、生まれた感情。私もかまってほしかった。寂しかった。愛してほしかった。もっともっと。親が子供を世話することが大変だとその時に思っていたから、そこから私のお姉ちゃん人生が始まった。親が大変だから、私はお姉さんだから、我慢すればいい。心配かけちゃダメ、甘えちゃダメなんだと自分で鍵をかけた「私も愛されたかった。なんで私を愛してくれないの」「愛してほしいという気持ち」ゆらはあの時のことを思い出していた。


 ゆっくりとゆらはその子に近づいた。かがみこんでそっと顔を見つめた。

「・・・・・・・・・・・だあれ?」じっと黙って見つめていた女の子はやっと話した。そして不思議そうに見つめた。


「ゆらちゃん?」ゆらは話しかけた。


「なんで知ってるの?」


「お友達だから知ってるの。お母さんはどこ?」



「お母さんは忙しいからいないの。赤ちゃんのお世話しないといけないから。」


「ゆらちゃんさみしくない?」


「寂しい。なんで、ゆらちゃんのこと見てくれないの。悲しい。赤ちゃんきてから私いらないの。」


そっとゆらは小さなゆらを抱きしめた。

「大丈夫。お母さんはゆらちゃんのこと大好きなんだよ。ただ上手にできないだけなんだよ。私が代わりにそばにいてあげるからね。もう寂しい思いさせないよ。ずっと見てるからね。がまんしないで、全部話していいんだよ。私が全部聞いてるから。お母さんができなかったこと、全部してあげるから。私はゆらちゃんのこと誰よりも大切だから。大丈夫。ひとりでいい子にならないでね。」

「ゆらちゃん。うれしい。」少し微笑んだ小さなゆらは太陽みたいな心をもっているみたいだ。

きっとこの子がぐずったら、私にも伝わるから、大人な私は抑えたり、我慢したりしすぎてた。この子のことを大切にしてあげないと。多分本当の心の声はこの子が発しているんだろう。私には遠すぎた記憶。ココにあった。難しくしているのは私だったのに。


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やさしい真面目は海を淀みに変えるほどに人の気持ちまでもらって、自分の心と混ぜて、わからなくなっていた。ずっとずっと気づかないうちに。自分の大切に怯えていたのかもしれない。守れる力も、自分を受け入れる力もなかったから。明日を生きる気力もどこかで失った。それが普通になってしまったの。生きることどうしてあきらめていたんだろう。どうして私はシンプルなことに気づけない。

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お得意のぐるぐる思考が始まったときには、その子はいなくなっていた。


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憂鬱のお姫様 Snow night @snownight11

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